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今、日本企業が「経営の介入」に怯える香港系投資ファンドの存在

文=編集部
今、日本企業が「経営の介入」に怯える香港系投資ファンドの存在の画像1旧アルパインの本社(「Wikipedia」より)

 経営統合の賛成比率は73.3%で、可決に必要な「3分の2」をかろうじて上回った――。自動車用音響機器・情報通信機器メーカーのアルパインが、関東財務局に提出した臨時報告書で賛成率が明らかになった。

 アルパインは2018年12月5日に開いた臨時株主総会で、親会社アルプス電気と経営統合する会社提案を可決した。両社の統合に関して、アルパイン株の約1割を保有する香港の投資ファンド、オアシス・マネジメント・カンパニーが「株式交換比率が低すぎる」と異議を唱えていた。

「物言う株主」(アクティビスト)の反対によって、M&A(合併・買収)が株主総会で否決されれば、07年の東京鋼鐵の株主総会以来となるところだった。東京鋼鐵のケースでは、大阪製鐵との経営統合に、いちごアセットマネジメントが反対した。

 アルパインとオアシスの対決の結果は、アルパインの勝利だった。アルパイン株1株当たり100円の配当を支払う会社提案も可決された。オアシスは統合否決を条件に1株当たり300円の配当を支払う株主提案をしていたが、会社提案の配当案が先に可決されたため、オアシスの株主提案は採決されなかった。

 アルプス電気とアルパインは、19年1月1日付で経営統合した。アルパインの株主にはアルパイン株1株に対してアルプス電気株0.68株を割り当てた。統合後の企業名は、アルプスアルパインとなった。

 1年半にわたりアクティビストと闘ってきたアルパインの勝因はなんなのか。

オアシスはTOBによる経営統合を要求

 アルプス電気は17年7月27日、アルパインを株式交換方式で完全子会社とすると発表した。株式交換効力発生日となる19年1月1日に完全子会社にする段取りだった。

 だが、オアシスがこの計画に「待った」をかけた。オアシスはこれまでにも任天堂やパナホームに経営改革を提案するなど、日本で活発に動いているファンドだ。

 オアシスは17年10月30日、アルプス電気によるアルパインの完全子会社化について「買収価格が不公正」と表明。アルプスが公表した株式交換比率が、アルパインの事業価値を十分に反映していないと主張。TOB(株式公開買い付け)による買収に切り替え、価格を引き上げるよう求めた。

 10月30日、関東財務局に提出した大量保有報告書によると、オアシスはアルパインの発行済み株式の9.2%を保有する第2位の株主に躍り出た。オアシスのセス・フィッシャー最高投資責任者は「経営統合そのものには反対しないが、現時点の株式交換比率や買収手法は受け入れられない」と主張、アルプス電気に対し1株2400円で買い取るよう求めた。

 株式交換方式ではなくTOBによる買収に切り替えて、対価を現金で払うべきだと迫ったわけだ。これに対してアルプス電気は、TOBへの切り替えを拒否。これまでの主張を変えなかった。

 アルプス電気とオアシスは、アルパインの定時株主総会に向けて激しいプロキシーファイト(委任状争奪戦)を展開することとなった。

臨時株主総会に向けての前哨戦

 アルパインは18年6月21日、東京都大田区雪谷大塚町のアルプス電気本社ビルで定時株主総会を開いた。

 オアシスは18年3月期の期末配当を年325円に引き上げる(会社提案は年15円)ことや、会社側と異なる社外取締役の選任を求める株主提案を行った。アルプス電気は40.43%を保有する筆頭株主(18年3月期末時点)であり、この株主提案が過半数の賛成で可決することは、あり得ない状況だった。そこでオアシスは統合を阻止できる3分の1以上の賛成を得ることを勝敗ラインに置いた。

 アルパインが6月26日に関東財務局に提出した臨時報告書によると、オアシスの株主提案への賛成は3分の1に届かなかった。大幅増配の提案に対する賛成比率は28.57%。米谷信彦社長の取締役選任への賛成率は71.33%。9割超だったその前の年から大幅に下がった。オアシスの株主提案に3割弱の賛成票が集まったことが、アルパインの経営陣に衝撃を与えた。

 オアシスが期待していたのは、外国人株主だ。外国人持ち株比率は18年3月期末時点で40.79%。17年3月期末に比べて2.8ポイント高くなった。議決権行使助言会社の米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)は、オアシスの株主提案に賛成を推奨した。株主総会では、オアシスの株主提案は3分の1の賛成が得られず、会社側はオアシスを封じ込めることに成功した。だが、総会を乗り切りホッとしたのも束の間だった。

キャスティングボードを握ったエリオットは会社提案に賛成

 18年7月、米投資会社のエリオット・マネジメントが登場した。エリオットは、米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)による半導体製造装置大手、日立国際電気のTOBの際に日立国際電気株を取得し、その後も買い増しに動いた。KKRは2度にわたってTOB価格を引き上げて(当初1株2503円→最終3132円)、やっとTOBを成立させた。

 エリオットが7月13日に関東財務局に提出した大量保有報告書によると、共同保有分を含めてアルパイン株を5.12%保有していた。その後も買い増しが続き、7月19日付で6.30%、7月27日付で7.33%に引き上げた。8月13日、共同保有分も含めてアルプス電気株を5.07%保有したと公表。さらに、8月22日には6.26%に高めた。

 エリオットはアルパインとアルプス電気、両社の大株主となった。保有目的は「投資。状況に応じ、発行会社や関係会社と議論し、重要提案を行う」としていた。

 エリオットはオアシスと共同歩調をとるのか。それとも、会社側とオアシスの間に入り、キャスティングボードを握るつもりなのか――と、思惑が交錯した。「(エリオットは)経営統合に賛成する見返りに、統合してできる新会社による自社株買いを求めるのではないか」(M&Aに詳しいアナリスト)という観測も流れた。

 オアシスとエリオットが共同歩調をとれば、3分の1以上の賛成を得て、統合案が否決される可能性が出てくる。アルプス側は、オアシスとエリオットが手を結ぶことを阻止しなければならない。

 投資ファンドが追求するのは、株主還元の最大化である。そこで、アルパインは統合を条件とし、100円の特別配当を実施すると18年9月下旬に発表。アルプス電気も11月下旬、統合後に400億円の自社株買いをすると発表した。エリオットは両社の株主還元策を「歓迎する」とコメントを出した。これで事実上、統合可決への流れが出来上がった。

 つまり、エリオットの賛成を取り付けたことが直接の勝因といえる。

 親会社による子会社の買収なのに、なぜこれほどまでにゴタゴタが続いたのか。M&Aは、発表後すぐに行うのが鉄則とされているが、発表から1年以上かけたのが間違いの元だった。時間がたてば、業績や株価が変動するリスクが高まるからだ。最初のボタンの掛け違いが、混迷の度合いを深めたといえる。
(文=編集部)

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