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安倍政権、外国人労働者受け入れ推進の一方、日本語教育体制の不備が深刻化

文=編集部
安倍政権、外国人労働者受け入れ推進の一方、日本語教育体制の不備が深刻化の画像1第4次安倍改造内閣が発足(写真:つのだよしお/アフロ)

 2008年に福田康夫首相(当時)が「留学生30万人計画」を打ち出し、政府は2020年までに30万人達成を目指してきたが、法務省の調査によると、在留外国人留学生数は17年に31万1000人を記録した。来日する新規留学生数は東日本大震災で急減したが、翌年から急増に転じた。12年に5万7500人だったが、17年には12万3200人。5年で2倍以上に増加した。

 国別の傾向ではベトナムの増加が顕著で、17年の在留数は中国の12万4000人に次ぐ7万2000人を記録。この動向と比例するように、ベトナム人留学生の不法残留者数と刑法犯の検挙人数も右肩上がりで増え続け、とくに不法残留者数の急増が目につく。17年には中国を抜いて最多となった。

 法務省の資料には「学種別に新たに不法残留となった者を比べると、大学や専修学校と比べて日本語教育機関から不法残留となる者が多い」と報告されている。不法残留者の属性は日本語教育機関に留学するベトナム人が突出しているのだ。ベトナム人留学生の管理監督が日本語教育機関に一層問われてくるが、どこまで対応できるだろうか。

 日本語教育機関とは、一定の要件をクリアして法務省の認定を受けた学校で、「告示校」ともいわれ、在留資格認定証明書の代理申請を行うことができる。機関数は10年から増え始め、10年に449機関だったが、18年5月時点で683機関になった。

 国も日本語教育を重視し、さる6月15日に閣議決定した骨太方針に「日本語教育機関において充実した日本語教育が行われ、留学生が適正に在留できるような環境整備を行っていく」と表明している。

日本語教師の不足

 しかし、この分野も人材不足に瀕していて、新規開設校は教員確保に四苦八苦しているのが現状だ。人材不足の背景には、この業界固有の事情が潜んでいる。

 日本語教員には資格要件がある。(1)日本語教育能力検定試験合格者、(2)4年制大学卒業で420時間の日本語教師養成講座受講修了者、(3)4年制大学の日本語教育専攻卒業者。この3つのどれかに該当すれば資格を取得でき、教員としてのキャリアは非常勤講師からスタートして、告示校で3~4年のキャリアを積んでから常勤講師に昇格するのが通例である。

 つまり非正規労働者からスタートするのだが、新卒であれ、他業界からの転身であれ、この売り手市場の時代に、当初から非正規雇用を選ぶ人がどれだけいるのか。給与水準の高い職業なら非正規のリスクも覚悟できるだろうが、日本語教員は薄給である。

 非常勤日本語教員の年収は180~200万円前後、常勤教員は300~350万円ともいわれている。国税庁の「民間給与実態統計調査」(2016年分)では、民間企業の給与所得者の年間平均給与は422万円であり、日本語教員と民間企業の平均年収には相当な格差がある。

 ある日本語教育機関関係者はこう説明する。

「この給与水準では、男性が妻子を抱えて住宅ローンも支払うというような生活設計は不可能に近い。だから日本語教員の多くが女性。しかも学生が欠席したら電話をかけて様子を確認したり、欠席が続くとアパートまで出向いたりすることもある。国際貢献への情熱を持っていないと務まらない仕事で、教員たちは情熱に支えられて働いているようなものだ」

 給与水準が低いのは、日本語教育機関は私立学校法の対象外であるため、私学助成金が支給されないからだ。主に授業料で成り立っているが、留学生の多くはASEAN諸国の出身だから、高い授業料を設定できない。おのずと教員の人件費に充当できる原資も限られてしまう。

 都内のIT専門学校経営幹部は「留学生市場の拡大を見込んで日本語学校の設立が増えるだろうが、収益性が良くないので当校は視野に入れていない」と語る。

議員立法の動き

 この窮状に対して、超党派の日本語教育推進議員連盟が動きだし、議員立法で制定をめざす「日本語教育推進基本法」(仮称)の原案を了承した。原案には日本語教員の処遇改善について、次のように言及されている。

「国内外で日本語教育に従事する者の資質・能力の向上、確保及び待遇の改善が図られるよう、日本語教育に従事する者の養成及び研修体制の整備、国内の日本語教師の資格に関する仕組みの整備、日本語教師の育成に必要な高度な専門性を備えた人材の育成その他の必要な施策を講ずる」

 だが、かりに制定に至ったところで、財政健全化に向かう時勢に、日本語教員の年収が抜本的に改善される予算措置が講じられることは考えにくい。

 現役世代には厳しい職業だが、「日本語教員の養成講座の受講生には50代女性が多い」(関係者)という。この現状を踏まえ、定年退職者を含めミドル層からの人材発掘を模索する意見も耳にする。当面の人材なら確保できるかもしれないが、一般に、どんな組織でも若い年代の人材を揃えないと中長期の展望を描きにくい。

 骨太方針には、建設、造船、宿泊、農業、介護の5分野で25年までに外国人労働者を50万人雇用する方針が盛り込まれた。だが、その礎となる日本語教育体制が追いついていない。
(文=編集部)

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