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かんぽ生命の保険は加入してはいけない?顧客が「もらえる保険金」より「払う保険料」が多い

文=清談社
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記者会見で頭を下げる日本郵便の横山邦男社長、日本郵政の長門正貢社長、かんぽ生命の植平光彦社長(左から)(写真:毎日新聞社/アフロ)

 2019年、保険業界最大のトピックといえば、かんぽ生命保険の不正販売問題だろう。これは、保険料の二重払いや無保険状態で放置するなど、顧客に不利益を与えるような販売が明らかになったものだ。この問題を受けて、日本郵政の長門正貢社長、日本郵便の横山邦男社長、かんぽ生命の植平光彦社長のトップ3人がそろって引責辞任した。

 金融庁は、かんぽ生命と日本郵便に対して新規の保険販売を対象に3カ月間の業務停止命令を、日本郵政を加えた3社には業務改善命令を出している。また、総務省からも、日本郵便に保険販売業務の3カ月間停止、日本郵政と日本郵便に対しては業務改善命令という行政処分が下された。

 日本郵政グループが設置した特別調査委員会の発表によると、670件を法令や社内規定に違反した契約と認定、違反の疑いがある契約は1万2836人にのぼるという。

 不正販売が横行した背景には、15年に日本郵政グループの日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の3社が株式上場し、それぞれの販売ノルマが厳しくなったことが挙げられている。特に、かんぽ生命の保険渉外員の基本給は約10%下がり、歩合給の割合が高まったといわれている。

 そのため、保険渉外員は満額の手当金がもらえる「新規」契約のために、保険の「乗り換え」を希望する顧客に対し、旧契約を解約させずに新たな保険を契約させて保険料を二重払いさせたり、新規と認定されるために旧契約の解除から新契約までの間を空けて無保険状態にさせたりするなど、顧客の不利益になる販売を行っていた。

 この問題を最初に報じたのは2018年4月の『クローズアップ現代+』(NHK)だ。番組では「(保険を)必要ないと思って売っている」と明言する郵便局員の声が紹介され、不適切な販売を認識していても売らざるを得ない現場の実態が浮かび上がった。

 保険商品に限らず、仮に苛烈なノルマが課せられたとしても、品質や価格の面で優位性があれば売れるはずだ。しかし、かんぽ生命問題の本質は、そもそも顧客が損する商品設計になっている点にある。そのため、普通に営業していては売れないからこそ、不正な販売に手を染めざるを得なかったのだ。

かんぽ生命の保険料が他社より高い理由

 FPサテライト代表取締役でファイナルシャルプランナーの町田萌氏は「かんぽ生命の保険料は他社より割高のため、プロの目から見て勧めるのは難しい」と話す。

 たとえば、かんぽ生命の終身保険「新ながいきくん」。基準保険金額1000万円の設定で見ると、40歳男性が60歳まで保険料を払う場合、払込総額は1022万4000円になる。つまり、もらえる保険金より支払う保険料のほうが多くなってしまうのだ。

「かんぽ生命は民営化後もなかなか効率化が進まず、人件費や会社を維持するための経費『予定事業費率』が高くなっているため、保険料が割高なのではないでしょうか。予定事業費率は公開されていないので、あくまでも推測になってしまいますが……」(町田氏)

 保険料は「予定死亡率」「予定利率」「予定事業費率」の3つの数字を参考に算出されるといわれている。過去の統計をもとに計算される予定死亡率。金融庁が設定する「標準利率」を目安に決まる予定利率。この2つの数字は各社とも大きな違いはなく、ここで保険の原価部分にあたる純保険料が決まる。

 そこに、予定事業費率をもとに計算する付加保険料が積み重なる。かんぽ生命をはじめ大半の保険会社は予定事業費率を公表していないが、純保険料に大きな差がないとすれば、かんぽ生命の保険料が割高なのは予定事業費率が他社より高いからと考えられるわけだ。

学資保険も支払う保険料のほうが多い結果に

 また、「かんぽ生命の商品は基本的に医療特約がセット販売されており、これも保険料が割高になる理由のひとつ」と町田氏は指摘する。

 国民皆保険制度の日本では、健康保険証を提示すれば医療費は3割負担、70歳以上は2割、75歳以上なら1割負担で済む。また、手術や入院で医療費が高額になったとしても、所得に応じた負担上限が設けられている「高額療養費制度」が活用できるので、医療保険が必要となるケースは限られている。しかし、かんぽ生命は、すべての人に必ずしも必要とは限らない医療特約を組み込んでおり、そのため保険料が高くなっているのだ。

 子どもの進学に備えるための学資保険も同様に割高だ。かんぽ生命の学資保険「はじめのかんぽ」は、前述の終身保険のように支払う保険料が受け取る学資金を上回っている。この商品は18歳満期で、子どもが0歳のときに加入すれば、総額で300万円を受け取れるというプランだ。しかし、そのために支払う保険料は総額316万2240円になり、やはり顧客が損をしてしまう。これなら、いくら低金利とはいえ、まだ定期預金などで運用したほうが賢明なことは誰でもわかるだろう。

 学資保険には、契約者の死亡時にはその後の保険料を支払う必要がなくなるというメリットはあるが、これは他社も同じ仕組みだ。念のため試算してみると、明治安田生命保険や富国生命保険などの学資保険は、もらえる学資金が払込保険料の総額を下回ることはなかった。

 これらの実態を知ると、そもそも顧客が損をする商品をかんぽ生命が販売していたことが、不適切な営業につながったともいえる。町田氏は、保険選びについて以下のようにアドバイスする。

かんぽ生命に限らず、最近の保険商品は複雑になっているので販売員も詳しく理解していないことがあります。ノルマに追われて客に押し付けてくることも多く、そうした商品は必ずしも自分に合った保険とは限りません。まずは公的な社会保障制度が使えないかを検討し、それから他社の保険と比較するなど、しっかりと吟味して見極めることが大切です」(同)

 かんぽ生命の商品は業務を委託された日本郵便、つまり郵便局の窓口でも販売されているが、一連の不祥事で郵便局のイメージも地に落ちたといっていい。かつては高い信頼性と認知度を誇った“郵便局神話”まで崩壊させたこの問題は、いったいどこに向かうのだろうか。

(文=清談社)

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せいだんしゃ/紙媒体、WEBメディアの企画、編集、原稿執筆などを手がける編集プロダクション。特徴はオフィスに猫が4匹いること。
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