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「相馬勝の国際情勢インテリジェンス」

中国、報じられない「ウイグル族」強制収容所・強制労働の闇…100万人に洗脳教育か

文=相馬勝/ジャーナリスト
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新疆ウイグル自治区 (「Getty Images」より)

 6日に放送されたテレビ朝日の情報番組で、小松靖アナウンサーが語った次の発言が話題を呼んでいる。

「我々メディアも非常に扱いにくい問題なんですよね、(中国の)ウイグル問題って。中国当局のチェックも入りますし、我々報道機関でウイグル自治区のニュースを扱うのはこれまで、ややタブーとされてきた部分があって。去年、共産党の内部告発の文書が出て、ニューヨーク・タイムズが報じて、西側のメディアが報じて、我々が報じやすい素地ができた」

 これについて、ネット上では「暗に日本のメディアは中国共産党の検閲下にあると告白しているわけだ」との反応が出ている。

 新疆ウイグル自治区では、少数民族のウイグル族を中心とするイスラム教徒を強制収容所に入れて強制労働に従事させ、「就職のための再教育」という名目で中国共産党政権に忠誠を誓わせるための集団洗脳が行われており、それに従わない者は拷問され、ひどい時には死に至ることもあると伝えられている。

 小中学生は親や親戚とは引き離され、ウイグル族などの少数民族の言語を使うことは禁止。中国語(漢語)しか話すことは許されず、共産主義にのっとった思想教育のほか、中国共産党革命を中心として歴史教育などが施されているようだ。

「ようだ」というのは、中国当局による洗脳教育などの実態が明らかにされていないからだ。しかし、小松アナウンサーが述べているように、昨年11月16日付の米紙ニューヨーク・タイムズが、中国の新疆ウイグル自治区で最大で100万人ものイスラム教徒(主にウイグル人)が中国共産党の「再教育」キャンプに強制収容されている問題について、弾圧の実態が記された共産党の内部文書を入手したと報じたことで、洗脳教育や弾圧の詳細がよりはっきりしてきたのだ。

 内部文書によると、海外や中国の都市部から新疆ウイグル自治区に帰省した人々に対して、当局が家族の身柄を拘束していることについて、どう説明するかを具体的に指示している。「収容されている家族は過激主義の危険性についての『教育』を受けており、法を犯したわけではないがまだ解放できない――と説明しろ」という内容だ。また、「収容された家族は誤った思想を捨て、中国語と仕事の技能を無料で学ぶことができるこのチャンスを大切にするべきだ」と説明するようにも指示されている。

 このほか、収容された家族が収容所から釈放されるのは、収容者の学習態度や党への従順さなどポイント制で決定されるが、「家族の言動も点数に影響する」と警告されているという。まさに100万人ものイスラム教徒が宗教を理由に強制的に身柄を拘束・収容されているというのはイスラムへの文化的大虐殺(ジェノサイド)といえるだろう。

習主席暗殺未遂事件

 ところで、ジョン・ボルトン前米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が最近出版した政権暴露本『The Room Where It Happened(それが行われた部屋)』には、習近平中国国家主席がトランプ大統領と会談した際、新疆ウイグル自治区強制収容所を建設する理由を説明した事実が明らかにされている。習氏は「ウイグル族が中国人に対してテロ活動をしばしば行っているためだ」としたが、「トランプ氏は収容所建設をまったく正しいことだと考え、習主席に進めるべきだと話した」と記されている。

 習氏がトランプ氏に説明したように、ウイグル族による暴動事件やテロ活動は数多く起きている。例えば2009年6月、広東省の工場でウイグル族労働者が漢族(中国人)に襲われ2人死亡した事件の報復として、翌7月には新疆ウイグル自治区ウルムチでウイグル族学生による大規模暴動が発生し、多数のウイグル族の市民が暴動に参加し、漢族数百人が殺害されるという事件が起きた。最終的に中国政府は人民解放軍も動員して、ウイグル族暴動を鎮圧し、数万人もの逮捕者を出したとの報道もある。

 その後も、ウイグル族の暴動やテロ活動は頻繁に起きているが、実は強制収容所を建設して、100万人ものイスラム教徒を収監、再教育するというジェノサイド的な弾圧は実行されていなかった。

 それが現実のものになったのは、ある事件がきっかけだった。それは習主席暗殺未遂事件だったのではないかと考えられる。

 2014年4月30日、ウルムチ駅に爆発物が仕掛けられ、3人が死亡、79人が負傷した事件が起きた。習氏は4月27日から30日までウイグル自治区を視察しており、爆破事件が起きた際、ウルムチ市内を視察していたとの情報がある。国営メディアによると、事件が起きたのは、漢族が多い四川省からの列車が到着したあとで、何者かが爆発物やナイフで乗降客らを襲撃。同市で爆弾事件が起きたのは過去17年で初めてだという。

 ちょうどこの攻撃が起きたときは、警察や武装警察による駅の警備が厳しいとされた時間帯で、習氏が近くに滞在していたことから、警備が強化されていたのではないかとみられる。そのようなときにテロを仕掛けるという、巧妙で大胆不敵な手口から、テロリストの本当の狙いは視察中の習主席暗殺だったとみられるのである。

 前出のニューヨーク・タイムズがすっぱ抜いた、イスラム教徒への弾圧の激化を記した機密文書には「習主席はイスラム過激主義について、『ウイルス』と同じようなもので『痛みを伴う積極的な治療』でしか治せないと考えている」と書かれているという。習氏はすんでのところでテロの犠牲にならなかった分、イスラム過激分子への憎しみが極限まで増大し、イスラム教徒のジェノサイドを決意し実行したのではないかとも考えられる。

日常茶飯事な海外メディアの締め出し

 いずれにしても、中国の最高指導者がイスラム教徒の徹底弾圧を命じているのだから、それを批判的に報じれば、そのメディアは当局から徹底的にマークされて中国から追放され、その後は再入国するのは難しいだろうことは容易に想像がつく。実際、ウルムチ駅爆破襲撃事件が起きた約1年半後の16年1月、中国のウイグル族に対する政策を批判的に報じた北京駐在の仏誌記者に対して、中国外務省は記者証の更新には応じられないとして、事実上の国外追放措置を実施したのだ。

 さらに、ウイグル族に関する機密文書を報じたニューヨーク・タイムズも、このところの米中対立のあおりを受けたかたちだが、ワシントン・ポストやウォールストリート・ジャーナルとともに、事実上の国外退去処分を命じられている。また、ウイグル族寄りの言論を発表している日本の大学の研究者が北京国際空港の税関で入国を拒否された例もある。

 かりに、日本のメディアならば、中国に入れない、あるいは中国から追放されることがわかっていながら、ニューヨーク・タイムズのように当局の逆鱗に触れるような記事を報道するかどうか。少なくとも及び腰になるだろうことは間違いない。日本のメディアにとって、良くも悪くも中国のニュースは極めて重要なだけに、それが現地から報じられないとなれば、自己規制するなというのは酷であるかもしれない。

 筆者も産経新聞の記者時代、中国での取材ビザが拒否されたことは一度ならずあった。香港支局長時代も中国大陸に入るビザの発給を拒否されたこともあり、広東省深センの駅で入国を拒否され、香港に引き返さざるを得ないこともあった。

 その後、一時期、中国では報道機関への締め付けが緩和されたこともあったが、習近平指導部が発足して再び報道規制が強化されている。同時に、少数民族対策や対米関係、さらに領土・領海問題をめぐって近隣諸国との関係なども厳しさを増している。一連の中国の態度の硬化は、習主席の暗殺未遂事件とも関係しているのではないかと邪推したくなるほどである。

(文=相馬勝/ジャーナリスト)

相馬勝/ジャーナリスト

相馬勝/ジャーナリスト

1956年、青森県生まれ。東京外国語大学中国学科卒業。産経新聞外信部記者、次長、香港支局長、米ジョージワシントン大学東アジア研究所でフルブライト研究員、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員を経て、2010年6月末で産経新聞社を退社し現在ジャーナリスト。著書は「中国共産党に消された人々」(小学館刊=小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞作品)、「中国軍300万人次の戦争」(講談社)、「ハーバード大学で日本はこう教えられている」(新潮社刊)、「習近平の『反日計画』―中国『機密文書』に記された危険な野望」(小学館刊)など多数。

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