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富と名誉を享受し、責任は回避――韓流アイドルたちの暴走【中編】

歌手のチョン・ジュニョン、スンリらと“性暴行”を共有…なぜ韓国アイドルは暴走するか

取材・執筆=Dan Ryu【韓国紙記者】、翻訳・構成=河鐘基
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歌手のチョン・ジュニョン、スンリらと“性暴行”を共有…なぜ韓国アイドルは暴走するかの画像12019年3月14日、ソウル地方警察庁に出頭するチョン・ジュニョン。(写真:AP/アフロ)

【前編】で述べたスンリ事件の延長線上に、ほかの事件が浮かび上がった。2019年3月、スンリと親交が深い芸能人、チョン・ジュニョンが、相手の同意なくセックス動画を撮影し、カカオトーク内の知人とのグループで共有していたという事件が発覚したのだ。グループには、スンリだけでなく、何人もの芸能人の名があった。彼らは自分が違法に撮影したセックス動画を共有していたのだ。れっきとした犯罪行為を、互いに自慢し合うという異常性がそこにあった。

「事件の中心となったチョン・ジュニョンは、以前にもガールフレンドと撮影した映像を流布させ問題となったことがありました。しかし、事件後に特別な謝罪や長期の自粛期間もなし。ほどなくして、普通に芸能活動を再開しました。これは、韓国芸能界では見慣れた光景なのですが、当時チョン・ジュニョンがしっかりと調査を受けていれば、新たな犠牲者が生まれずに済んだと思います」(韓国現地紙記者O氏)

 公開された彼らのトーク内容は、人々の想像を超越していた。自分たちの名声を利用して、女性を次々と標的にしていたのだ。その一部始終は、さながら獲物を狙う「狩り」のようでもあった。芸能人はその気になれば簡単に異性と出会うことができる。テレビを通じてつくられた虚構のイメージが、一般人には大きな魅力として作用する。チョン・ジュニョンとその友人たちは、性犯罪に対する感受性は失っていたが、自分たちがどれだけ大きな“魅力”を持っているかは自覚していた。

 彼らは自分たちの魅力をもって欲望を発散するだけにとどまらず、新型麻薬である「ムルポン」(GHB)を利用して、女性に性的暴行まで加えていた。ムルポンは、水や飲料水に混ぜるとニオイもしない。暴行された女性たちは芸能人を恐れ、性的暴行の事実を明かすことも難しい。彼らはその“韓国社会の力学”も理解していた。悪事を働く際には、非常に頭がキレるのだ。

力を得たアイドルたちは、必然的に暴走する

 性犯罪を含む、アイドルたちによる犯罪の発生は、ある程度予想し得るものでもある。韓国のアイドルたちは特別な方法で生み出される。大手をはじめほぼすべての芸能事務所が、芸能人になりたい子どもを幼い頃から“教育”し、そしてアイドルに仕立て上げる。歌やダンス、マスコミ対応など、芸能人やアイドルとしての資質を叩き込まれるのだ。その専門教育の“確かさ”は、韓流アイドルが世界に認められていったことの証左でもある。ただし、韓国のアイドル教育には、一般的な社会通念や常識を教えるという側面が著しく欠落しているようだ。

「アイドルが力を得たときにどのように行動すべきか、大人になったときに社会とどう折り合いをつけて生きていくのか。そういうことを教える芸能事務所は、多くありません。性教育を真剣に行う芸能事務所も数えるほどです。スターになった際、自分が持っている力を適切に使うことを学ばないため、犯罪というカタチで暴走してしまうのです。さらに、事件を起こしても相応の罰を受けることがないから、ますますおかしなことになる」(前出・O氏)

歌手のチョン・ジュニョン、スンリらと“性暴行”を共有…なぜ韓国アイドルは暴走するかの画像22012年に発売されたパク・チニョンのファーストミニアルバム『Spring』(韓国版、発売はJYP Entertainment)

ビックバンが所属するYGは“薬局”

 ちなみに、韓国大手芸能事務所のひとつで、歌手のパク・チニョン氏が運営するプロダクション「JYP」は、事件や事故を起こさないことで有名だ。パク・チニョンは自身が教育する練習生たちに、性教育や倫理教育を徹底させる。業界ではこれまでその様子が不思議がられていたが、最終的にJYPとパク・チニョンは勝者となった。周囲で悪質な事件が起これば起こるほど、JYP人気は高まっている。これは、ヤン・ヒョンソク率いるYG(ビッグバンの所属事務所)とは正反対だ。YGは現在、「薬局」(Yak Guk、薬物を売る場所という意味)という呼称で揶揄されるまでに落ちぶれてしまった。

 身体は大人なのに、頭や心は子どものまま。一方で、企業や視聴者もそんな“頭の幼い”芸能人を「美や富の象徴」としてもてはやす。結果、アイドルや芸能人は勘違いするしかない。そうして、犯罪が起こるべくして起こる。ここでアイドルたちだけを責め立てるのは、少し酷かもしれない。芸能人は人気がすべてだ。教育を行わない芸能事務所を認めないなど、社会の側から圧力をかけていくしか問題の解決には繋がらないのかもしれない。
(取材・執筆=Dan Ryu【韓国紙記者】、翻訳・構成=河鐘基)

【前編】「ビッグバンのスンリ、偉大なる実業家からの転落…韓国社会にはびこる性接待、警察との癒着」はこちら

河鐘基

河鐘基

1983年北海道生まれ。株式会社ロボティア代表取締役。テクノロジー専門ウェブメディア「ロボティア」を運営。著書に 「AI・ロボット開発、これが日本の勝利の法則」(扶桑社新書)、「ドローンの衝撃」(扶桑社新書)、「ヤバいLINE 日本人が知らない不都合な真実」(光文社)。訳書に「ロッテ 際限なき成長の秘密」(実業之日本社)、「韓国人の癇癪 日本人の微笑み」(小学館)など。

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