ビジネスジャーナル > 自動車ニュース > ベンツがカーシェアに力を入れる理由
NEW
鈴木ケンイチ「話題のクルマのニュースを深掘り」

輸入車販売No1のメルセデス・ベンツが、あえてカーシェアに力を入れる“したたかな狙い”

文=鈴木ケンイチ/モータージャーナリスト
輸入車販売No1のメルセデス・ベンツが、あえてカーシェアに力を入れる“したたかな狙い”の画像1メルセデス・ベンツ日本の記者発表会

 昨年からメルセデス・ベンツ日本は、カーシェアに力を入れている。

 最初のサービスとなるのが「シェアカー・プラス」で、2018年1月からスタートした。これはメルセデス・ベンツのオーナー限定のサービスで、新車購入から3年の間に3回、無料で希望のメルセデス・ベンツのモデルを週末に借りることができるというもの。家族旅行のためにミニバンを借りたり、逆にスポーティなモデルを借りる人が多いという。

 続いて、夏にはNTTドコモの総合カーシェアプラットフォーム「dカーシェア」に車両を提供。最大2時間、無料での試乗サービスを実施している。さらに同年10月の新型「Aクラス」の発表に合わせ、再び12月より「dカーシェア」へ車両を提供。それだけではなく、同時に「カレコ・カーシェアリングクラブ」でも新型「Aクラス」の利用を可能としている。

 ほかにも、18年8月に実施された森ビルによるライドシェアの実証実験である「オンデマンド型シャトルサービス」にもメルセデス・ベンツ「Vクラス」を提供。年が変わって、19年は1月25日より、星野リゾートの施設においてメルセデス・ベンツを利用できるレンタルのサービスもスタートしている。

 これらの動きは昨年から始まったもので、メルセデス・ベンツ日本は、こうした一連の取り組みを「Tap!Mercedes!(タップ!メルセデス!)」と呼んでいる。

「売れ行きが悪いから」という理由は見当違い

輸入車販売No1のメルセデス・ベンツが、あえてカーシェアに力を入れる“したたかな狙い”の画像2星野リゾートとのコラボ企画「Tap!Mercedes!(タップ!メルセデス!)」

 では、なぜメルセデス・ベンツ日本は、カーシェアにこれほど力を入れているのだろうか。

 ここで注意してほしいのは、「新車の売り上げが伸び悩んでいるから」「新車市場が冷え込んでいるから」という理由は、まったくの見当違いということ。メルセデス・ベンツ日本の業績は、現在のところ堅調だ。18年の日本での販売は6万7531台で、前年比約マイナス1%。前年に684台届かなかった。それでも純輸入車として4年連続となる首位を守った。プレミアムブランドでいえば、6年連続のナンバー1。売り上げ鈍化の理由のひとつに本国からの供給の遅れがあり、人気が失墜したわけでないと、メルセデス・ベンツ日本は説明する。

 業績が悪くもないのに突然、カーシェアに力を入れ始めた理由は、メルセデス・ベンツの本社であるダイムラーの意向だ。ダイムラーは、17年のパリ・モーターショーで中長期の経営ビジョン「CASE(ケース)」を表明した。これは車両との通信機能である「コネクテッド(Connected)」、自動運転の「オートノマス(Autonomous)」、カーシェアリングなどの「シェア&サービス(Shared & Services)」、そして電気自動車(EV)の「エレクトリック(Electric)」を意味する。ダイムラーは、この4点に注力すると宣言したのだ。

 言葉通りにダイムラーは、世界各地で「スマート」を使ったカーシェア・サービスをスタートさせている。また、19年にはアメリカのシリコンバレーにおいて、ボッシュと組んでドライバーレスの自動運転ライドシェア・サービスを試験的に行うという。ちなみに、こうした動きはダイムラーだけのものではなく、自動車業界全体にも及ぶものだ。

 昨今の自動車業界のトレンドワードに、「MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)」というものがある。これは、「移動をサービスとして売る」という考えで、「クルマを売る」という従来のビジネススタイルとは異なる。自動運転技術が完成した暁には、クルマは所有するものではなく、必要なときだけに利用するものになるという考えがベースにある。未来の自動車の在り方を模索する概念といっていいだろう。

 そうしたダイムラーや自動車業界全体の動きを受けたのが、昨今のメルセデス・ベンツ日本のカーシェアへの注力の理由といえるだろう。

日本の事情にあったカーシェアのメリット

 とはいえ、日本のカーシェアの内容をよく見れば、CASEというほど未来感にあふれているわけではない。しかし、それでもビジネス面でのメリットがあるという。それは「メルセデス・ベンツを身近に感じさせること」にカーシェアが役立つのだ。メルセデス・ベンツといえば「高級車」の代名詞であり、ハードルの低い身近なクルマではない。そのため、実際のメルセデス・ベンツの車両に触れたことのない人がたくさんいる。

 しかし、カーシェアであれば、購入しなくてもメルセデス・ベンツのハンドルを握ることができる。そこからブランドの周知が広がり、いつかは購入につながる――。それが、現在のメルセデス・ベンツ日本の狙いというわけだ。実際に、昨年実施したカーシェアによって「初めてメルセデス・ベンツに乗った」という人が数多くいたという。こうした地道な活動が、「輸入車ナンバー1」の地位を形づくるのだ。こうした日本での試みは、本国ドイツでも注目されているという。

 一見、儲からなさそうなカーシェアであるが、メルセデス・ベンツのようなハイブランドにとってはプロモーションにうってつけの手法になるというわけだ。

鈴木ケンイチ/モータージャーナリスト

鈴木ケンイチ/モータージャーナリスト

1966年生まれ。國學院大学経済学部卒業後、雑誌編集者を経て独立。自動車専門誌を中心に一般誌やインターネット媒体などで執筆活動を行う。

公式ブログ:モータージャーナリスト鈴木ケンイチの弾丸ブログ

フェイスブック :鈴木 健一 Facebook

Twitter:@danganjiro

輸入車販売No1のメルセデス・ベンツが、あえてカーシェアに力を入れる“したたかな狙い”のページです。ビジネスジャーナルは、自動車、, , , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!