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なぜ世帯年収500万未満の“貧困専業主婦”の方が幸福度は高いのか?

文=藤野ゆり/清談社
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「gettyimages」より

「今時、専業主婦をやれるなんてセレブだけでしょ?」

 そんな声を多く耳にするようになった。夫婦共働きが当たり前になった昨今では、「専業主婦」には“お金に余裕がある家庭だけに許された特権”のようなイメージが定着しつつある。

 実際、専業主婦世帯数は年々減少傾向にあり、厚生労働省の平成30年「厚生労働白書」などによると、専業主婦の世帯は全体の約33%と、およそ3世帯に1世帯の割合だ。同調査によると、1980年頃は約65%と半数以上が専業主婦世帯だったが、95年頃を境に共働き世帯との割合が逆転している。

 また、内閣府の「男女共同参画白書」によると、性別による役割分担の意識も変化している。「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方に反対する人の割合が男女ともに増加傾向にあり、平成28年の調査では初めて反対が賛成の割合を上回っている。

 経済的事情や女性の社会進出という意識変化を背景に、自ら共働きを選択する女性が増え、専業主婦になる女性は少数派になりつつあるようだ。一方で、世の中にはあまり知られていない「貧困専業主婦」という人たちが存在することをご存じだろうか。

専業主婦の8人に1人は貧困?

『貧困専業主婦』(新潮社/周燕飛)では、2011年に行った「子育て世帯全国調査」という大規模調査から、世帯所得が全世帯所得の中央値の半分にも満たない「貧困」家庭が専業主婦世帯の12%にものぼることを明らかにしている。つまり、専業主婦の8人に1人は貧困に陥っているのだ。

「100グラム58円の豚肉をまとめ買いするため自転車で30分走る」「月100円の幼稚園PTA会費の支払いも渋る」「小学校のイベント会食費500円を拒む」など、同書には貧困専業主婦の切実な実例が並べられている。

「そもそも、専業主婦というのは共働き世帯と比較して経済的には非常に損をしている存在です」

 そう話すのは、『専業主婦は2億円損をする』(マガジンハウス)など経済関連の著作を多く持つ作家の橘玲氏だ。

「日本では、大卒の平均的サラリーマンの生涯収入は男で3~4億円、女で2~3億円です。共働き夫婦の生涯年収を仮に総額6億円として、うち15%を貯蓄すれば、それだけで9000万円。貯蓄率を10%の6000万円としても、年率3%程度で運用すれば、やはり退職時の資産は1億円を超えます。この数字を見れば、結婚や出産を機に専業主婦になることが、いかに経済的に不利な選択かわかる。これは妻を専業主婦にしている夫の問題でもあるんですが、世帯内の働き手が減ることで収入も貯蓄の機会も失ってしまうわけです」(橘氏)

 健康上の理由や家庭内の事情で働きたくても働けない、子どもを保育園に預けられず待機児童になってしまっている……貧困専業主婦になった経緯はさまざまだが、なかには自ら望んで「貧困専業主婦予備軍」となってしまう若い世代も少なくない、と橘氏は言う。

「大阪の若いフリーターを調査した『排除される若者たち フリーターと不平等の再生産』(解放出版社)のなかで内田龍史さんが10代、20代の女性フリーターにインタビューしているのですが、そこからわかるのは彼女たちの『専業主婦志向』です。19名中7名は将来的に専業主婦になることを希望、結婚後も仕事を続けたいという人は3名で、正社員志向はわずか1名でした。もうひとつの特徴は早婚傾向で『仕事がないよりも結婚していないほうが焦る』『まわりも専業主婦志望』など、非常に狭い世界の限定された視野でしか将来を判断できていないことがわかります」(同)

 楽観的ともいえる若年層の専業主婦願望は、いったいどこから生まれるのか。

「彼女たちは、中卒や高校中退の学歴が将来不利になることを親や教師から聞かされながらも、自らの意思でドロップアウトしていく。内田さんは、『その背景には福祉政策によって貧困層にもある程度の生活水準、豊かさが享受されていることが条件となっているのではないだろうか』と述べています」(同)

 ごく限定的な視野で物事を判断した結果、現代の福祉制度があれば「貧しくても働かなくたって、なんとか生きていけるだろう」と楽観的に考え、貧困専業主婦を選択する女性も少なからず存在することがわかる。

貧困専業主婦の「幸せ度」が高い不思議

 とはいえ、「働かない」という選択をするのであれば、年収が高い男性と結婚する以外に貧しさを回避する方法はほとんどない。前述の『貧困専業主婦』では、貧困専業主婦の6人に1人は「子供が軽い持病を持っている」、または「重病・難病・障害」を抱えている、などの健康格差が広がっていることや、必要な食料を満足に買えないなどの食格差、そして将来的には教育格差が生まれることを指摘している。

 貧しさからくるデメリットは、列挙すればキリがないだろう。それでも、なぜ貧困専業主婦であり続けるのか。その背景に「貧困専業主婦は幸せである」という、ひとつの仮説がある。

「『貧困専業主婦』には、貧困専業主婦の3人に1人はとても『幸せ』と感じているとの調査が紹介されています。これはあくまでも本人申告の(主観的な)調査なのですが、働いている女性より専業主婦のほうが幸福度が高いのはよく知られた話で、内閣府の調査でも、現在の生活の満足度は一貫して働く女性より専業主婦のほうが高いことがわかっています。

 より具体的には、世帯年収500万円未満の低収入世帯の専業主婦の3人に1人(35.8%)が『高幸福度』で、「中幸福度」を合わせると、その合計はほぼ9割に達します。つまり、貧困でも専業主婦は『幸せ』なのです」(同)

 貧しくても家にいて、自分の時間が確保されているほうが幸せと感じている女性たち。女性の社会進出が声高に主張される一方で、こうした女性たちの存在も決して見逃してはいけないだろう。

(文=藤野ゆり/清談社)

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せいだんしゃ/紙媒体、WEBメディアの企画、編集、原稿執筆などを手がける編集プロダクション。特徴はオフィスに猫が4匹いること。
株式会社清談社

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