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タワレコとHMV、経営危機に…CDとDVD、“過去の遺物”化が深刻

文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント
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タワレコとHMV、経営危機に…CDとDVD、“過去の遺物”化が深刻の画像1HMV(「Wikipedia」より)

 CD・DVD販売の英HMVが事実上の経営破綻に陥ったことが、昨年12月28日に明らかとなり、衝撃が走った。ストリーミング配信サービスなどに押され、路面店で苦戦を強いられていた。2013年にも資金繰りの行き詰まりで投資会社に救済されており、2度目の経営破綻となる。

 音楽・映像分野における消費者のデジタルサービスへの移行が、欧米を中心に加速している。国際レコード産業連盟(IFPI)がまとめた世界の音楽市場の年次リポートによると、分野別の収入で、17年はストリーミング配信が前年から約4割増えて66億ドル(約7200億円、シェア約38%)と最大になり、CDやレコード(シェア約30%)の売り上げを初めて上回った。世界のCDやレコードの売り上げは年々減っており、17年は52億ドル(約5700億円)だったが、01年(238億ドル)から16年連続で減少している。10年前と比べると6割強も減った。

 近年は音楽をスマートフォンなどで好きなだけ聞けるストリーミング配信サービスをスポティファイなどが提供したことで、CDやレコードの市場がさらに急速にしぼんでいる。特に欧米では顕著にCD離れが進んでおり、英HMVはその波にのまれたかたちだ。

 映像分野でも、欧米を中心にデジタルサービスへの移行が急速に進んでいる。特に米国でその傾向は強く表れている。業界団体のデジタル・エンターテイメント・グループ(DEG)がまとめた米国の映像市場の調査リポートによると、17年のストリーミング配信の収入は95億ドル(約1兆400億円、シェア約47%)だったが、前年から約3割も増えている。一方、DVDやブルーレイソフトは約14%減の47億ドル(約5200億円、シェア約23%)と苦戦している。

 映像のストリーミング配信サービスをネットフリックスなどが提供し、DVDやブルーレイソフトの市場が急速に縮小している。こうした流れが欧米を中心に進んでおり、DVD離れが加速している。英HMVも、この流れに抗うことができなかった。

 日本でもCD・DVD離れが見られるが、先進の欧米ほどではない。IFPI発表の音楽市場の年次リポートにおいて、CDやレコードの世界市場での収入シェアは17年に3割にまで縮小したことは前述したとおりだが、一方で同リポートによると、日本のCDやレコードの収入シェアは72%にも上るという。日本もデジタルサービスへの移行が進んでいるが、先進の欧米ほどではないことがわかる。

 とはいえ、日本でもCD離れが進んでいることは間違いない。日本レコード協会がまとめた日本の音楽市場の年次リポートによると、CDやレコードの生産金額は17年が1739億円で、10年前と比べて半分近くまで減った。一方でデジタルでの音楽配信が増えており、17年の収入は前年比約8%増の573億円だった。なかでもストリーミング配信の存在感が増しており、17年は263億円で音楽配信の約46%を占めているほどだ。

 同様にDVD離れも進んでいる。日本映像ソフト協会がまとめた日本の映像市場の調査リポートによると、DVDやブルーレイソフトの販売額は17年が2044億円で、10年前と比べて3割強減った。一方でデジタルでの動画配信が増えており、17年の収入は前年比約2割増の1510億円だった。

 このような状況下、英HMVは事実上の経営破綻に陥った。CDやDVDの市場縮小の流れに抗えなかった。

日本のHMVも状況は厳しい

 一方、日本のHMVはどうかというと、業績の詳細を非公表としているため詳しくはわからないが、状況からしてそれなりに健闘しているようだ。

 HMVの日本1号店が東京・渋谷に誕生したのが1990年。90年代に音楽の再生機器の普及が進んだことでCDの好景気時代が到来し、HMVも躍進した。しかし、90年代の終わり頃にCD不況が訪れ、HMVも苦戦するようになった。07年にHMVの日本法人、HMVジャパンは投資会社の傘下に入って経営再建を進めるも、その道のりは困難を極めた。10年4月期には7.6億円の営業赤字を計上している(売上高は309億円)。10年8月には日本1号店で旗艦店でもあるHMV渋谷の閉鎖を余儀なくされている。そうしたなか、同年12月にローソンが投資会社からHMVジャパンを買収し、完全子会社化した。

 不採算店は閉鎖していったが、ローソン傘下に入ってからHMV店舗数は増えている。18年8月末時点で56店にまで拡大した。ローソンはさまざまなテコ入れ策を実施している。11年からローソンの店頭端末「ロッピー」でHMVが扱うCD・DVDの販売を始めた。コンビニのローソンで商品を受け取ることができるサービスだ。ネット通販に抵抗がある消費者を取り込む狙いがあった。12年にはローソンとHMVが一体となった店舗を東京・表参道にオープンしている。15年には書籍とCD・DVDを融合した大型店「HMV&BOOKS」の出店を始めた。HMVの運営会社はライブ・コンサートなどのチケット販売も手がけており、ライブ・コンサート会場でのCD・DVDの販売代行を行うなど、相乗効果を引き出している。HMVはローソンのもとで生き残りを図っている。

 海外発のCD・DVD販売店について話す場合、HMVのほかにタワーレコードが外せないだろう。

 タワーレコードの日本1号店が札幌に誕生したのが80年。HMVと同様に90年代のCD好景気時代は隆盛を極めたが、それ以降は苦戦が続いている。決算公告によると、07年2月期に664億円あった売上高は、18年2月期にはそれより約2割少ない530億円まで減っている。純損益はこの12期のうち7期で赤字だ。たとえば、17年2月期は29億円もの赤字を計上している。業績はかなり厳しい状況といえる。

 タワーレコードはHMV同様、店舗(19年1月1日時点の店舗数は79店)やネットでCDなどを販売している。また、筆頭株主がNTTドコモということもあり、ドコモのスマートフォンを経由しての販売も行っている。セブン&アイ・ホールディングスもドコモに次ぐ大株主で、タワーレコードと協業している。12年からセブン-イレブンでタワーレコードのオンライン販売のCD・DVDを送料などが無料で受け取れるサービスを始めた。セブンはチケット販売大手のぴあを傘下に抱えており、タワーレコードの店舗内にぴあのカウンターを設けてライブ・コンサートのチケットを販売するなどの連携を模索している。

 ストリーミング配信などデジタルサービスへの移行に伴うCD・DVD離れにより、HMVやタワーレコードには今後も強い逆風が吹くとみられる。ただ、どちらも大手コンビニと協業できる立場にあり、コンビニでの受け取りに加え、物流などでも相乗効果が得られるので、そう簡単には逆風に屈しないだろう。とはいえ、カセットテープやビデオテープレコーダーが今となっては見る影もなくなったように、CDやDVDも同様に消えていく可能性は否定できない。店舗ならではの施策やネット販売を強化したとしても、デジタル化の波には抗えないだろう。英HMVが抗えなかった今、日本のHMVやタワーレコードがどのような対策を講じてくるのかに関心が集まる。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)

佐藤昌司/店舗経営コンサルタント

佐藤昌司/店舗経営コンサルタント

店舗経営コンサルタント。立教大学社会学部卒。12年間大手アパレル会社に勤務。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。企業研修講師。セミナー講師。店舗型ビジネスの専門家。集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供。

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