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物流業界、「働き方改革倒産」増加の懸念…ドライバー不足も深刻で新規受注困難の業者も

構成=長井雄一朗/ライター
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物流業界、「働き方改革倒産」増加の懸念…ドライバー不足も深刻で新規受注困難の業者もの画像1「gettyimages」より

人手不足倒産」が日本企業を襲っている。

 帝国データバンクの「『人手不足倒産』の動向調査(2018年上半期)」によると、18年上半期(1~6月)の人手不足倒産【※1】は70件発生し、負債総額は106億7700万円だった。件数は3年連続で前年同期を上回り、13年1月の調査開始以降、半期ベースで最多となった。さらに、年間合計で初めて100件を超えた17年(106件)を上回る勢いで推移している。

 また、帝国データバンクでは、13年1月から18年上半期までの5年半で発生した倒産を集計・分析している。同社産業調査部情報企画課の加藤達朗氏は「人材流出で事業遂行が困難になり、倒産に追い込まれるケースが散見される。今後、人手不足倒産は小規模企業を中心にさらに増加する恐れがある」という見方を示す。加藤氏に、人手不足倒産の実態について聞いた。

「建設業」「サービス業」が6割超を占める

――人手不足倒産について、注目すべき点はなんでしょうか。

加藤達朗氏(以下、加藤) 業種別で見ると、5年半累計の最多は「建設業」(139件、構成比33.3%)で、次いで「サービス業」が123件(同29.5%)となっており、この2業種で全体の62.8%を占めています。

 建設業は慢性的に現場職人や施工管理者の不足に悩まされており、工期延長などによる労務費の上昇に苦しんでいます。建設業では、職人を直接雇用するのではなく外注で仕事を委託するケースが多いのですが、その外注費の上昇が利益を圧迫して倒産につながるケースが増えています。

 人手不足で倒産する企業は、もともと業績が厳しい場合が多いです。そこに追い打ちをかけるように人手不足という要因が加わり、最終的に倒産に至ってしまいます。

――業績が悪ければM&A(合併・買収)の食指も動きませんね。

加藤 人手不足で倒産する企業の多くは小規模企業です。家族経営あるいは少人数で事業を行っているため、そもそもM&Aの対象になりません。負債規模別件数を見ると、「1億円未満」が38件と過半を占め、前年同期(19件)の2倍になっています。5年半累計でも「1億円未満」(205件、構成比49.2%)が最多で、やはり小規模企業の倒産が約半数を占めています。

――建設業以外の業種はいかがでしょうか。

加藤 18年上半期の業種別件数を見ると、「サービス業」が最多の19件(前年同期比26.7%増)を占めています。その中に含まれるのですが、業種細分類別(5年半累計)では、「老人福祉事業」が26件で2位、「受託開発ソフトウエア」が19件で4位となっています。これらは人手の確保がサービスの品質に直結する業種なので、人手不足がサービスの低下につながり、売り上げに打撃を与えます。ちなみに、同1位は「道路貨物運送」の29件、同3位は「木造建築工事」の23件となっています。

――「賃金を高くすれば人手を確保できる」と考えると、人手不足倒産には「給料不足倒産」という側面があるのではないでしょうか。

加藤 基本的に、人手の確保には賃金がもっとも大きな要素になります。そのため、やはり大手や準大手の企業と比較して中小企業が不利になってしまいます。今後は、中小企業から大手企業に人材が流出するケースがさらに増えるかもしれません。また、「引き抜き」とまではいきませんが、資格取得者などを優遇する企業に人材が流れる傾向も出てきました。介護などは、特にその傾向が強いようです。

 今はハローワークに行かなくても、ネットですぐに採用情報を確認できる時代です。そのため、中小企業にとっては人手確保と同時に人材流出の防止が喫緊の課題になっています。

「笑う大手」と「泣く中小」の二極化が加速

――大手への一極集中が加速するということですね。

加藤 前述の業種細分類別で「労働者派遣」が17件で6位になっていますが、同業界も、やはり大手企業は業績が良いのです。全体的には採用を拡大する企業が増えるなか、小規模の派遣会社は派遣スタッフの確保が難しくなっています。そのため、クライアントからの要請にこたえられずに倒産するケースもあります。大手の派遣会社はスキルアップ制度なども充実させているため、登録数が増え、新規受注にもこたえられる。結果的に、大手に人と仕事が集中することになります。

――「好調な大手」と「苦境の中小」という二極化の構図ですね。

加藤 「二極化」というのは正しい表現でしょう。成長している企業は好条件を提示できるため人も仕事も集まり、そうでない企業は人材が流出し仕事の量も質も低下する。そして、最悪のケースでは倒産に至ります。そのため、中小零細企業は人材確保のために相当な戦略を練る必要があります。

――6月の有効求人倍率(季節調整値)は1.62倍で、1974年1月(1.64倍)以来の高い水準でした。人手不足倒産は、雇用情勢が改善されるという意味では「良い倒産」といえるのではないでしょうか。

加藤 それは立場によります。企業の倒産は休廃業・解散と違い、債務者がいるなかでの事業停止ですから、必ずしも「良い倒産」ということはできません。

 2017年の企業倒産件数は8376件と8年ぶりに前年を上回っていますが、低水準の状況に変わりはありません。背景には、金融機関が債務の条件変更や返済猶予に柔軟に対応しているという事情があります。いわば金融機関も企業を倒産させないようにしているわけですが、それがいつまで続くかが問題です。

 本来であれば「債務の返済を猶予している間に本業が立ち直る」というシナリオを描いていたはずですが、そうはなっていません。時限立法の「中小企業金融円滑化法」の趣旨はそういうものでしたが、当初の予定通りになっていないため、期限後も事実上の延長措置が取られています。

経営者の高齢化で「あきらめ型倒産」増加か

――今後の流れについては、どう見ていますか。

加藤 金融機関の姿勢が変わって「すぐに債務を返済してください」となるのは考えにくいでしょう。とはいえ、金融機関がさらなる債務の条件変更や返済猶予に応じるためには、それなりの経営計画の策定が必要になります。そこで必要なのは“軍師”です。売り上げや利益について具体的なビジョンを描けるブレーンの存在が肝要になってきます。

 また、全国の社長の平均年齢は59.5歳で過去最高となっています。債務の返済が猶予されているうちに、「これ以上粘っても仕方ない」とあきらめるケースもあるかもしれません。

――経営者の高齢化も関係してくるということですね。

加藤 赤字が続いて人材の流出が止まらなければ、「もはやこれまで」と事業継続をあきらめる。そんな事例が増えてきているのは、社長の高齢化も一因でしょう。そんな「あきらめ型倒産」が、今後は増えていくかもしれません。親族に引き継ぐなどの事業承継を行わずに自分の代で終わらせる場合は、倒産ではなく休廃業・解散を選択することも多いです。そのため、17年の休廃業・解散件数は2万4400件と倒産の2.9倍に達しています。

 また、小規模の会社であれば社長のモチベーションなどは従業員にダイレクトに伝わります。そのため、「条件のいい他社に移ろう」という意識も強くなり、人材流出を助長することにもつながります。

――人手不足に関して、今後の注目業種はなんでしょうか。

加藤 「道路貨物運送」です。景気回復や通販市場の拡大で配送需要が高まるなか、ドライバーの確保が追い付かず、新規受注難から資金繰りが悪化して倒産に至るケースが目立ちます。トラックなどを増やしても、ドライバーがいなければ、その投資は無駄になります。また、「働き方改革」によってドライバーの長時間労働が是正されることで、それまでと同じ量の仕事を回すのが難しくなってきています。

――これからの企業の成長要因は、人材確保と生産性向上にありそうですね。

加藤 メーカーなどの自動化・機械化できる業種は、投資すれば生産性が向上します。しかし、運輸や介護などは機械化が難しく、それらの業種は今後も人手不足倒産が増えるでしょう。シニアや外国人の活用も議論されていますが、業種によっては言葉の壁があったり資格が必要だったりするケースもあります。基本的には従業員の処遇を改善すること、最終的には既存の従業員の定着率を上げることが、企業の成長のカギとなるでしょう。
(構成=長井雄一朗/ライター)

【※1】
従業員の離職や採用難等により収益が悪化したことなどを要因とする倒産(個人事業主含む、負債1000 万円以上、法的整理)を「人手不足倒産」と定義

長井雄一朗/ライター

長井雄一朗/ライター

建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス関係で執筆中。

Twitter:@asianotabito

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