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渡邉哲也「よくわかる経済のしくみ」

米朝会談“決裂”、金正恩の経済制裁解除の直談判失敗…米国、再び北朝鮮へ軍事圧力強化も

文=渡邉哲也/経済評論家
米朝会談“決裂”、金正恩の経済制裁解除の直談判失敗…米国、再び北朝鮮へ軍事圧力強化もの画像1米朝首脳会談に臨む北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(写真:The New York Times/Redux/アフロ)

 二度目の米朝首脳会談は、想定し得る範囲で最悪の結果に終わったといえる。アメリカのドナルド・トランプ大統領と北朝鮮金正恩朝鮮労働党委員長による会談は2月27、28日にベトナム・ハノイで行われたが、合意文書の署名が見送られるなど、事実上の決裂となった。今後の交渉について、一応は継続される予定だが、交渉再開には大きなハードルが存在し、アメリカとしては軍事的圧力強化を含む大きな方針転換を迫られる可能性が高い。

 北朝鮮としては、すでに一部停止している寧辺の核施設を解体することで非核化の意思を示し、その見返りとして経済制裁の完全解除を求めたようだ。しかし、アメリカは寧辺のほかにも多数の核関連施設が存在することを確認しており、それらについても同様の措置を求めた。これは北朝鮮にとって想定外であったようで、アメリカの出方を甘く見ていたといえる。

 アメリカは調査の結果、北朝鮮は最低10カ所以上のウラン濃縮施設を保有しており、さらに300カ所以上の貯蔵施設があるとしている。そして、それらすべてを明記した核関連施設のリスト提出および全施設の停止を求めたものと思われるが、北朝鮮はあくまで寧辺の解体だけで制裁を解いてもらおうとしたのだろう。そのため、交渉は平行線で決裂したわけだ。

 アメリカとしては、寧辺の施設が解体されたとしても、ほかの地域に同様の施設と完成済みの核ミサイルが存在するのであれば会談で協議する意味がない。一方、北朝鮮としては、これまで親子3代にわたって必死に進めてきた核開発とその成果である核ミサイルを手放すことは、たとえアメリカからの要請であっても容易にできる相談ではないということなのだろう。また、北朝鮮は事実上の核保有国であるからこそ周辺国やアメリカが交渉に応じているわけであり、完全な非核化は大きな交渉カードを失うことも意味するわけだ。

 簡単にいえば、北朝鮮は伝統である“崖っぷち外交”を今回も行ったということであるが、金委員長の直談判は失敗したといえる。そもそも、昨年6月の米朝首脳会談で金委員長は「完全な非核化の意思」を示したものの、それから約8カ月後の今も事態は何も進展していない。そして、なんらかの合意が予想された今回の会談でも米朝間の見解のずれが明らかになったわけだ。

 そのため、今後は単に制裁を強めても交渉が進展する可能性は低く、アメリカとしては以前のように軍事的圧力を強化するという方法がもっとも現実的ではないだろうか。しかし、それは同時に、現在の対北戦略である「現政権を維持した上でゆるやかな開放を行い、民主化を進める」という基本計画の破綻を意味することになる。いずれにせよ、非常に難しい舵取りを迫られていることは確かだ。

交渉決裂で中国の顔に泥を塗った金正恩

 また、今回の決裂は、北朝鮮の後見人的存在である中国との関係にも大きな影響を与えることは必至だ。金委員長のベトナム訪問にあたり、中国は特別列車を用意して支援した。昨年の米朝会談でも金委員長は中国の旅客機でシンガポール入りしており、ほかにもさまざまなかたちで中国が北朝鮮を支援していることは明らかだ。しかし、交渉決裂により、北朝鮮はその中国および今回のホスト国であるベトナムの顔にも泥を塗ったかたちになる。さらにいえば、かねて北朝鮮に親和的な政策を採り、いわば間違ったメッセージを送り続けてきた韓国の責任も大きいといえる。

渡邉哲也/経済評論家

渡邉哲也/経済評論家

作家・経済評論家。1969年生まれ。
日本大学法学部経営法学科卒業。貿易会社に勤務し独立。複数の企業を経営、内外の政治経済のリサーチや分析に定評があり、政策立案の支援、雑誌の企画監修、テレビ出演等幅広く活動しベストセラー多数、専門は国際経済から金融、経済安全保障まで多岐にわたり、100作以上の著作を刊行している。

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