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経団連、“ポスト中西”が誰もいない…次期会長選び、有力候補が不在に

文=有森隆/ジャーナリスト
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「日本経済団体連合会 HP」より

 経団連の中西宏明会長(日立製作所会長)は7月16日、検査のため都内の病院に入院していることを明らかにした。都内で開かれた経団連の夏季フォーラムに出席した中西氏は、冒頭のあいさつで「体調はほとんど万全だが、最近数値が異常となっており、検査入院することになった」と述べた。その後のプログラムには参加せず、退席し、病院に戻った。

 中西氏はリンパ腫のため、2019年5月下旬から3カ月半、病気療養し、9月に復帰した。11月下旬に病状が治まった状態である「寛解(かんかい)」との診断を受けた。「寛解」とは。『岩波国語辞典』(第八版、2019年11月22日発行)によると<全治とまでは言えないが、病状が治まっておだやかであること>。

 経団連によると、中西氏は復帰後に定期的に受けている検査で、腫瘍マーカーの数値が悪化していることがわかった。7月14日から精密検査のため入院した。入院期間は未定だ。経団連会長の代行は置かず、7月中の日程はキャンセルした。経団連の会長が長期にわたって休んだのは中西会長が初めてだ。経団連は会長不在時のルールを設けていない。会長代行を置かず、案件ごとに担当の副会長らが対応することになっている。

「がんだから、治療に専念すべきだ」(財界首脳)という声が多い。経団連会長経験者は「経団連会長はボランティア(の仕事)」と言っていた。それに、今は政策提言しても安倍政権が採用するわけでもない。「(中西氏本人が)名誉職と思っているのなら、もう2年やったんだから、辞めていいのではないか」(経団連の元副会長)。かつては「財界総理」と呼ばれた経団連会長は、今や、名誉職でしかないといった辛辣な見方さえあるから、こういう発言につながる。

 コロナ第2波が東京・大阪など主要都市を襲っているなか、財界首脳たちは「ポスト中西」を考え始めている。ポイントは「製造業にこだわるかどうか」(別の経団連副会長経験者)となる。

ポスト中西は誰もいない?

 20年7月1日現在の副会長をチェックしておく。進藤孝生・日本製鉄会長、山西健一郎・三菱電機特別顧問、早川茂・トヨタ自動車副会長、越智仁・三菱ケミカルホールディングス社長、大橋徹二・コマツ会長などが製造業出身である。

 しかし、山西氏は特別顧問だし、トヨタの早川氏は豊田章男社長が経団連になびいてくれないから代わりに副会長になってもらっている、いわば“当て馬”である。進藤氏が本命、対抗は大橋氏。越智氏が大穴(失礼な言い方になったらお許しを)というのが財界ウオッチャーの見立てだが、リストラがこれから本番を迎える日本製鉄に経団連会長を出す余裕はないはずだ。人柄からいえば越智氏は候補だが、化学出身の経団連会社については、事務局にトラウマがある。これについては後述する。

 審議員会議長・副議長で製造業出身者もリストアップしてみる。副議長の宮永俊一・三菱重工業会長や津賀一宏・パナソニック社長、吉田憲一郎・ソニー会長兼社長などがそうだ。津賀、吉田の両氏は「旬(しゅん)な経営者」(外資系証券会社のアナリスト)だが、経団連会長の椅子には興味がなさそうだ。審議員会副議長から経団連会長になる目があるとすれば、三菱重工の宮永会長だが、日本製鉄以上に経団連の会長をやる余力はないだろう。引き受けたら社内外から非難囂々である。

 こう見てくると、ポスト中西は誰もいないということになる。

 実は2019年の年末にこんな噂が広がったことがある。「三菱商事の小林健さん(当時経団連副会長、現在、審議員会副議長)が経団連会長獲りに動いている」というのだ。「三菱商事も三菱グループへの根回しを始めた」。

 そもそも経団連会長に総合商社のトップが就くということはあり得ない。小林氏は旧財閥系の総合商社、三菱商事のトップ(三菱商事の会長)だから、会長獲りレースでは二重のハンデを負っていることになる。旧財閥系のトップが経団連会長になったことはなかった。経団連幹部は「(小林氏の経団連会長の椅子獲り説を)完全なフェイク」と言い、「相当に筋の悪い情報だ。こんな情報で動くと、これまでの信用を失いますよ」と筆者は警告された。ただ、この時、経団連幹部は一言、「どこから出た情報かには興味がある」と付け足した。

 この情報はマスコミ関係者が大手商社の役員に、非公式に伝えたものだった。「中西会長は20年1月下旬、ダボス会議(世界経済フォーラム)に出席する」と当時、経団連は発表していた。あわせて、「リンパ腫は完治とまではいわないが病状はおさまっている『寛解』の状態」としていた。2月上旬にワシントンで開かれる経済界のサミット(B7)にも出席の方向で調整していると、ご丁寧にも公表していた。本当の病状は中西氏本人にしかわからない。記者会見で、かなりしんどそうな表情をすることがあるのは事実。復帰後もベストな状態ではなかったはずだ。

「経団連は鳴りを潜めたまま」

 経団連の歴史的使命は終わったと、かねてから指摘されてきた。日本の産業構造は、製造業からサービス業に転換した。だが、経団連は重厚長大産業の製造業が主力メンバーだ。IT(情報技術)化に、完全に立ち遅れた。

 12年の第2次安倍晋三政権誕生後、首相官邸と経団連の力関係は大きく変わった。安倍氏が自民党総裁に返り咲いた早々、外交や金融政策に注文をつけた当時の米倉弘昌・経団連会長に安倍氏は激しく反発。第2次政権発足後、経団連会長の「指定席」といわれた経済財政諮問会議の議員のポストを米倉氏には与えなかった。14年、米倉氏の後任として経団連会長に就任した榊原定征氏は官邸との関係の修復に努め、“安倍さんのポチ”と揶揄された。

 18年、経団連会長に就いた中西氏は、「物言う経済界」のリーダーとなることが期待されたが、「長期の不在が響き、経団連は鳴りを潜めたまま」(安倍政権に近いといわれている新興IT企業のトップ)という厳しい指摘もある。

“ポスト中西”の話に戻る。中西会長にハプニングが起こった場合、進藤孝生副会長(日本製鉄会長)が急遽、登板することになるのではないのか。この選択肢しかなさそうである。誰が経団連会長になっても1面のニュースにはならなくなったが、もし、「途中交代ということになれば経団連史上で初めてのことになるから大ニュースだ」(前出の経団連の元副会長)。はたして――。変な読まれ方をされると困るので、はっきり書いておく。筆者は中西会長の交代を望んでいるわけでは決してない。危機管理の観点から経団連の会長人事を論じたまでである。

(文=有森隆/ジャーナリスト)

有森隆/ジャーナリスト

有森隆/ジャーナリスト

早稲田大学文学部卒。30年間全国紙で経済記者を務めた。経済・産業界での豊富な人脈を生かし、経済事件などをテーマに精力的な取材・執筆活動を続けている。著書は「企業舎弟闇の抗争」(講談社+α文庫)、「ネットバブル」「日本企業モラルハザード史」(以上、文春新書)、「住友銀行暗黒史」「日産独裁経営と権力抗争の末路」(以上、さくら舎)、「プロ経営者の時代」(千倉書房)など多数。

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