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ポスト五輪の東京~2020年以降も勝つまち、負けるまち~ポスト五輪を待ち受ける23区の勝ち目、弱り目

東京都心3区(中央・千代田・港)、異次元の人口増加…出生率が全国平均並みまで急上昇のワケ

文=池田利道/東京23区研究所所長
東京都心3区(中央・千代田・港)、異次元の人口増加…出生率が全国平均並みまで急上昇のワケの画像1中央区の銀座四丁目交差点(「Wikipedia」より/663highland)

 2015年の『国勢調査』で足立区の人口が減少するというハプニングがあったが、その足立区を含め、16年以降も23区のすべてで順調な人口増加が続いている。

 一見、「向かうところ敵なし」のように思える東京。だが、各区がそれぞれに強みと弱みを抱えていることもまた事実だ。20年の東京オリンピックが終わり、そのインパクトが消えたとき、こうした課題が一気に噴き出し、東京は厳しい内部競争の時代に突入していく可能性が高い。

 ポスト五輪の東京を考える第3フェイズでは、23区を8つのエリアに分け、東京が抱える強みと弱みをレビューしていくことにする。

都心3区への“異次元集中”が約20年も続く

 最初は、やはり東京の中心である都心から。15~18年の3年間の人口増加率が23区で一番高かったのは中央区。2位は千代田区。3位が港区。JR山手線内に位置し、都心3区とつながっている文京区が4位。図表1を見ると、最初こそ千代田区にやや出遅れの感があったものの、今世紀に入って以降は都心3区がデッドヒートを繰り返しながら、常に人口増加率の上位に名を連ね続けてきたことがわかる。

東京都心3区(中央・千代田・港)、異次元の人口増加…出生率が全国平均並みまで急上昇のワケの画像2

 ランキングだけではない。都心3区合計の人口増加率の年間平均値は、00~05年の4.0%に比べると、以後若干下がったとはいえ、それでも05~10年=2.8%、10~15年=3.4%、15~18年=2.8%と、依然高水準が維持されている。この間、23区全体の人口増加率は年平均1%前後で推移してきたことと比べると、都心3区ではまさに「異次元集中」とでも呼び得る状況が20年近くにわたって続いていることになる。

 前の東京五輪開催とほぼ同時期の1965年、都心3区の人口は46万3000人。2018年は約48万人。ほとんど変わっていないようだが、実はこの間には大きなドラマが介在する。かつて、都市のドーナツ化の進展によって都心の人口は急速な減少を続けていた。ボトムは1995年の24万4000人。65年と比べると、30年間でほぼ半減。それが今世紀に入って急増に転じ、65年時点を超えるレベルにまでV字回復を果たしたのだ。

都心回帰をリードする若いファミリー層

「都心ブーム」とも呼び得る都心部への人口回帰の最大の要因は、都心に住むことによって通勤時間を削減し、余った時間を家族や自分自身のために有効に活用するという「都心ライフ」の再発見にある。こうした新しいライフスタイル実践者のボリュームゾーンは、言うまでもなく30代を中心とした若いファミリー層だ。

 図表2に、都心3区における30代世代と、その子ども世代にあたる5歳児未満の2010~15年の人口増加率を示した。5年ごとに行われる『国勢調査』の10年時点では、1971~74年に生まれたいわゆる「団塊ジュニア層」が30代後半だったが、2015年調査時点では彼らは40代に移行している。このため、10年と15年で30代人口を単純に比較することができない。そこで、図表2では30代人口については「コーホート変化率」で示している(詳細は、図表2の脚注参照)。

東京都心3区(中央・千代田・港)、異次元の人口増加…出生率が全国平均並みまで急上昇のワケの画像3

 理屈の話はともかくとして、図表2に示したデータは、都心3区で30代とその子ども世代が急増していることを雄弁に物語っている。

都心3区で出生率が急上昇した理由

 なかでも注目すべきは、子どもの増加だ。少子化の指標としてメディアでもしばしば取り上げられる合計特殊出生率(以下、「出生率」と略称する)。17年の23区トップは港区中央区の1.42。3位は千代田区の1.41。全国平均が1.43、23区平均は1.20。23区全体で見ると全国平均値を下回っているが、「東京の中の東京」である都心は、実は全国平均と同レベルにある。

 ただし、これは都心に若いファミリー層が増え出した最近の傾向で、05年の千代田区の出生率は0.75(23区中19位)。港区は0.79(14位)だった。この両区に比べると、中央区は以前からやや出生率が高かったが、それでも0.85程度。その後十数年間に都心3区で進んだ出生率の急上昇は、少子化に悩む我が国のモデルと言ってもいい。

 もちろん、我が国全体の少子化傾向が改善されない限り、都心での出生率の上昇はどこかにシワ寄せを生んでいるのだが、少なくとも自治体レベルにおいて、出生率の上昇は決して不可能ではないことが都心の動きを見ればわかるだろう。

優雅な都心ライフを支えるバブリーな要素

 そうは言っても、誰もが都心ライフを手にできるわけではない。13年の『住宅・土地統計』によると、4人家族の賃貸共同住宅の平均家賃月額(家賃ゼロを除く)は、23区平均の11万1000円に対し、港区は26万5000円、千代田区が22万5000円、中央区が19万5000円。

 一般に、年収に対する住宅費の割合は25%が適正水準だと言われることと照らせば、月収で80~100万円、年収なら1000万円以上ないと都心では暮らしていけないことになる。

 都心ライフを満喫する人たちにとって、そんな心配はいらぬおせっかいでしかない。16年の平均所得水準(納税義務者1人あたりの課税対象所得額)は、港区が23区トップの1112万円、千代田区が2位の916万円、3位の渋谷区を挟んで中央区が4位の618万円。中央区は1000万円をかなり下回っているように思えるが、これは課税対象所得額で、会社員の額面年収に直すと618万円は820万円になる。共働きなら1000万円も十分、射程範囲内に入ってくる。

   だが、それですべて安泰かというと、そうはいかない懸念が残る。都心3区の平均所得水準の経年変化を追った図表3を見ると、都心人口の増加が本格的な定着を始めた00年代後半以降、港区の所得水準がジェットコースターのような変動を示していることに気づく。港区ほどではないが、千代田区も同じように変動が大きい。図表には記していないが、所得水準3位の渋谷区も同様の傾向をたどっている。

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 ところでこの動き、どこかで見た覚えがある。そう、株価の推移(図表4参照)。

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 所得には、ベースとなる給与所得だけでなく、株の売買をはじめとする資産所得もプラスされる。資産所得は景気の動向に応じて大きく変化し、バブル的な要素が強い。つまり、港区も千代田区もベーシックな給与所得にバブリーな資産所得が積み重なるという2階建ての構造によって、高い所得水準が形成されているのだ。

“都心バブル”崩壊の影響は無関係な庶民にまで

 港、千代田の両区に対し、同じ都心でも中央区は所得水準の変動幅が小さい。その理由は、イメージの格落ち感が否めないことなどさまざまあるのだろうが、筆者が強調しておきたいのは、昭和の時代から営々と都心居住の促進に取り組み続けてきた中央区は、その結果として多様な住宅の供給が実現していることだ。

 あらためて『住宅・土地統計』による4人家族の賃貸共同住宅の家賃を見ると、港区は月額20万円以上の高家賃が過半を占める。社宅や官舎といった給与住宅が23区の中でダントツに多い千代田区は低家賃の住宅も多いが、それを除けば、やはり高家賃が主流。一方、中央区は高中低のバリエーションに富んでいる。公営・UR・公社など公的賃貸住宅の割合は、江東、北、足立の各区に次ぐ4位。本連載でも指摘した「モザイク化」が進んでいるから、バブル要素が緩和されている。

 五輪景気が失速し、現在の株高がやがて弾け飛ぶリスクは高い。そのとき、ベーシックな身の丈を超え、バブリーな都心生活を享受していた人たちがどうなろうと、それは自己責任の範囲内。理屈はそうかもしれないが、「都心バブル」を当て込んで無理な投資を重ねていた不動産事業者は、赤字を回収するという名目のもと、結局末端の消費者に負担を強いるようになる。それは、これまで何度も経験してきたおなじみの構図だ。

 都心バブルが弾ける日。その影響は、都心ライフとは無関係な庶民にまで及んでくる。未来を見抜く目が、ますます重要な時代となってきた。
(文=池田利道/東京23区研究所所長)

池田利道/東京23区研究所所長

池田利道/東京23区研究所所長

東京大学都市工学科大学院修士修了。(財)東京都政調査会で東京の都市計画に携わった後、㈱マイカル総合研究所主席研究員として商業主導型まちづくりの企画・事業化に従事。その後、まちづくりコンサルタント会社の主宰を経て現職。
一般社団法人 東京23区研究所

『なぜか惹かれる足立区~東京23区「最下位」からの下剋上~』 治安が悪い、学力が低い、ヤンキーが多い……など、何かとマイナスイメージを持たれやすい足立区。しかし近年は家賃のお手傾感や物価の安さが注目を浴び、「穴場」としてテレビ番組に取り上げられることが多く、再開発の進む北千住は「住みたい街ランキング」の上位に浮上。一体足立に何が起きているのか? 人々は足立のどこに惹かれているのか? 23区研究のパイオニアで、ベストセラーとなった『23区格差』の著者があらゆるデータを用いて徹底分析してみたら、足立に東京の未来を読み解くヒントが隠されていた! amazon_associate_logo.jpg

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