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中国で“ゲノム編集ベビー”誕生…挿入欠損変異でその子の将来に何が起きるか不明の懸念

取材・文=大野和基/ジャーナリスト
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中国で“ゲノム編集ベビー”誕生…挿入欠損変異でその子の将来に何が起きるか不明の懸念の画像1ポール・ノフラー氏

 2018年11月、中国人研究者の賀建奎(がけんけい/He Jiankui)がゲノム編集技術「CRISPR」を用いて受精卵の遺伝子を操作した双子が誕生したと発表し、世界中で激論が巻き起こった。その多くは賀建奎に対する批判だった。

『デザイナー・ベビー -ゲノム編集によって迫られる選択-』(丸善出版)の著者でゲノム編集研究の専門家であるポール・ノフラー氏に、遺伝子操作による生命の誕生について話を聞いた。

――まず、遺伝子改変、ゲノム編集について説明してください。

ポール・ノフラー氏(以下、ノフラー) 我々は何十年も前から、遺伝子に関するさまざまな実験をしてきました。時にはDNA配列を変えました。たとえば、遺伝子をノックアウト(無力化)する過程がありますが、時には2~3年かかり、お金もかかります。現在、ゲノム編集で使われる、CRISPR Cas9(クリスパーキャスナイン:以下、クリスパー)という技術を使えば、基本的に同じことをしようとするのですが、もっと速く、安くできます。

 それを使うと、簡単に遺伝子をノックアウトできるだけでなく、かなり正確にDNA配列を変えることもできます。だから「ゲノム編集」という言葉ができたのです。まさにDNAを構成する文字列を、ピンポイントでAをCに変えたり、TをGに変えたりできます。まるで文章を編集するようにできるので、この表現は適切な表現だと思います。

 クリスパーについて、とても嬉しいことのひとつは、それが世界中で簡単に活用できるということです。今までの方法と比べると、はるかに速く、安くできるので、より多くの研究室が今まででは考えられないほど、興味深い遺伝子研究や発生生物学研究や肝細胞研究をすることができます。

――このゲノム編集研究は、どの程度進んでいるのでしょうか。

ノフラー ゲノム編集は長足の進歩を遂げました。クリスパーについて言及している論文の数は、指数関数的な増加を見せています。この技術がどんどん向上していることは間違いありませんが、それだけではなく、異なる応用に対してさらに有用になるように、いわば枝分かれして発展していっております。

――どの技術も、諸刃の剣の面があります。このゲノム編集も例外ではありません。特定の遺伝病の予防にも応用できますが、ノフラーさん自身も著書のタイトルで示したように、遺伝子改変したヒト、つまり“デザイナー・ベビー”をつくり出すことを懸念していましたね。実際に起ったかどうか完全に証明されていませんが、昨年11月に中国・広東省深セン市の研究者・賀建奎が「ゲノム編集ベビーを誕生させた」と発表して世界を震撼させました。その目的は、遺伝性疾患の治療や予防ではなく、将来的なHIVウイルス(AIDSの原因ウイルス)感染への抵抗力という、生まれつき持っている人が少ない形質を与えようとすること」であると説明しています。

ノフラー まず、遺伝病を予防する場合と遺伝子改変したヒトをつくる場合は、状況が非常に異なります。ひとつのアプローチは、知識を増やすための純粋な研究です。昨年、ヒト受精卵のゲノム編集に関する論文が出てきました。確か、イギリスのフランシス・クリック研究所で研究しているキャシー・ニアカンは、ヒト受精卵の遺伝子をノックアウトしてどうなるかを調べています。しかし、それは子宮に戻されません。つまり臨床応用ではありません。オレゴン州のシュクラット・ミタリポフは、遺伝病の予防のために受精卵のゲノム編集に関心があるようです。

――もし、この中国人科学者が行ったことが事実であるとすれば、どう受け止めますか。

ノフラー 1月22日に「広東省の調査チームが双子の出生を確認した」と中国国営の新華社通信が伝えています。彼は自分が主張している目的でゲノム編集をしたと言っていますが、その編集が実際にその目的にかなっているかどうか、確固たる科学的証拠がありません。私からみれば、証拠もなく、提示することで世界の第一人者という名前が欲しかったとしか思えません。つまり、人類のためではなく、自分の手柄が歴史をつくったという野心を満たしたかったということです。

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