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ブックオフで本が足りない…なぜ在庫不足に陥ったのか?“古本”需要の急増に追いつかず

文・取材=及川全体/A4studio
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ブックオフの店舗(「Wikipedia」より)

 大手古本チェーン「ブックオフ」を全国に展開しているブックオフコーポレーションが8月27日、書籍の在庫不足を迎えていることを発表し、本の売却を懇願する「【皆さまへ】ブックオフから本気のお願いです」と題した動画をユーチューブ上で公開した。「『ブックオフなのに本ねぇ~じゃん!』とCMで言っていたら、本当に本が足りなくなりそうです」という悲痛な叫びから始まる、インパクト大の同動画は世間の注目を集めた。

 8月末から9月13日まで買取強化キャンペーンの一環として、文庫本を売却してくれた客に抽選で図書カードなどをプレゼントすると発表したブックオフだが、なぜ在庫不足という事態に直面していたのだろうか。法政大学大学院教授の真壁昭夫氏に話を聞いた。

低価格、立ち読み可能、清潔感――ブックオフの従来の戦略

 初めに、ブックオフはどのようにして、大手チェーン店として展開を遂げるまでに成長したのか解説していただいた。

「第一に、ブックオフは駅前を中心としたアクセスの良い場所に広い面積の店舗を設け、消費者による立ち読みを可能にしました。さらにいわゆる“古本屋”との差別化を図るため、買い取った書籍の臭いを抜くための対策を施し、従来の古本にはない清潔感といった価値を付加したことも、消費者の支持を得ることにつながったと考えられます。

 また、日本経済が長期の低迷に陥った1990年代のバブル崩壊後、先行きへの不安を抱え、節約志向を強めていた人々にとって、ブックオフの登場は革新的だったのです。支出を抑えつつも小説や漫画、中古のCDなどを手に入れたい、という消費者の願望を叶えるのに重要な役割を果たしたといえるでしょう。

 取り扱う本のジャンルの幅広さもブックオフの強みといえます。一つの店舗で、幅広い分野の書籍を読み比べ、より低い価格帯で手に入れることは、ブックオフが登場するまで難しかったのです。従来にはない文庫本などの購入形態を生み出し、最新の書籍や人気の作品を読みたい、という人々の欲求を満たすことに成功したのでしょう」(真壁氏)

 電子書籍などデジタル媒体の普及が進む昨今において、紙媒体での販売を続けているブックオフ。まだデジタル媒体を敬遠している中高年といった紙媒体に馴染みがある層から、強い支持を得ているのだろう。

「やはり価格帯の低さは大きな魅力ですね。ブックオフでは比較的出版年の新しい文庫本であっても、表紙のスレなど状態が相対的に劣るものを100円などの低価格で販売しています。また、ブックオフは買い取った本を消毒してから販売するなど、衛生面でのケアも徹底している印象があるため、今のご時世でも受け入れられたのではないでしょうか」(真壁氏)

高まった需要に嬉しい悲鳴も…在庫不足に陥った本当の理由

 そんなブックオフが新型コロナウイルスの影響を受け、冒頭で紹介したように本の在庫不足という新たな問題に直面することとなった。

「本の在庫がなくなった要因としては、支出は抑えつつも持て余した時間を読書にあてようと考え、ブックオフで文庫本などを購入する消費者が増えたことにあると考えられます。主に小説などの文庫本が不足したのは、緊急事態宣言を受けて人々が自宅から出なくなって溜まったストレスを、文学の世界に没入して日常とは異なる感覚に浸りたいと考えた結果なのではないでしょうか。

 一方で、政府の休業要請によって店舗が休業や時短営業を実施することになり、巣ごもりで高まった需要を満たすだけの古本の買取ができていなかったことも、在庫不足となった要因でしょう」(真壁氏)

 買取量が少なかったことが在庫不足の大きな一因ということだと、“巣ごもり需要で本が飛ぶように売れて好景気だった”というわけではないようだ。

「むしろ緊急事態宣言によって人々の生活・活動の動線が絞られ、店舗の休業を行った影響もあったのか、ブックオフの売上は減少しました。巣ごもり需要によって書籍の売上が一時的に高まった時期もあったのですが、ブックオフは本以外にも取り扱う商品が多岐に渡るため、新型コロナの影響を避けられなかったのでしょう。

 それは前年の売上と比べれば如実に表れています。今年3月、ブックオフの既存店舗売上は前年同月比97.2%でした。内訳をみると巣ごもり需要が支えとなり、書籍、ソフトメディアの売上高は前年を上回ったのですが、一方でアパレル、貴金属・時計・ブランドバッグなどの売上高が前年を大きく下回ったのです。続く4月は緊急事態宣言が発令されたため休業店舗を増やした結果、既存店売上高は前年同月比64.4%という落ち込みぶりでした」(真壁氏)

オンライン取引でメルカリやヤフオク!にない魅力を確立

 では、また今回のような在庫不足が起こらないようにするためには、ブックオフはどういった施策を打つべきなのだろう。

「人々が気軽に、安心して、ネット上で文庫本などを売却できるプラットフォームの構築が必要でしょう。ブックオフはウェブカメラ査定などを行うことによって、宅配買取サービスを実施しているのですが、それでも今回在庫が不足してしまったということは、そういったネット上での買取体制にまだまだ改善の余地があるということだと思います。

 当面は人海戦術で営業することになるでしょうが、今後もし、ブックオフがこれまでに蓄積してきた買取評価をAI(人工知能)などに行わせることができれば、より効率的に在庫を確保できるはず。

 また最近は、このコロナ禍で“新書の売れ行きが急増”というニュースもよく耳にしますが、新書販売の増加はブックオフにとって在庫確保のチャンスになりえます。新書を購入した消費者は、そのまま手元に置いておく人もいるかと思いますが、読み終わったら売るというスタンスの人も多いでしょうからね」(真壁氏)

 最後に、ウィズコロナが求められ、今後はアフターコロナも見据える必要がある状況において、ブックオフが進むべき道筋について聞いた。

「先ほどの話にも通じますが、やはり人々の移動が制限された分、今後はECなど、オンライン上で消費者が安心して所有していたものを売却し、欲しいものを購入できる環境を整備することが課題となるでしょう。

 ブックオフの取り扱い商品は、書籍に加えてスポーツ用品、電子機器、貴金属などにまで拡大しており、取り扱い品種の増大によって、店舗の形態は駅に近い住宅街を中心としたものから、郊外の大型店舗に変化しています。そのため、複数の店舗の需要と在庫状況をリアルタイムで随時把握し、各店舗、各地域において最適と考えられる品揃えを目指すことが、より効率的に収益を獲得するために欠かせないといえるでしょう。そのためにも、デジタル技術を活用していく必要があるわけです。

 重要視すべきは、ブックオフが書籍を中心に蓄積してきた評価のノウハウを、ネットワーク空間上でも実現していくことです。例えばフリマアプリのメルカリは、消費者同士が直接品物を売買しているため、受け取った品が思ったより汚かった、聞いていない破損個所があったといった購入者側からのクレームやトラブルが続いています。

 そんななかで、ブックオフではそういった商品状態に対する不満が出ない、もしくは消費者同士のトラブルが起こっても運営の対応がしっかりしている、そういった評価を得られるようにすることが重要でしょう。そういったオンライン上の買取と販売の体制を敷いていくことが、ウィズコロナ時代、アフターコロナ時代に求められていくと思います」(真壁氏)

 ブックオフがオンライン上の売買に注力していくということは、これまで以上にメルカリやヤフオク!が競合となってくるはず。コロナ禍を経たブックオフが、どういった新たなビジネスモデルを確立していくか、今後も目が離せない。

(文・取材=及川全体/A4studio)

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エーヨンスタジオ/WEB媒体(ニュースサイト)、雑誌媒体(週刊誌)を中心に、時事系、サブカル系、ビジネス系などのトピックの企画・編集・執筆を行う編集プロダクション。
株式会社A4studio

Twitter:@a4studio_tokyo

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