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矢野耕平「塾の小窓をのぞいたら」

過熱化の中学受験、コロナで急激に冷え込む…2~3年後から「受験しない」傾向が本格化

文=矢野耕平/中学受験指導スタジオキャンパス代表
過熱化の中学受験、コロナで急激に冷え込む…2~3年後から「受験しない」傾向が本格化の画像1
「Getty Images」より

景気と無縁でいられない中学受験

 本章の「前編」的な位置づけとなる当サイトの記事『暁星は倍率20倍…首都圏の中学受験が大激戦、コロナ後の来年は「受験地図」急変』を読んでほしい。そこでは、今春2020年度の中学受験が大激戦であったこと、そして、比較的短期間で中学入試を志す「カジュアル層」が増加していることを紹介した。しかし、このたびのコロナ禍は中学受験を大きく変容させる可能性が高いと文章を締めくくった。

 昨年の12月に刊行された拙著『早慶MARCHに入れる中学・高校』(朝日新書/朝日新聞出版)から一部引用したい。

<首都圏の中学受験市場はいま過熱化している。前回のピークはいまから11年前の2008年度入試だったが、同年秋に勃発した国際的な金融危機、リーマンショックに端を発した景気低迷などが原因となり、その後数年間は私立中学受験市場の「底冷え」が続いた。しかし、2015年、2016年、2017年、2018年、2019年と私立中学受験生総数、小学校在籍者総数から算出される私立中学受験率ともに、伸長の一途を辿っている>

 ここで注目したいのは、「リーマンショック」の影響による「私立中学受験市場の衰退」である。中学受験はお金のかかる世界である。たとえば、大手の進学塾にわが子を小学校3年生~6年生の4年間通わせるとその総額は250万円~300万円くらいになる。そして、晴れて希望の私立中高に通学を始めると、月額平均で8万円~10万円ほどが必要となる。

 当たり前だが、中学受験を志すためには、ご家庭にはそれ相応の収入が求められる。リーマンショックが中学受験の衰退化につながったのは、親の収入面の低下や、経済的に先行きの見えない親の心理的不安が根本にあるのだろう。中学受験の世界はかように景気の影響を多分に受ける性質を持つのだ。

中学受験市場は低迷の一途を辿る

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『早慶MARCHに入れる中学・高校』(朝日新書/朝日新聞出版)

 この5月4日、政府は4月7日に発令した新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づく緊急事態宣言の適用期間をさらに5月31日まで延長することを表明した。これにより、日本の経済市場はさらに1カ月冷え込むことを余儀なくされたわけだ。もちろん、このコロナ禍は世界的規模のものである。新聞やネットの情報を見る限り、リーマンショック時とは比較にならないくらい甚大な経済的損失が生じるのは間違いないように思う。

 よって、これからの中学受験市場は間違いなく低迷の一途を辿る。わが子が現時点で5年生や6年生である場合はさすがに長く塾通いをしているところが多く、中学受験を急遽回避するご家庭は少ないだろう。そう考えると、中学受験市場の本格的な崩壊は2~3年後に起こるのかもしれない。

 そして、前記事で言及した今春多く見られたいわば「カジュアル層」の多くは、この事態をきっかけに中学受験の道を選択しなくなるだろう。

コロナ禍で保護者が抱える不安

 経済的な苦境だけではない。「新型コロナウイルス」という目に見えない感染源という性質を考えると、これもまた中学受験に影を落とすことになる。

 まず、私立中高生の大半は「電車通学」である。たとえ今後コロナが終息に向かったとしても、いつぶり返すかわからないウイルスを考えると、わが子を満員電車に乗せて学校に通わせることに抵抗感を抱く保護者が多いのではないだろうか。

 これは今後の志望校選定の上での大切な基準のひとつになるだろう。つまり、もしわが子を私立中高に通わせるにしても、「通勤通学ラッシュ」を避けられるよう、自宅から徒歩や自転車で通える学校、あるいは、「下り」の電車で通学させようとする保護者が増えるだろう。こう考えると受験者を集めやすいエリアにある学校とそうでない学校が浮かび上がってくる。

【受験者を集めやすい学校】

 中学受験熱の高く、多くの児童を抱えている地域(たとえば、港区・文京区・目黒区・品川区・世田谷区など)の近隣、もしくはそこからやや「下り方面」に位置している学校。

【受験生を集めにくい学校】

 近隣の児童数が少なく、ビジネスパーソンなどの乗降客でごったがえす駅を最寄りとする学校(たとえば、千代田区・渋谷区・新宿区など)。

コロナ禍は逆風ではあるものの……

 5月といえば、例年は多くの私立中高で体育祭や文化祭がおこなわれる。こういうイベントに足を運ぶことでその学校に憧れを抱いたり、中学受験をしようという意志を固めたりする小学生たちが多い。このような機会が奪われてしまっているのは、私立中高側にとって、中学受験の世界にとっても損失だ。このように見ていくと、コロナ禍は中学受験にとって逆風である。それも暴風レベルの。

 しかし、このような状況下だからこそ、子どもたちが中学受験勉強に打ち込むことには大きな意味があると私は考えている。そして、コロナ自粛期間の中で、私立中高一貫校の独自の取り組みは多くの子どもたちを救っている。本連載記事「塾の小窓をのぞいたら」では、中学受験勉強の面白さや私立中高一貫校の魅力を伝えていこうと思っている。

(文=矢野耕平/中学受験指導スタジオキャンパス代表)

矢野耕平/中学受験指導スタジオキャンパス代表

矢野耕平/中学受験指導スタジオキャンパス代表

1973年生まれ。大手進学塾に13年間勤めたのちに、中学受験専門塾スタジオキャンパスを設立、代表に就任。現在は、東京・自由が丘と三田で2校を展開。また、国語専科・博耕房の代表も務める。
様々なオンラインメディアで中学受験や国語教育について記事を執筆中。著書に『男子御三家』『女子御三家』(ともに文春新書)、『13歳からの「気もちを伝えることば」事典』(メイツ出版)、『旧名門校 VS. 新名門校』(SB新書)など多数。最新刊は『令和の中学受験 保護者のための参考書』(講談社+α新書)。
2児の父。
株式会社スタジオキャンパス

Twitter:@campus_yano

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