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旅行会社、存在意義消失の危機…大型倒産や挙式ツアー直前中止事件の背景

文=島野美穂/清談社
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旅行会社、存在意義消失の危機…大型倒産や挙式ツアー直前中止事件の背景の画像1HIS本社が入居する住友不動産新宿オークタワー(「Wikipedia」より/0607crp)

 2018年の日本人出国者数は、過去最高だった12年の1849万人を上回ると見られている。その背景には、個人がインターネットで簡単に航空券やホテルを予約する「セルフブッキング」が広がり、海外旅行がより身近になったという事情があるようだ。

 その裏で、苦境に立たされているのが旅行会社だ。17年3月に格安旅行会社のてるみくらぶが倒産し、社長の山田千賀子容疑者らが融資金詐取の疑いで逮捕、起訴された。また、同年11月には「ARCツアー」のブランド名でツアー旅行などを手掛けるアバンティリゾートクラブが東京地方裁判所から破産開始決定を受けている。今年9月には、大手のエイチ・アイ・エス(HIS)が企画したハワイでのウェディングツアーが直前で中止され、トラブルになったことが記憶に新しい。

 今、旅行会社に何が起きているのか。『よくわかる旅行業界』(日本実業出版社)の著者で旅行会社ブルーム・アンド・グロウ代表取締役の橋本亮一氏に話を聞いた。

旅行会社の存在意義が希薄な時代に

「00年代中頃からセルフブッキングが普及し始め、旅行業界に大打撃を与えました。航空会社は旅行会社をあてにしなくてもチケットが売れるようになったし、消費者側も自分で旅行を組むことができる。中間業者だった旅行会社は、その存在意義が希薄になってしまったんです」(橋本氏)

 当初は、セルフブッキングよりも大口で航空券を確保できる旅行会社の格安ツアーのほうがお得ともいわれていたが、現在はそういったスケールメリットも少なくなり、セルフブッキングでも安いプランが組めるようになった。

「セルフブッキングの普及でダメージを受けた旅行会社は、経営を安定させるために正社員を削って派遣社員や契約社員を増やし、経費の抑制と人材の流動化を図りました。その結果、旅行の知識が乏しいスタッフが増えてしまい、カウンターのスタッフが旅行のことを何も知らないという現象が起きるようになってしまったんです」(同)

 以前の旅行会社では研修旅行などが盛んに行われ、社員は見識を積むことができたというが、今は各社ともそんな余裕はない。そして、業者に相談するよりも自分でネットで調べたほうが早いとなれば、旅行会社のカウンターから客足が遠のくのも仕方ないといえる。

 日本法規情報の調査によると、海外旅行の手配トラブル経験者は10%ほど。そのうちもっとも多い理由が「飛行機、宿泊先の手配ミス」だった。「その多くは、自分でネット予約する際に日付やパスポート番号、名前の入力ミスをしてしまったのでしょう」と橋本氏は分析する。

「旅行会社がパスポートをお預かりし、専用端末で予約していた時代には、そうしたトラブルは少なかったので、ネット予約の弊害といえるでしょう。また、基本は自己責任とはいえ、そのような初歩的なミスをチェックしきれない航空会社や旅行会社の仕組みにも問題があると思います。単純に人材不足が原因とは言い切れませんが、人手が十分であれば防げるミスもあるでしょう」(同)

 前述したHISのトラブルについても、橋本氏は「断言はできない」と前置きしつつ、「人材不足が招いたミスである可能性も考えられる」と指摘する。/p>

「『結婚式場の工事が完了しない』ということをツアーの1カ月前に申込者に通達したようですが、これは業界関係者から見ても不可解です。HISは海外拠点を積極的に増やしていますが、ホノルルには手厚く人材を配置しているという話です。また、ハワイは海外挙式のなかで非常に重要な地域であり、工事の進捗状況がHISに伝わらなかったというのも考えにくい。つまり、結局はホノルルといえども、これを一大事ととらえるマネジメント能力のある人間を現場に配置できていなかったのではないでしょうか」(同)

“取消料”も旅行会社の経営を圧迫している?

 セルフブッキングが経営を圧迫し、現場の人材難がのしかかり、客足が遠のく……どうにもならない悪循環に旅行会社は陥っている。さらに、「旅行業約款における取消料の問題も旅行会社を苦しめている」と橋本氏は言う。

「日本の旅行業約款の規定によって、海外パッケージツアーはピーク時を除き出発30日前まで取消料がかからないと決められています。ところが、世界の潮流では予約も取消料の発生もどんどん早くなっています。そのため、30日前までのキャンセルで取消料が発生した場合は旅行会社が負担することが当たり前になっており、それが経営を圧迫する一因になっています。そのため、旅行会社はそうしたリスク分を代金に上乗せせざるを得なくなり、結果的に消費者にとって不利益になる事態を招いているわけです」(同)

 複合的な要因で苦戦を強いられている旅行会社だが、現状を黙って見ているわけではない。大手・中小を問わず、新たな試みが始まっているという。

「海外旅行のきっかけをつくるため、各国のお酒や食べ物を振る舞うイベントを企画したり、旅行会社自ら旅行好きのコミュニティを立ち上げたり、さまざまな取り組みが始まっています。また、情報が少なく個人では行けないような旅行先を新たに開拓するなどの付加価値を提供することも、これからの旅行会社の使命といえるでしょう」(同)

 もはや「安さ」よりも「心に残る価値」を提供することこそが、旅行会社のサバイバルには必須となりそうだ。
(文=島野美穂/清談社)

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