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暗記直後の飲酒、記憶力上昇との研究結果…発想力を要する仕事、飲酒しながらで成果向上

文=堀田秀吾/明治大学法学部教授
暗記直後の飲酒、記憶力上昇との研究結果…発想力を要する仕事、飲酒しながらで成果向上の画像1「Gettyimages」より

 暑さにうだる日々が続いています。こんななかで恋しくなるのは、きりっと冷えたビールやシャンパンなどのアルコールですね! とはいえ、仕事に多忙な毎日。なかなか飲みに行く時間は見つかりません。もし暑い日中に、たとえばランチタイムにビールが飲めたなら最高ですよね。

 欧米では、ランチのお供にビールやワインを飲む姿を見かけます。いろいろな面で欧米化している日本ですが、それでも、まだまだ仕事中にアルコールを飲むのはタブーだと思う方がきっと大半でしょう。

 日本で昼間にアルコールを飲まない理由は、大きく分けて、おそらく2つあると思われます。ひとつ目は、酒を飲んで仕事をするのは、仕事に対して真剣さが感じられないから、そして2つ目は、アルコールが入ると頭が働かなくなって、仕事にならなくなるからでしょう。

 ひとつ目の理由は日本文化の価値観に基づくものでしょうから、仕方ないにしても、2つ目の理由については、少々検討する余地があります。 お酒を飲むと本当に頭が働かなくなるのでしょうか?

 それに対するひとつの答えとなるのが、イリノイ大学の心理学者、ジャロスツらの研究です。ジャロスツらは、むしろアルコールを摂取したほうが、シラフの時よりもクリエイティブな作業については脳がよく働くということを明らかにしました。

 ジャロスツらの研究では、21歳から30歳の男性40人を20人ずつ、アルコールを摂取したグループとそうでないグループに分けました。アルコールを摂取するグループには、ウォッカとクランベリージュースを混ぜ合わせたもの(1:3の割合)を体重に応じて適量飲ませて、酔った状態にしました。

 そして、パソコンの画面に映し出された言葉の問題について、各問1分間の制限時間内で答えを入力するよう指示しました。結果、正答数は両者で違いがないものの、アルコールを摂取したグループのほうが回答が早く、また2倍近く洞察に富んだ回答をしていました。アルコールの摂取は、発想力を高めるということなのでしょう。

お酒を飲んで発想力を高める

 これは、アイデアを思いつく瞬間を意味する「ユーレカ Moment」の研究をしている神経科学者、ノースウェスタン大学のビーマンらの研究ともつながってきます。 ユーレカモーメントとは、いわゆる「アハ! 体験」のことを意味します。ビーマンらは、被験者にパズルを解いてもらい、その間の脳の活動をfMRIと脳波計を使って観察する実験を行いました。集中しすぎている参加者は、問題解決に必要な発想力の部分がうまく働いていないということがわかりました。一方で、リラックスした状態で問題を解いた場合には、ユーレカモーメントをつくり出す脳部位の活動が活発となり、問題解決能力が活発になりました。

 ビーマンらの実験により、ユーレカモーメントが発生する5秒前には、α波が大量に出ているということがわかりました。α波の放出量を増やすには、人間がリラックスしていることが必要です。アルコールを摂取すると発想力が豊かになるのは、おそらくお酒によってリラックスし、α波の放出量が増加したことによって生じた効果のようです。これは、ちょうど散歩中やシャワー中などに新しいアイデアを思いつくのと同じです。

 お酒で発想力が良くなる一方、脳の処理速度のほうはというと、ミズーリ大学のソールツらが行った実験では、21~30歳の36人ずつの男女、計72人を対象に、ウォッカを使ってアルコールを摂取したグループと、アルコールを摂らないグループ、プラセボのグループに分けて、視覚的な刺激として「色」の配列を見せ、聴覚的な刺激として「音」を聞かせて、それらの刺激の記憶を調べました。

 結果、記憶力に大きな違いはないものの、課題をこなしているときの脳のワーキングメモリーの処理速度が少し遅くなることが観察されました。飲みながら記憶課題をやるのは少し効率が悪いということなのでしょう。

 先ほどのジャロスツらの実験結果とは真逆の結果となっていますが、それは、これらの2つの実験では異なる種類の作業をしたからだと思われます。少なくとも、これらの結果が意味するのは、発想を要する作業だと処理速度は早くなり、記憶に関する作業だと処理速度が遅くなるということでしょう。

飲む前に覚えると記憶力が高まる

 おもしろいことに、記憶力に関しては、お酒を飲む直前に暗記したほうが良いという実験もあります。エクセター大学のカーライルらの研究で、88人の被験者に単語を覚える課題をやってもらい、その後アルコールを摂取するグループと、まったく摂取しないグループに分けてそれぞれその日を過ごしてもらいました。翌日、同じ課題をやってもらったところ、アルコールを摂取していなかったグループはわずかに正答率が下がったのに対し、アルコールを摂取していたグループは約10%正答率が上がりました。 

 まとめると、発想力を要するような作業であれば、アルコールは有益に作用する一方、記憶などの作業の場合は、アルコールを飲みながらやるのはよくないということになるのでしょう。

 発想力が必要な作業があったとしても、まだまだ日本の文化では、さすがに職場あるいは就業時間中にアルコールを飲み始めるというのは勇気の要ることでしょう。ですから、まずはユーレカモーメントを引き出すために、お手軽にα波を増加させる方法として、職場で実践できる自分のリラックス方法を用意しておくことが重要そうですね。そして、何か暗記しなければいけないことがあるときは、勉強や仕事の終わる直前に暗記をやって、終わった後にパーっと飲みに行くというのが良さそうです。
(文=堀田秀吾/明治大学法学部教授)

堀田秀吾/明治大学法学部教授

堀田秀吾/明治大学法学部教授

 専門は社会言語学、理論言語学、心理言語学、神経言語学、法言語学、コミュニケーション論。研究においては、特に法というコンテキストにおけるコミュニケーションに関して、言語学、心理学、法学、脳科学など様々な学術分野の知見を融合したアプローチで分析を展開している。執筆活動においては、専門書に加えて、研究活動において得られた知見を活かして、一般書・ビジネス書・語学書を多数刊行している。

Twitter:@syugo_h

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