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豊洲市場への移転で都内の飲食店に広がる「深刻な事態」

文=後藤豊/フリーライター
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豊洲市場への移転で都内の飲食店に広がる「深刻な事態」の画像1豊洲市場の様子(写真:ロイター/アフロ)

 築地市場の移転による豊洲市場の開場で、流通システムが一変した。その影響で、飲食店や小売店の仕入れを代行する業者に注文が殺到しているという。

 仕入れ代行業者は、注文を受けた各店に鮮魚や野菜を卸して回る。1回数百円の手数料で、まとめて仕入れるとコストダウンできるため、一定額を超える注文で手数料は無料になるというシステムだ。複数の店から注文を受けた仕入れ代行業者は、豊洲でピックアップした品をルートに沿って各店に届けていく。

 新橋駅から近い築地市場の場合、自分で小型トラックを運転して日参する業者もいた。ただ、駐車場料金が高すぎるため、多くの飲食店経営者は始発の電車に乗り、早朝5~6時に新橋駅からバスやタクシーを利用していた。

 もちろん、豊洲にもゆりかもめやバスが通っている。東京都は食材を買い出しに来る業者向けに都営バス2路線を新設し、新橋駅と東陽町駅からそれぞれ1時間に1~6本、1~3本運行、料金は206円(ゆりかもめは新橋から381円)だ。それでも、築地と比べて交通の便がいいとはいえない。市場に足を運ぶのを面倒くさがる店が増えたことで、仕入れ代行業者への注文が急増しているというわけだ。

仕入れ代行業者を利用する飲食店の声

 しかし、そこにはメリットとデメリットが存在するようだ。最大のメリットは仕入れに費やしていた時間を開店準備にあてられるという点だが、ある飲食店経営者は「デメリットのほうが大きい」と語る。

 ひとつは、仕入れ品の到着時間だ。自ら市場に足を運べば開店時間に合わせることができるが、何軒もの店に卸していく代行業者ではそうはいかない。

「『何時に来てほしい』という、こちらの注文に応じてもらえないのがネック。たとえば、昼の営業開始までに注文の品が欲しいのに、なかなか届かずに待たされることがある。うちは都心から少し離れているから、どうしても遅くなる。それはいいとしても、注文した品の鮮度が落ちているケースがあって、それが一番困る」(飲食店経営者)

 そう語ると、2本のきゅうりを差し出した。

豊洲市場への移転で都内の飲食店に広がる「深刻な事態」の画像2

「上と下を比べてみてよ。上のほうが値段は15円高いけど鮮度がいいんだ。下のきゅうりで我慢できる店は代行業者でもいいけど、うちは鮮度にこだわるから、下のきゅうりは買えないね。買ったのはまかない(従業員の食事)用だよ」(同)

 2本を触ってみると、確かに上のほうがみずみずしく触り心地もいい。さらに、「見た目は味に直結する」(同)という。

 店から「きゅうり1袋」などの注文を受けた代行業者はまとめて仕入れることでコストを抑えられるが、そうして仕入れた品々のなかには前日の売れ残りかと思うようなものもあるそうだ。「目が充血している魚が届いたり、さんまの腹が割れたりしていることもある」(同)というから、味が命の飲食店にとっては看過できない問題だろう。

「最初は代行業者を使ってみたけど、やっぱり自分の目で見ないとダメだね。足を運べば馴染みの店をつくれるし、顔見知りになれば鮮度のいい商品を裏から出してもらえることもある。ただ、そういう関係になるには連日足を運ばないとダメだからね。あちらさん(市場関係者)も、俺が買いに来ることを見越して仕入れるようになるから、俺が行かないと売れ残りになっちゃうでしょ。『昨日来なかったねぇ』なんて言われるからね(笑)」(同)

 また、今は魚の価格変動が激しいことも、飲食店の悩みの種になっているようだ。

「1キロあたり1400円だったいわしが2300円になったり、関さばが700円から3000円になったりしたからね。伝票を見て、ため息をつく店が増えているよ」(同)

 この飲食店では、主に魚を扱うため、仕方なく野菜も豊洲で仕入れているそうだが、「野菜メインの場合は大田市場のほうが質はいい」と語ってくれた。味や鮮度にこだわる飲食店ほど代行業者を使いづらく、ときには不満を抱くケースも増えてくるかもしれない。豊洲開場の余波は、こんなかたちでも出ている。
(文=後藤豊/フリーライター)

後藤豊/ライター兼タクシードライバー

後藤豊/ライター兼タクシードライバー

1966年千葉県生まれ。東京都内の中小会社でタクシードライバーを兼務するライター。競馬と野球をメインに、雑誌や書籍で執筆をしている。主な著書に『テイエムオペラオー伝説』『競馬 伝説の名勝負 GⅠベストレース』(ともに星海社、共著)などがある。

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