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オタクドクター“Chem”の「医療ニュース、オタク斬り!」

交番勤務マンガ『ハコヅメ』に現役医師も共感…警察官のデスクワークの地味さと疲労困憊

文=Dr.Chem(アニヲタ医師)
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【完了】交番勤務マンガ『ハコヅメ』で描かれる、警察官の書類業務の地味さと疲労困憊…医師も共感の画像1
『ハコヅメ~交番女子の逆襲~』第1巻。泰三子による、警官のあるあるや日常を描いた警察マンガ。「モーニング」(講談社)にて連載中。

 ご無沙汰しております。アニヲタ医師、Dr.Chem(ちぇむ)でございます。

 皆さんは、医者の仕事というとどんなイメージを持たれますか?

 実際のところ、病院に勤める勤務医としての医者の仕事はというと、何日かに一度は当直担当として、救急受診された患者さんや入院中の具合が悪い患者さんへの対応に追われ、翌日にはそのまま平常の業務が待っていることが普通。患者さんの病状や置かれた状況によっては、医療者自身も危険に晒されることもあり得ます(この点は、現在でいうと、新型コロナウイルスの流行下で、医療者自身がウイルスに感染してしまうリスクのなかで診療に当たっていることをイメージいただければと思います)。過酷ではあっても、その大半はドラマやフィクションの見せ場で描かれるような患者さんの急変への対応や鮮やかな処置ではなく、淡々とした地味な処置や治療が続きます。もっとも、一般の診療においては、淡々と地味に物事が進むほうが安全かつ順調に治療が進んでいるということであり、そのほうがかえって好ましいわけですが。

 患者さんの勤務先や学校に用意するための診断書や診療情報提供書のほか、保険診療での報酬請求に必要な診療報酬明細書(いわゆるレセプト)などの書類仕事も馬鹿にならない量です。そうした業務の合間を縫って、専門医資格の取得・更新など、業務の質を高めるための勉強の時間も必要です。また、診療科や病院によりその程度は大きく異なりますが、複数人のスタッフがチームとして治療に取り組むという性質上、体育会系的な上下関係が強くなりがちな環境でもあります。

日々の地味な業務はフィクションには描かれない

 こうした医療現場の「リアル」な側面というのは、フィクションでは表立って描写されることは少ないですし、仮に描かれたとしても、われわれ実際の医療者にとっては、現実の仕事現場での大変な思いを思い起こさせられるだけとなり、なかなか楽しむことはできないでしょう。また一方で医療者(とりわけ医師)はほかの分野のお仕事について触れる機会が少ないこともあり、いわゆる「お仕事もの」と分類されるような他業種を描いたフィクションを見ても、その仕事内容についてはなかなかピンと来ないことも多いです。

 例えばドラマでも大人気を博した「半沢直樹」シリーズなどは、個人的にもカタルシスのある内容で物語としては大好きですが、それを読んだり観たりしても、銀行の業務について深く理解できる、というわけではありません。こちらもむしろ、実際の銀行員の方々の日々のストレスを考えれば、われわれ視聴者は現場を知らないからこそフィクションとして楽しめているのでしょう。

 このように、「お仕事もの」作品で描かれる“あるある”について「そうだよねー」と共感することと、その業種について「へー!」と驚きをもって楽しむこと。この2つを両立させている作品に出会うことは、決して多くはないと思います。

当直での疲労困憊、書類業務に追われる日々に医者としても親近感を感じる

 長い前置きでした。今回紹介するマンガ作品『ハコヅメ~交番女子の逆襲~』(講談社「モーニング」にて2017年より連載中)は、新任の女性警察官が交番に赴任するところから始まり、警察官が日常で遭遇するさまざまな事件を描いている作品です。医療者にとって、決して近いとはいえない(かかわらなくて済むならそのほうがありがたい)業種ですが、しかし、そこで描かれる警察官の切実な日常に、医療者として共感せざるを得ないところが多々あり、キレのある数々のセリフのセンスもあって、筆者はすっかり魅了されてしまいました。

 本作で描かれる警察官の生活には、前段で述べた医療者の生活に含まれている要素、つまり、

・当直で疲弊するスタッフ
・一つひとつは些末ながら、積み重なっていつまでも終わらない書類仕事
・危険と隣り合わせの現場
・体育会系の上下関係

 これらがてんこ盛りなのです。例えば……

・過労でテンションがおかしくなった刑事課(第5巻、その44「ポリスマンズ・ハイ」)

・差し押さえた成人向けDVDの精査を1日12時間続けた生活安全課が戦地帰りのような目つきに(第8巻、その69「地獄へシャトルラン」)

・当直中に眠れないまま仕事に追われてヘロヘロな警官たちよりも、捕まった容疑者のほうが元気(第9巻、その76「オッサンに包まれたなら」)

 3つめの話などは、当直中に救急車が立て続けに来て対応しなくてはならないときのことを思い出し、思わず「そうだよなー」と共感する一方で、ユーモラスな描写のお陰で深刻にならずに楽しめます。

 また、業務のかたわら、昇任試験のために法律・実務・論文などの勉強がついて回る事実などは(第11巻、その91「裏取り引き資料」)、診療の合間に論文や学位取得に追われている身にとって、意外なところで親近感を味わえるポイントもあったりしました。

『ハコヅメ』で描かれる、“ありふれた交通事故”の凄惨さ

 しかし、警察という業種の性質上、その仕事は人命がかかるものであり、現実の厳しさを見せつけてくるエピソードもあります。交通事故の凄惨さを描いたエピソードなどはその代表で、日頃のスピード違反の検挙などでは嫌われがちな交通課の方々が、どんな思いで仕事に臨んでいるか、その背景にあるものを思い知らされます(第4巻、その27「トラウマ」)。

 また、認知症のある高齢者とのやり取りを巡るエピソードでは、医療者にとっては多くの場合、病院という場でのみ接することの多い患者さんたちの生活を知ること、そしてそこから読み取れるサインの重要性も知ることができます(第11巻、その92「あきらめの一線」)。

 本編で語られている通り、それは、「『誰か』がやらなきゃいけない仕事」なのです(第11巻、その90「未来はボスゴリラ」)。

 警官たちのコミカルな会話と“お仕事あるある”に笑わせてもらいつつ、医療従事者としての自分の立場も見直すきっかけになる作品でした。

Dr.Chem

Dr.Chem

ファーストガンダムと同じくらいの時期に生まれた、都内某病院勤務の現役医師。担当科は内科、オタク分野の担当科はアニメ、ゲームなど主に2次元方面。今回取り上げた『腸よ鼻よ』では、ちょいちょいいろんな分野からのパロディネタが挟み込まれていますが、特に作者が筋肉フェチなこともあってか、格闘マンガ、特に『バキ』ネタが多いです。ちょうどNetflixで『バキ』大擂台賽編が放送中にて、合わせて楽しんでます。

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