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梅原淳「たかが鉄道、されど鉄道」

羽田空港アクセス新線の全貌…東京駅と直通18分、他主要駅も多数直通でモノレール危機?

文=梅原淳/鉄道ジャーナリスト
羽田空港アクセス新線の全貌…東京駅と直通18分、他主要駅も多数直通でモノレール危機?の画像1東京モノレール羽田空港線(「Wikipedia」より/Cassiopeia sweet)

 羽田空港は2017(平成29)年の1年間に8540万8975人、1日平均23万3997人の利用者でにぎわい、開港以来最多を記録した。国際空港評議会(ACI)が発表した空港ランキングによると、羽田空港の利用者数はアトランタ(米国)、北京(中国)、ドバイ(アラブ首長国連邦)の各空港に次いで4位に付け、2016年の5位から順位をひとつ上げたという。

 世界的にも重要な空港である羽田空港には京浜急行電鉄の空港線、東京モノレールの東京モノレール羽田空港線の2つの鉄道が乗り入れる。2012(平成24)年度に両路線が羽田空港に設置している各駅で乗り降りした人の数は合わせて5400万977人、1日平均14万7544人だ(両線とも国内線ターミナル内の駅と国際線ターミナル内の駅との間の相互利用者を除く)。内訳は京浜急行電鉄が3008万9874人(1日平均8万2213人)、東京モノレールが2391万1103人(同6万5331人)で、シェアは前者が55.7パーセント、後者が44.3パーセントである。なお、いま挙げた利用者数には送迎者や空港に勤務している人たちの数も含まれていると考えられるが、空港利用者の過半数が利用している点はまず間違いない。2つの鉄道は羽田空港へのアクセスに欠かせない交通機関だといえる。

 頼みの綱とはいうものの、京浜急行電鉄、東京モノレールとも羽田空港の利用者にとっては不満が募る存在であることもまた確かだ。都心側のターミナルは前者が品川駅、後者がモノレール浜松町駅で、決定的に不便とまではいわずとも、東京の都心である東京駅や最大の副都心である新宿駅との間で乗換なしで行き来できないという課題は残されている。

 そのようななか、JR東日本は2018(平成30)年7月3日に「変革2027」と銘打ち、同社グループの長期経営計画を発表した。ここで注目を浴びたのは「羽田空港アクセス線構想の推進」と題した新たな鉄道の計画だ。

 羽田空港アクセス線とは、同社の東海道線の浜松町駅から分岐する東海道線の貨物支線と新たに建設する線路とを組み合わせた路線を指す。具体的にいうと、浜松町駅から田町駅付近を経て品川区八潮三丁目にある貨物駅の東京貨物ターミナル駅との間の7.1kmは既存の貨物支線を旅客列車が走行できるように改築し、東京貨物ターミナル駅からは羽田空港の国内線ターミナル内に設置される羽田空港新駅(仮称)を経て羽田空港国際線ターミナル駅へと至る約8.1km(地図上での筆者の計測)は新たな線路を敷くことによって誕生する約15.2kmの鉄道である。

 JR東日本によれば、羽田空港アクセス線が完成すれば、羽田空港国際線ターミナル駅を出発した列車は浜松町駅から東海道線に直通して東京駅へ直行できるようになるという。現在、東京駅と羽田空港との間は京浜急行電鉄、東京モノレールの利用とも乗換が1回必要となり、所要時間は最短で28分程度だ。羽田空港アクセス線であれば乗換はなくなり、所要時間は約18分へと短縮され、東京都心と羽田空港とのアクセスは飛躍的に改善されるであろう。

首都圏各地と羽田空港との直通運転

 羽田空港アクセス線には、さらなる構想が立てられている。東京駅だけでなく、東京都内や首都圏各地と羽田空港との直通運転だ。

 JR東日本によると、東京駅に乗り入れた羽田空港アクセス線の列車は上野東京ラインを通じて東北、高崎、常磐の各線に直通が可能となる。このため、大宮、宇都宮、高崎、水戸の各駅方面と羽田空港との間も乗換なしで行けるようになるであろう。同社はこのルートを東山手ルートと呼ぶ。

 連絡線を設け、東京貨物ターミナル駅付近を走る東京臨海高速鉄道りんかい線にも乗り入れる構想も立てられた。りんかい線はJR東日本京葉線や東京地下鉄有楽町線の列車も発着する新木場駅とJR東日本山手線の大崎駅との間を結ぶ路線で、羽田空港と大崎駅方面、それから新木場駅方面とのアクセスも改善される。

 現在、りんかい線は大崎駅で埼京線とも相互直通運転を行っているので、羽田空港アクセス線の列車も渋谷、新宿、池袋の各駅へも乗換なしで直通可能だ。新宿駅と羽田空港との所要時間は現在最短で約43分のところ約23分と、こちらも劇的な短縮が実現する。JR東日本はこのルートを西山手ルートと称すると発表した。

 いっぽう、新木場駅と羽田空港駅との間は現在、乗換が1回必要で約41分を要しているところ、乗換なしで20分でアクセス可能となるという。こちらは臨海部ルートと呼ばれる。なお、新木場駅ではりんかい線と京葉線との間で線路が接続されており、今は行われていない相互直通運転を羽田空港アクセス線の開業とともに実施する構想もあるという。実現すれば羽田空港と千葉方面との間のアクセスも飛躍的な向上が期待される。

「国際競争力の強化」も主眼

 羽田空港アクセス線の構想はJR東日本が独力で考案したものに感じられるが、実はそうではない。交通政策審議会が2016(平成28)年4月20日に答申した「東京圏における今後の都市鉄道のあり方について」のなかで、「国際競争力の強化に資する鉄道ネットワークのプロジェクト」で整備する意義のある鉄道のひとつとして国土交通大臣に答申したものだ。さらには、交通政策審議会も羽田空港アクセス線を以前の2000(平成12)年の答申から引き継いでおり、東京の都市計画上必要な鉄道として長らく整備を待っていた路線だということとなる。

 JR東日本は羽田空港アクセス線を10年後の2028年ごろには開業させたいという。開業となれば、JR東日本の鉄道網を利用して東京都内はもちろん、首都圏の主要駅から羽田空港への直通列車が走るようになると考えられる。現状では京浜急行電鉄、東京モノレールの列車とも利用者は空港に用のある人だけではなく、沿線の住民の利用も多い。このため、大きな荷物を抱えた状態で朝夕のラッシュに巻き込まれるといった状況も生じていた。羽田空港アクセス線の直通列車は純粋な空港アクセス列車となるので、スピードアップだけでなく車内の快適度も増す。

 難点を言えば、1km当たり200億円以上と見込まれる建設費を償還するために京浜急行電鉄や東京モノレールよりも少々高額な運賃、料金が設定されるかもしれない。それでも、高くてもリムジンバスと同額程度に収まれば、定時性に優れた羽田空港アクセス線の優位は揺るぎないであろう。

 羽田空港アクセス線の総事業費は約3200億円と見込まれる。先に挙げた答申からこの路線は国や東京都にとって必要度の高いものであるため、JR東日本だけではなく、国や東京都が負担する点もほぼ確実だ。その割合は今後決められるとして、同社が支払う額は多くても全体の3分の1程度、殊によると10分の1程度にとどまるかもしれない。

 JR東日本によると、羽田空港アクセス線の開業で鉄道の輸送力は現状の1.8倍となるそうだ。冒頭に挙げた1日平均14万7544人という数値をもとに考えると、26万5000人余りとなり、増加分の約11万7000人をまずは羽田空港アクセス線の1日当たりの利用者数として同社は見込んでいることとなる。

 加えて、京浜急行電鉄や東京モノレールから移る利用者数も考慮に入れれば、羽田空港アクセス線の1日当たりの利用者数はさらに増えて13~15万人となりそうだ。1日当たり15万人の路線というと、現状では埼京線の電車が乗り入れる通勤路線のJR東日本川越線(大宮-高麗川間)が挙げられる(14万8247人:2012年度)。つまり、羽田空港アクセス線を開業させることで同社は川越線クラスの有望な通勤路線をひとつ手に入れることができるのだ。

東京モノレールに損失?

 JR東日本にとっては課題も残る。東京モノレールは、2017年3月31日現在で同社が79パーセントの株式を所有する子会社だ。このため、羽田空港アクセス線の開業で東京モノレールが打撃を受けるような事態が生じれば、JR東日本グループ全体としてはかえって利益を減らしてしまうのではないかという懸念である。

 いうまでもなく、JR東日本が中期経営計画に羽田空港アクセス線の構想の推進を織り込んだということは、この問題について同社グループでは解決したのであろう。具体的には、羽田空港アクセス線によって得られる利益が東京モノレールの損失よりも大きいと見込まれたのだ。

 東京モノレールは2012年度に1日当たり12万3628人の利用者がおり、羽田空港を利用するために乗車している6万5331人を差し引いても5万8297人の利用者が残る。沿線の利用者のための鉄道として注力していくという方策が考えられるであろう。

 補足すると、JR東日本が羽田空港アクセス線の羽田空港新駅と羽田空港国際線ビルとの間を他の区間と同時に建設するかは何ともいえない。建設費は高いうえに、京浜急行電鉄、東京モノレールと並行する区間でもあるからだ。羽田空港アクセス線の開業実績を見て着工という可能性は大いに考えられる。当面の間、この区間は東京モノレールに任せ、羽田空港新駅では互いに乗り換えしやすい構造としつつ東京モノレールも盛り立てるという方策が現実的だ。

 モノレールは一般的な鉄道と比べて敷設しやすいという特徴をもっているので、ルート変更を実施して羽田空港アクセス線ではカバーできないエリアを目指すという構想も立てられるかもしれない。ルート変更先の候補は現在JR東日本が建設中のいわゆる品川新駅だ。東海道線の田町駅と品川駅との間に2020年の開設が決まったこの駅は東京の都心部では例を見ない大規模な再開発が実施され、羽田空港と直結される鉄道の開業は都市の発展をさらに加速させるものとなるであろう。

 羽田空港アクセス線によって東京や首都圏の鉄道の姿は変貌するとともに、人の流れも変わる。そうしたなかで、京浜急行電鉄の対抗策も気になるところだ。両社が切磋琢磨してよりよい羽田空港アクセスの実現を望みたい。
(文=梅原淳/鉄道ジャーナリスト)

梅原淳/鉄道ジャーナリスト

梅原淳/鉄道ジャーナリスト

1965(昭和40)年生まれ。大学卒業後、三井銀行(現在の三井住友銀行)に入行し、交友社月刊「鉄道ファン」編集部などを経て2000年に鉄道ジャーナリストとして活動を開始する。『新幹線を運行する技術』(SBクリエイティブ)、『JRは生き残れるのか』(洋泉社)、『電車たちの「第二の人生」』(交通新聞社)をはじめ著書多数。また、雑誌やWEB媒体への寄稿のほか、講義・講演やテレビ・ラジオ・新聞等での解説、コメントも行っており、NHKラジオ第1の「子ども科学電話相談」では鉄道部門の回答者も務める。
http://www.umehara-train.com/

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