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藤和彦「日本と世界の先を読む」

中国による「日本の米」買い占めが現実味…食糧消費大国の中国で食糧不足が深刻化

文=藤和彦/経済産業研究所上席研究員
中国による「日本の米」買い占めが現実味…食糧消費大国の中国で食糧不足が深刻化の画像1
「gettyimages」より

 8月10日に公表された中国の7月の食糧価格は、12カ月連続で2桁上昇となった。 8月に入るとさらに国内の穀物価格が上昇しており、中国政府はこの事態を深刻に受けとめるようになっている。

 習近平国家主席は7月22日、食糧の主要生産地である東北部の吉林省を視察し、「吉林省は食糧安全保障政策を最優先課題にすべきだ。戦争の際、東北部は非常に重要だ」と異例の発言を行った。胡春華副首相は7月27日、国内の食糧生産に関する会議で、各省の幹部に対して「食糧の生産量を増加すべきである。けっして減らしてはならない。国の食糧安全保障にいかなる手違いも許されない」と厳命した。

 中国政府首脳の一連の動きに対し、ネット上では「中国で今後食糧危機が発生するのではないか」と懸念する動きが広がっているが、その背景には、中部及び南部地域での長期間にわたる豪雨、北部地域の干ばつ、北部と南部地域のバッタの大量発生などがある。

 まず北部地域の干ばつの状況から見てみたい。昨年の中国の食糧生産量の20%を超える東北三省(黒竜江省、吉林省、遼寧省)は深刻な干ばつに悩んでいる。吉林省では、6月からの降水量は平年に比べ3割減少し、7月に入ってから9割以上減少したといわれている。遼寧省の6~7月にかけての降水量は1951年以降で最も少なくなり、同省におけるトウモロコシの生産量は3分の1に減ってしまったという。小麦の主要生産地域である河南省などでも干ばつが起きており、これから収穫される小麦の生産量は前年に比べて最大50%減少するとの予測がある。

 干ばつに悩む東北三省ではバッタが大量発生している。世界では東アフリカやインド、パキスタンなどでサバクトビバッタが大量発生して話題となっているが、東北三省のバッタは地元に棲息していたもののようである。いずれにせよ、農家にとっては「泣き面に蜂」ならぬ「バッタ」である。南部地域でもラオスからバッタ(種類は不明)が大量に襲来している。プーアル茶で有名な雲南省や農業が盛んな広西チワン族自治州では、7月末から8月にかけてバッタ対策に追われている。

中国の食糧不足、日本に影響の懸念

 国内生産の不調による価格上昇を防ぐために、中国は食糧輸入を急拡大させている。6月に大豆価格が急騰したことから、ブラジルから約1050万トンの大豆を緊急輸入したことを皮切りに、7月には小麦をフランス、ロシアなどから約600万トン輸入する契約を結んだ。中国政府にとって最も心配なのはトウモロコシの確保である。干ばつなどのせいで、国内の不足量が約1200万トンから約2500万トンに倍増したからである。

 中国は7月30日、対立が深刻化している米国産のトウモロコシを9月から約190万トン輸入する契約を締結した。過去最大規模の購入契約だが、国内の不足量をカバーするにはほど遠い。中国での食糧の用途は、食品用と飼料などに分けられるが、家畜や家禽用の飼料不足が今後発生する可能性が高いとされている。

 中国の食卓になくてはならない豚肉の価格は、アフリカ豚コレラの発生による大量処分などにより1年以上にわたり急騰しているが、その傾向はさらに深刻になるだろう。

 中国における食糧危機は、日本にとってけっして「対岸の火事」ではない。筆者が心配しているのは、中国におけるコメ不足である。中国政府は8月3日、360万トンの備蓄米を市場に放出したが、その要因は中国のコメの主要産地である湖南省などが6月から7月にかけての豪雨で深刻な打撃を蒙ったからである(8月10日付ZeroHedge)。

 中国ではコメの3毛作が一般的である。

(1)3月末に田植えし、6月下旬に収穫

(2)5月初めに田植えし、9月末に収穫

(3)6月下旬に田植えし、10月中旬に収穫

と3回の生産サイクルすべてに豪雨による悪影響が及び、湖南省の農家から「自らが食べる分も確保できない」との嘆きが聞こえるほどである。中国政府は、四川省や湖北省などで農家に補助金を支払って果樹からコメへの作物転換を促し、中国メディアは「各地のコメ生産が増加した」と報じているが、真偽のほどは定かではない。

 中国は今後、世界からコメを大量に輸入する動きに出る可能性があるが、大豆・小麦・トウモロコシといった主要穀物と比べ、コメの国際市場は小規模である。コメの輸出国であるインド、タイ、ベトナムなどは、コロナ禍で自国の食糧を確保するため、コメの輸出規制を講じている。

 筆者は農業経済の専門家ではないが、コメの調達に必死になっている中国人バイヤーが目を付けるのは日本ではないかと懸念している。日本はコメの主要輸出国ではないが、中国人富裕層が好むおいしい「お米」が市中で売られている。今後新型コロナウイルスの渡航制限が緩和されれば、中国人バイヤーが大挙日本に押し寄せ、市中からおいしい「お米」が消えてしまうような事態が生じるのではないだろうか。筆者の懸念が杞憂で終わることを祈るばかりである。

(文=藤和彦/経済産業研究所上席研究員)

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職
独立行政法人 経済産業研究所

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