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舘内端「クルマの危機と未来」

スバル、代名詞の水平対向エンジンで大規模リコール…費用膨大、深刻な経営問題に発展か

文=舘内端/自動車評論家
スバル、代名詞の水平対向エンジンで大規模リコール…費用膨大、深刻な経営問題に発展かの画像1スバル・BRZ(「Wikipedia」より/Flickr upload bot)

 スバルは昨秋以降、無資格検査問題や排ガス・燃費データの改ざん、ブレーキ検査の不正などが相次いで発覚し、その対応のために大幅な減益に陥っている。それに加えて、これら一連の不正とはまた別のリコールを届け出る。

 リコールの詳細は11月5日の連結決算(2018年4~9月期)の発表時に説明するというが、同時に発表される2019年3月期の業績予想が大きく見直されそうだ。そうなると今回のリコールは、経営上、重大な問題に拡大する可能性を持つ。

半年で42%、301億円の純利益の減少

 このリコールは一連の不正とは異なり、品質関連のものであるといわれる。そうなると部品交換が必要な場合が大半であり、エンジンの部品となれば修理も複雑で高度な技術が求められ、スバルのいう数十万台規模の回収となれば、長期間の対応とならざるを得ない。

 こうしたことから18年4~9月期の連結純利益が前年同期比42%減少、従来予想の791億円を301億円下回り490億円になると10月23日に発表した。一方、営業利益は従来予想を490億円下回った。前年同期比71%もの減少であり、その原因には上記の新たな品質問題によるリコール費用の多くが計上されていると想像できる。

エンジンに致命傷、バルブスプリング折損か

 リコールされるのは「バルブスプリング」と呼ばれる、エンジンの極めて重要な部品であるとされる。バルブスプリングは、シリンダーに空気を吸い込むときに開き、空気と燃料の混合気を圧縮するときに閉じられる吸気バルブに取り付けられる。また、混合気が爆発・燃焼した後、燃焼後のガスを排出するときに開く排気バルブにも取り付けられている。

 現在の高性能、高効率のエンジンには1気筒につき吸気バルブが2個、排気バルブが2個付く。いわゆる4バルブ方式で、1気筒につき4個のバルブスプリングが使われる。スバルのエンジンも4バルブ方式である。4気筒の水平対向エンジンでは計16個の、6気筒では計24個のバルブスプリングが使われる。

エンジンが破損する

 バルブスプリングが原因のリコールは過去にもあった。最近の例では10年7月のトヨタ「クラウン」と「レクサス」で、国内外合わせて27万台にリコールが行われた。原因は、バルブスプリングの材料中の微小異物であった。その結果、バルブスプリングの強度が低下して折損し、エンジンが停止することがあるとしていた。

 バルブスプリングの材料はバネ鋼と呼ばれる捩じり荷重に強い特殊鋼である。強度を高めるためにシリコン、マンガン、クロムといった元素を含有させている。微小異物というのは、材料の特殊鋼の製造中に入り込んでしまった、こうした元素以外の物質を指す。それによって材料の性質が変わり、バルブスプリングの捩じり強度が低下し、折損する場合がある。バルブスプリングが折損すると、場合によってはバルブがピストン上部を叩き、損傷がエンジン全体に及ぶ場合もある。

 リコールの責任の所在はさておき、微小異物の混入が原因とすれば、バルブスプリングの鋼材メーカーの品質管理の問題である。

バルブスプリングの交換

 
 レーシングエンジンの場合、レースごとにオーバーホールされ、必要であれば新しい部品に交換される。交換頻度が最も高い部品はピストンとバルブスプリングである。必要と判断されれば、予選が終わってからでもバルブスプリングは交換される。エンジン上部のシリンダーヘッドを取り外せば交換は可能な場合が多く、作業工程も翌日の予選に影響を与えるほどには多くないからだ。ただし、各気筒(シリンダー)が直立している場合である。これであればシリンターヘッドはエンジンの一番上に位置するので、エンジンを車体から降ろさずとも取り外しできる。

やっかいな水平対向エンジンの修理

 しかし、スバルやポルシェに採用される水平対向エンジンでは、その名前が示すように各気筒(シリンダー)が水平に取り付けられている。4気筒であれば2気筒ずつ左右に配置され、エンジンルームの幅いっぱいに広がる。エンジンを車体に載せたままではシリンダーヘッドが取り外せず、バルブスプリングの交換は不可能である。

 そこで整備工場に搬入し、リフターで車体を持ち上げ、エンジンを降ろすことになる。あるいは専用の設備を製作し、各ディーラーに設置する必要があるかもしれない。リコールを実施するための特別な設備まで必要となると、対応は長期にわたり、費用も莫大になるだろう。

 大まかな見積では1台につき10万円の費用が必要となるかもしれない。301億円の連結純利益の損失がこのリコール費用の捻出によるものとすると、リコール台数は30万台近いことになる。あるいは営業利益の490億円の減少からは40数万台とも見積もられる。

 スバルの世界販売台数はおよそ100万台である。その30~40%近い台数がリコールされるというのは、企業規模からしてきわめて重大な事態である。

スバル・ブランドに致命傷か

 リコールは、スバル・ブランドの筆頭に位置するスポーツカーである「BRZ」にも及ぶ。さらにトヨタへOEM供給する「86(ハチロク)」も含まれる。86はスポーツカーの少ないトヨタにとってブランドの強化とクルマ離れの進む若者の取り込みに必須のクルマである。

 スバルといえば水平対向エンジン。水平対向エンジンといえば日本のスバル、そしてドイツのポルシェの代名詞である。スバルの水平対向エンジンは多くのファンを生んできた。マツダのロータリーエンジンと並んで、日本の自動車技術の誇りといってよい。これにリコールをかけざるを得ないというのは、富士重工時代からの長いスバルの歴史の中で、苦渋の選択であったであろう。

スバル存続のチャンスに転換

 水平対向エンジンで名を成したポルシェは、EV開発に60億ユーロ(7600億円)を投資し、2020年にはスポーツEVの「タイカン」を発売し、一気にEVにシフト、次世代に生き残りを賭ける。水平対向エンジンがツインモーターに取って代わられるのも時間の問題である。一方、ディーゼルで大失敗したVWは、それを機に大きくEVにシフトする。

 スバルにとって今回の大リコールは、次の時代に突き進むチャンスかもしれない。そうできるかどうか。経営陣には難局に当たる勇気が求められる。
(文=舘内端/自動車評論家)

舘内端/自動車評論家

舘内端/自動車評論家

1947年、群馬県に生まれ、日本大学理工学部卒業。東大宇宙航空研究所勤務の後、レーシングカーの設計に携わる。
現在は、テクノロジーと文化の両面から車を論じることができる自動車評論家として活躍。「ビジネスジャーナル(web)」等、連載多数。
94年に市民団体の日本EVクラブを設立。エコカーの普及を図る。その活動に対して、98年に環境大臣から表彰を受ける。
2009年にミラEV(日本EVクラブ製作)で東京〜大阪555.6kmを途中無充電で走行。電気自動車1充電航続距離世界最長記録を達成した(ギネス世界記録認定)。
10年5月、ミラEVにて1充電航続距離1003.184kmを走行(テストコース)、世界記録を更新した(ギネス世界記録認定)。
EVに25年関わった経験を持つ唯一人の自動車評論家。著書は、「トヨタの危機」宝島社、「すべての自動車人へ」双葉社、「800馬力のエコロジー」ソニー・マガジンズ など。
23年度から山形の「電動モビリティシステム専門職大学」(新設予定)の准教授として就任予定。
日本EVクラブ

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