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木下隆之「クルマ激辛定食」

不思議なことに“肥大化した”トヨタ新型「RAV4」が爆発的に売れている理由

文=木下隆之/レーシングドライバー
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トヨタ自動車「RAV4」

 2019年春。5代目となる「RAV4」(トヨタ自動車)を見て驚いた方もいるのではないだろうか。「しばらく見ないうちに、こんなになっちゃったのか」といった嘆きと、「ずいぶんと成長して帰ってきたね」との歓待の気持ちが交錯したに違いない。

 というのも、長い間日本市場でも高い人気を博してきたRAV4だが、先代となる4代目は日本に投入されなかったのだ。日本に欠かせないモデルとして定着していたのに、RAV4の生息地は北米になり、日本に背を向けたのである。その空白の期間が日本のユーザーにどれほど影響するのか、不安でもあった。

 先代が日本市場に投入されなかった理由は、ボディの肥大化にあったとアナウンスされている。人気の北米ユーザーの趣味嗜好を優先したことで、ボディサイズは拡大された。それが日本のユーザーに受け入れられないのではないかという不安である。

 一方でトヨタの日本市場でのラインナップには「ハリアー」があり、のちの「C-HR」がある。ドル箱ともいえるコンパクトSUV(スポーツ用多目的車)市場には、真打の穴を埋めるべく駒は揃っている、という計算も働いたに違いない。

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 ともあれ、RAV4は日本に戻ってきた。しかも、ボディは肥大化した。特に驚いたのは、キャラクターがまるで別人のように様変わりして誕生したことだ。これがRAV4なのかと、一旦は我が目を疑ったほどである。

 初代RAV4は、都会をさっそうと駆け抜けるのが似合う“アーバンSUV”としての境地を切り開いたパイオニアといえた。ライバルが群雄割拠するなかでも、特異な個性的フォルムで存在感を発揮していたし、マーケティングが見事に当たり、新ジャンルを開拓したかのような狂乱でもあった。

 車高は低くはない。だが、「パジェロ」(三菱自動車工業)や「ランドクルーザー」(トヨタ)のように、オフロードを突き進むべきクロスカントリーモデルではない。洗練された印象の強いモデルだったのである。

突然の方向転換

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 そんなRAV4が新型になり、「オフロード自慢」を宣言したのだから、いきなりの宗旨替えに腰を抜かしかけた。ボディサイズ拡大までは、時代の要請だろうから受け入れられる。どのモデルもフルモデルチェンジのたびにサイズを拡大するのが通例だからだ。

 だが、かつてはオンロード至上主義を声高に吠えていながら、180度の方向転換で、オンからオフへと活動の場を移したことは驚きである。コクピットからは、ダート走行用のセレクトモードが選択できる。「マッド&サンド」は、道なき道の泥濘地でスタックしないためのモードである。あるいは砂浜でも走り抜けられるような設定だ。「ロック&ダート」は、がれきや岩場、あるいは泥道を駆け抜けるためのモードである。「ダウンヒルコントロール」なる機能は、崖を下るような場面で効果を発揮する。一般のシチュエーションでは、まず必要ない。ほとんどランドクルーザーやレンジローバー(ランドローバー)の世界である。

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 そう、あれほど都会的なしゃれた空気感で人気を奪い取ったRAV4は、ステージをオフロードに替えた。銀座や青山ではなく、富士山麓かボルネオがステージだというのだから、その変身ぶりは潔い。

 それでも不思議なことに、RAV4は爆発的に売れている。いまもっとも世界が求めるコンパクトSUV市場であるものの、凱旋直後から販売好調なのは、RAV4の底力であろう。

 4代目のブランクも肥大化も、そして突然の宗旨替えも、RAV4にとってはささやかなことのようだ。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)

木下隆之/レーシングドライバー

木下隆之/レーシングドライバー

プロレーシングドライバー、レーシングチームプリンシパル、クリエイティブディレクター、文筆業、自動車評論家、日本カーオブザイヤー選考委員、日本ボートオブザイヤー選考委員、日本自動車ジャーナリスト協会会員 「木下隆之のクルマ三昧」「木下隆之の試乗スケッチ」(いずれも産経新聞社)、「木下隆之のクルマ・スキ・トモニ」(TOYOTA GAZOO RACING)、「木下隆之のR’s百景」「木下隆之のハビタブルゾーン」(いずれも交通タイムス社)、「木下隆之の人生いつでもREDZONE」(ネコ・パブリッシング)など連載を多数抱える。

Instagram:@kinoshita_takayuki_

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