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○○が全国ワースト1の秋田県に若者の移住が激増している理由…世界が注目する地域に?

文=布施翔悟/清談社
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○○が全国ワースト1の秋田県に若者の移住が激増している理由…世界が注目する地域に?の画像1「なまはげ太鼓」の演奏風景(「Wikipedia」より/Akira Kouchiyama)

「出生率」「死亡率」、出生数から死亡数を引いた「自然増減率」、「脳血管疾患率」「婚姻率」、死因別死亡率の「がん」、「自殺率」……この7項目すべてで全国ワースト1となった地方をご存じだろうか。それは秋田県だ。国立社会保障・人口問題研究所によれば、現在約98万人の県人口も2045年には約60万人に減少するという。

 筆者は、その秋田県の出身だ。父方の祖父は脳梗塞で倒れ、近隣住民には自殺した人もいる。「このまま地元にいても未来がない」と考えて、大学進学を機に秋田を離れて上京した。

 一方で、これらの項目が全国ワースト1となったことに対しては「ネガティブな数値がクローズアップされたものにすぎない」との見方もある。たとえば、あまり知られていないが、秋田県では今、若者の移住者などが増加しているという。

 秋田県秋田市にある国際教養大学教授の熊谷嘉隆氏は、「秋田県は世界のモデルケースとして、これから注目されていく地域です」と指摘する。

東京より豊かな生活を可能にする「3つの環境」

 まず、移住者の増加について説明しよう。秋田県の人口減少は、学校を卒業した若者が県外に流出してしまうことが主な要因とされてきた。しかし、近年は移住者やAターン(秋田県へのUターン・Iターンの総称)が増加傾向にあるという。

 なぜ、秋田県への移住者が増えているのか。熊谷氏は、その理由として「教育環境」「住環境」「自然環境」の3点を挙げる。

「秋田県は文部科学省の全国学力テストで、小中ともにトップクラスの成績です。また、賃貸住宅の家賃も安く、持ち家率は全国で2位。さらに物価も安いので、エンゲル係数は東京に比べてかなり低い。確かに給与水準は東京に比べて3割ほど下回っていますが、教育環境、住環境、豊かな自然環境が相まって、生活水準は東京よりも相対的に高いといえます」(熊谷氏)

 給料はそれほど高くないかもしれないが、価値観を「豊かに生きること」に置けば、若者にとって秋田は魅力的な土地になり得るわけだ。

 実際、近年は地元企業に就職する若者が増え、県外から移住して新しい事業を立ち上げる若者も増加している。17年度の秋田県への移住者数は177世帯314人で、過去最高だった16年度の137世帯293人を上回ったほどだ。

 秋田県中央部に位置する南秋田郡五城目町では、ベンチャー企業が廃校になった小学校をシェアオフィスにする取り組みを始め、そこをベースに起業する若者も出てきている。

「最近は、スキルの高い若者の移住者が目立ちます。そういった若者が成功例をつくることで、そのネットワークに引きつけられた移住者が増えるという好循環が生まれる。また、県外に出ようと考えていた地元の若者が革新的な取り組みを目の当たりにすることで、彼らの秋田への眼差しも徐々に変化しています」(同)

 地方の若者が「都会に行きたい」と思うのは自然なことだ。しかし、そのうちの何割かが戻ってくれば、都会で培ったネットワークや経験を地方で生かすことができる。それが今、秋田で起きているのだ。

秋田県の自殺率やがん死亡率が高いワケ

 そもそも、なぜ秋田県は脳血管疾患率、がん死亡率、自殺率などで全国ワーストなのか。

「秋田県民は飲酒量が多く、漬物など塩分の高い食べ物を好む傾向があります。がんや脳血管疾患率が高いのは、それが原因でしょう。そして、健康状態が悪くなれば将来を悲観して自殺する人が増える。悪循環に陥っているのです」(同)

 確かに、脳梗塞で亡くなった筆者の祖父は大の酒好きで、塩辛い漬物をつまみにして毎日のように日本酒をあおっていた。地元の知り合いにも酒好きが多い。

 加えて、自殺率の高さには気候も関係しているという。秋田県では冬季の晴天率がかなり低く、筆者の実感としても晴れの日がほとんどない。正直いって、冬の間は憂鬱で仕方がなかった。さらに、見栄っ張りな県民性のためか、秋田県民は貯蓄も少ない。それも自殺率の高さに関係しているという。

「秋田県は人口10万人当たりの美容院の数が全国で1位。そのことからわかるのは、見栄っ張りでほかの地域よりも恥を感じやすい県民性だということです。その場その場で見栄を張るので、お金もコツコツ貯めずにパッと使ってしまうタイプの人が多い。当然、生活は苦しくなり、そうなれば周囲の視線に耐えられない。結果、自殺してしまう……。そんなケースも少なくないと考えられます」(同)

 もっとも、現在は自殺者の数は激減している。自殺率は依然高いものの、03年に年間559人だった自殺者が17年には245人まで減少。この自殺者の減少率は県人口の減少率を上回る。

 熊谷氏は、自殺者の減少には「健康面の改善が影響している」と指摘する。

「秋田県側も県民の健康面に対する危機意識は持っており、塩分量を控える運動を行っています。その結果、成人の1日当たりの平均食塩摂取量は16年に10.6gと、11年に比べて0.5g減少しました。飲酒量の多さについても、若者の酒離れもあって激減しています」(同)

 実際、各疾病の発症率は徐々に改善しており、自殺者数も今後はさらに減る見通しだという。

秋田県が世界のモデルケースになる理由

 しかし、移住者が増え、県民の自殺率が低下しても、人口減少に歯止めをかけることはできない。それは、秋田県のみならず日本やほかの先進国も同じだ。

 熊谷氏は、だからこそ「秋田県が世界のモデルケースになり得る」と話す。

「先進国はどの国も人口減や高齢化を避けては通れません。秋田県のケースは、その点で先行しているというだけの話です。だとすれば、どの国や地域でも直面する現象に対して、秋田県がどのように対処していくのか。ある意味で、かなり注目される立ち位置といえるのではないでしょうか」(同)

 そこで多少なりともポジティブなデータを示すことができれば、秋田県が人口動態の分野において重要な役割を果たす可能性もある。では今、秋田県にはどんな施策が求められているのだろうか。

「秋田県に長年住んできた大人たち、とりわけ中高年が、『やりたいことをやってみろ、責任は俺が取る』と、若者の新しい取り組みや冒険心を支援する文化を持つことでしょう。若者が魅力を感じない県になったとすれば、それは大人たちの責任でもある。従来のやり方を続けてどうにかなるものじゃないということは、はっきりしているわけですから」(同)

 重要なのは、未来を担う若者を中高年が支援すること。そこに、秋田県ひいては日本全体の生き残りのカギがあるといえそうだ。
(文=布施翔悟/清談社)

清談社

清談社

せいだんしゃ/紙媒体、WEBメディアの企画、編集、原稿執筆などを手がける編集プロダクション。特徴はオフィスに猫が4匹いること。
株式会社清談社

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