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ライザップ、株価暴落が始まった…架空の買収を業績予想に組み込み、利益かさ上げに依存

文=編集部
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ライザップ、株価暴落が始まった…架空の買収を業績予想に組み込み、利益かさ上げに依存の画像1ライザップ(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

“松本ショック”が、札幌アンビシャス市場に上場しているRIZAPグループを痛打した。株価が暴落している。

 RIZAPの2017年11月24日の株価は、10年来高値の1545円。約1年後の18年12月11日の株価は一時201円となり、年初来安値を更新した。企業としての価値(時価)が約13%にまで目減りした。時価総額に換算して7400億円が蒸発したことになる。

 トレーニングジムのRIZAPは、ライザップメソッドがメタボリックシンドローム(内臓脂肪型肥満)の改善に効果があると謳っている。だが、皮肉なことに、自身のメタボな企業体質の改善では「結果にコミット」できなかった。

「毎月平均1社を買収する」――。こう豪語していた瀬戸健社長のM&A(合併・買収)拡大策で、企業体質はメタボ状態。そんな瀬戸氏の経営手法に、“プロ経営者”の松本晃氏が引導を渡した。

 松本氏は伊藤忠商事の出身で、米ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人社長、カルビー会長兼CEO(最高経営責任者)として、2社とも高収益会社に育てた実績を誇る。

 18年6月、瀬戸氏から三顧の礼をもって招かれ、RIZAPグループの代表取締役COO(最高執行責任者)に就いた。

 グループの実情を見極めようと現場を回った松本氏は、傘下に収めた企業の経営再建が終わらないうちに次のM&Aを進めようとする野放図な方針に違和感を抱いた。松本氏がRIZAPに入った6月ごろ、さらにM&Aを進めようと約40社をリストアップし、このうちの30社超と買収交渉に入っていた。

<松本が入社後、取締役会に2社の買収案が諮られた。現場を見てきた松本は、そこで言い放った。「私は買収に反対だ。やりたいならやればよいが、私が反対したことは議事録に明記しておきなさい」(松本氏の)一撃に一同は押し黙った。「松本ショック」の始まりだった>(12月12日付朝日新聞)

 ここから松本氏と、瀬戸氏の“親衛隊”といっていい経営陣とのバトルが火を噴く。松本氏はM&Aをいったん停止し、収益を上げられる事業に絞り込むなど体制の再構築を主張した。これに瀬戸氏の意向を汲む経営陣が反発し、激しく対立した。

 10月1日、松本氏はCOO職を外れ、代表取締役のまま構造改革担当専任となった。そのため、「松本さんは辞めるのではないか」(関係者)との情報が駆け巡った。

 創業者が自ら口説き落として三顧の礼をもって招いたわけで、「M&Aに反対したからクビ」というわけにはいかない。むしろ、松本氏が辞めれば、RIZAPは信用を失い株価が大暴落するのは目に見えていた。松本氏を引き留めるためか、瀬戸氏が一歩退いた。

 11月14日の決算会見では、緊張感が漂っていた。

「おもちゃ箱のような会社だが、いくつか壊れているおもちゃがある。壊れたものは修繕していかないといけない」

 松本氏は隣に座る瀬戸氏を目の隅に据えながら、こう述べた。「意思決定の階層を減らし、経営のスピードを重視した」と、松本氏自身がCOOを外れた理由について説明したが、瀬戸氏の取り巻き役員やRIZAPの傘下に入った“壊れたおもちゃ”の経営トップと松本氏の確執は、抜き差しならない段階になっていた。

 瀬戸氏は、M&A路線を撤回した理由について 「(不調な子会社の)再生を終えるまではM&Aをやめるべきだ、将来的なリスクは速やかに認識すべきだ、などの意見をいただき、損失を確定すべきだという結論に至った。松本さんに来ていただいたおかげで、私は今回の決断ができた」と述べた。

 松本氏は、経営陣との対立について、「一部で報道されたが、私と瀬戸さんの中で対立はない。一方、経営者との間では対立は存在している。ただし、これは健全な対立。会社には対立は必要であり、対立のない会社はかえってよくない」と、否定はしなかった。

「負ののれん」で利益をかさ上げして高収益を装う

 瀬戸氏と松本氏は、新規のM&Aの“凍結”と、不採算部門の撤退で収益性を重視していくことで合意した。

 これに基づき、RIZAPグループは19年3月期連結決算(国際会計基準)の業績予想を下方修正した。純損益は、従来予想の159億円の黒字から70億円の赤字に、営業損益は230億円の黒字から33億円の赤字に転落する見通し。売上高に相当する売上収益はM&Aの効果で前年同期比1.7倍の2309億円を見込む。

 実現していない買収案件にかかわる「負ののれん」の計上を中止したことが営業赤字の原因である。

 経営が悪化した企業を安値で買収して負ののれんを営業利益に上乗せするという会計手法を駆使して、RIZAPは高収益を演出してきた。負ののれんが利益をもたらすという、会計の裏技である。

 RIZAPが採用している国際会計基準では、買収額が買収先の純資産を下回った場合、その差額を負ののれんとして営業利益に一括計上できる。企業を割高に買収した際に発生する「のれん」と真逆である。

 同社の決算説明資料によると、負ののれんは17年3月期に58億円(営業利益は102億円)、18年3月期は87億円(同135億円)に上った。営業利益に占める割合は、17年期が57%、18年期は54%に達した。

 RIZAPはM&Aに積極的な新興企業として知られる。15年3月期に19社だった連結子会社数が、18年9月期には85社にまで増加した。うち上場子会社は9社。瀬戸氏は18年の年央まで「毎月10社を資産査定し、平均1社を買収する」と胸を張っていた。

 だが、その実態は負ののれんで利益を捻り出す“ヤリクリ決算”。これがなければ赤字に沈む。経営不振企業ばかりを買収してきた理由が、これではっきりした。

 RIZAPは16年春以降、負ののれんを業績予想に織り込み始めた。19年3月期の期初時点で営業利益230億円と公表していた。

<このうち買収先を新たに連結対象に加える影響と、負ののれんの合計で110億円程度を見込んでいた。社内で買収を検討していた具体的な20~30社を対象に試算して計上していたという。なかには交渉を持ちかけていない企業も含んでいた>(11月19日付日本経済新聞)と報じられた。

 企業買収を凍結するのに伴い、104億円分を利益予想から除外した。すでに買収した企業の再建遅れによる在庫評価損などの損失(72億円)や、構造改革の費用(84億円)が業績の下振れの要因となった。

監査法人が「待った」をかけた会計手法

 子会社の借金を活用した利益計上に関しては、監査法人から「待った」がかかった。12月8日付日本経済新聞によると、次のような手口だ。

 RIZAPが15年に買収した女性用衣料品のネット販売の夢展望が舞台となった。

 夢展望は17年4月、カタログ通販大手のニッセンホールディングスから業績が低迷している宝飾品販売のトレセンテを1円で買収した。トレセンテの純資産を大きく下回る1円で買収できたとして、夢展望について差額の約5億7000万円を負ののれんとして18年3月期の営業利益に計上した。

 この結果、夢展望は18年3月期末に連結債務超過を解消した。ちなみに17年3月期末は4億3200万円の連結債務超過だった。これにより、東証マザーズの上場基準をクリアした。親会社のRIZAPが得意とする負ののれんのフル活用である。

 松本氏は、「経費計上の仕方や在庫評価などをより厳密にした上で事業の将来性を判断し直す必要がある。その中で将来性が低いとなれば、売却を含めて事業を再編し、グループの構造を再構築すべきだ」と語っている。さらに、「50億円の経費削減」を口にする。

 松本氏はさらなる構造改革を急ぎ、コーポレートガバナンス(企業統治)の確立を目指すが、これが難物だ。「瀬戸さんに痛みを伴う(改革の)覚悟があるかと尋ねたら、彼は受け入れてくれた」(松本氏)としたが、瀬戸氏が急進的な“松本改革”にいつまで耐えられるかは予測不能である。それでも松本氏は「社外取締役を入れなければダメ」と言い、“開かれた会社づくり”を進める。

 RIZAPは今後、高い収益を上げているトレーニングジムに経営資源を集中し、「21年3月期の連結売上高は3000億円、営業利益350億円」(瀬戸氏)という遠大な目標を掲げる。85社に上る子会社の整理、7000人に膨れたグループ従業員の削減など、痛みの伴う改革はこれからだ。

 RIZAPの本当の危機は、松本氏が瀬戸氏に見切りをつけた時に訪れる。それは松本氏のRIZAP代表取締役辞任である。札幌の新興市場アンビシャスに上場するRIZAPは、東証1部へのくら替えを計画している。瀬戸氏の側近のなかには、「これを花道に松本氏が辞めてくれれば……」と、公然と語る人物もいる。

 RIZAPは18年12月28日、現在9人いる社内取締役のうち、瀬戸氏と松本氏以外の7人が退任すると発表した。代表権を持つのは瀬戸社長だけ。1月1日から社内取締役の瀬戸氏、松本氏と社外取締役の3人の新しい経営体制に移行、M&Aを推進してきた2人の取締役も退任した。社内2、社外3の構成だが、瀬戸氏の経営責任は不問のままだ。
(文=編集部)

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