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松岡久蔵「空気を読んでる場合じゃない」

楽天モバイルが窮地、大手3社の携帯料金値下げで”売り”消失…菅首相からハシゴ外し

文=松岡久蔵/ジャーナリスト
楽天モバイルが窮地、大手3社の携帯料金値下げで”売り”消失…菅首相からハシゴ外しの画像1
楽天の三木谷浩史社長(撮影=編集部)

「楽天は菅義偉首相から完全にハシゴを外されましたね」――。

 携帯業界を担当するあるアナリストはこう話し、NTTによるNTTドコモの完全子会社化で、楽天の「携帯料金引き下げのための第4極」としての地位が脅かされ、楽天の携帯業界参入への旨味が大きく減少すると分析する。

 楽天傘下の楽天モバイルは今年4月に携帯電話事業に本格参入した。「自社回線エリアのみデータ通信量無制限、月額2980円と大手の半額以下」という大幅に割安なプランを打ち出した上、300万人先着で1年間無料というキャンペーンで利用者獲得を狙った。現在は主に首都圏などの大都市エリアに限られる自社回線エリアの拡大に向けて基地局の建設も進めており、今年度末に人口カバー率70%、来年夏には96%を目指している。

懲りずになんと6度も行政指導

 楽天は、ドコモ、KDDI、ソフトバンクという大手3社の寡占状態にある携帯電話市場に「殴り込みをかける」(三木谷浩史会長兼社長)という決意で、懇意の菅義偉首相から官房長官時代に後押しを受ける形で新規参入した。

 ただ、その意気込みに社内体制が追い付かず、楽天がたびたび行政指導を受けていることは、すでに本サイトで7月16日に記事化した。この直後の7月17日にも「メンテナンスのために一時的にサービスを全停止する」といった内容を公式ホームページに誤記載して混乱を招き、総務省関係者からも「もし本当に勝手に停波したら電波法違反で免許取り消しもあり得た」とひんしゅくを買う始末だ。さらに、9月には法定限度を超えてスマートフォン購入者に割引ポイントを付与したとして、6度目の行政指導を受けた。

 この2つの失態だけに限らないが、楽天はとにかく社内間の部署連携がうまくいっていない。誤記載にしても、過剰なポイント付与にしても、コンプライアンスや関連法令に詳しい人材と連携がとれていれば防げたはず。「楽天モバイルは設⽴当初は数⼗⼈しかいなかったのが、基地局建設を加速するために楽天トラベルなどグループの⼈材を次々集めた結果、いまや1200⼈を超える⼤所帯になったため、収拾がついていない」(楽天関係者)というのが実態だろう。

 6月末時点で100万回線を突破したという楽天だが、損益分岐点である700万回線には程遠い。無料キャンペーンの対象である300万人についても、「2020年末までの達成は微妙」(楽天モバイルの山田善久社長)というから、よほどネジを巻かないと自社回線エリアで利用者がデータ通信する際にKDDIに支払う回線レンタル代の数百億円が延々と損失としてのしかかってくる。

ドコモ完全子会社化で旨味なくなる

 楽天の焦りをさらに強めたのが、NTTによるドコモ完全子会社化だ。詳しくはすでに記事化したのでそちらをご覧いただきたいが、筆者はここでドコモが先導する形で、携帯大手3社の大容量プランが今の各種割引なしで8000円程度から、菅首相が主張する下げ余地4割を差し引いた4000~5000円程度に引き下げられると書いた。

 一般株主からの株式の買い付け期間は11月16日までなので、ドコモは年末から就職や進学など新生活シーズン直前の2月ごろまでに新料金プランを提示してくるとみられ、他の大手2社もそれに対抗するプランを出してくると予想される。武田良太総務相も10月2日の閣議後記者会見で携帯事業者へのヒアリングを実施するとしており、その流れは既定路線となっている。楽天からすれば、もともと安倍政権が東京五輪後に退陣する頃までに基地局整備を進める予定だったのが大幅に狂ってしまったわけだ。

 こうなると、楽天の価格的優位は大きく低下することになる。楽天の月額2980円は大手が8000円という価格設定と比べれば魅力的だが、大手が4000~5000円程度まで下げてくるとなると、通信の速度や安定性に勝る携帯大手に見劣りする。楽天は通信障害で行政指導を受けるなど通信サービスの質に不安が残ることも、消費者が楽天を選ぶのを躊躇させるだろう。

 三木谷氏は次世代通信規格「5G」を含めた携帯電話基地局建設整備のため、2026年までに8000億円を投資する計画を示しており、約3300億円を今年6月までに投資した。8月には現行規格「4G」で人口カバー率を達成する時期を従来計画から約5年前倒しして、来年夏に実現する方針を打ち出した。1000億円の社債を発行し投資資金を増強したのも「早めに大手と同じ土俵に立たないと投資効果が著しく下がる」(全国紙経済部記者)との懸念からだ。

もはや投げ売りの「タダ5G」

 三木谷氏は9月30日の5Gサービス開始の発表の場で、4Gと変わらない月額2980円を提示し「追加料金なしのタダ5Gだ」と強調した。ただ、「もはや単なる投げ売り」(前出記者)との印象を与えたばかりか、自社回線エリアは4Gよりもさらに小さく、首都圏などの一部に限られるため、「今のところサービスを提供できないからタダにせざるを得ないだけ」(業界アナリスト)との批判も上がった。携帯大手3社が着々と5G基地局整備を進めていることを考えると、新規参入業者に分があるとも思えない。

 楽天は携帯事業参入により、楽天市場など他事業からなる「楽天経済圏」をより拡大することを狙った。顧客の情報や消費行動をつかみ、楽天ポイントで囲い込むことが主な戦略だが、それも携帯事業の成功があってこそ成立する。楽天は当面粛々と顧客獲得と基地局建設を進めるしかないが、「ソフトバンクの携帯事業買収か、反対に携帯大手3社に身売りするかしないと帳尻が合わない可能性もある」(携帯大手関係者)、「言い出しっぺの菅首相に泣きついて基地局建設への補助金を出してもらう」(全国紙政治部記者)などの憶測も出るなど、今後の動向に注目が集まっている。

(文=松岡久蔵/ジャーナリスト)

松岡久蔵/ジャーナリスト

松岡久蔵/ジャーナリスト

 記者クラブ問題や防衛、航空、自動車などを幅広くカバー。特技は相撲の猫じゃらし。現代ビジネスや⽂春オンライン、東洋経済オンラインなどにも寄稿している。
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Twitter:@kyuzo_matsuoka

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