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事業再構築補助金、事務局をパソナに399億円で委託…計画未達の企業に補助金返還要求

文=編集部
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パソナ公式サイトより

 菅義偉首相の長男を含む東北新社幹部による総務省幹部への接待疑惑が物議を醸していた2月12日、経済産業省と中小企業庁は2020年度第3次補正予算の目玉事業の一つ「事業再構築補助金」(補助総額1兆1000億円)の事務局を決定していた。3件の応募事業者の中から選ばれたのは、兵庫県淡路島への本社移転などで世間を騒がせている人材派遣大手パソナグループだ。事務局委託費は399億円という。

 補助金は当初計画では3月中に公募が開始される予定だが、19日正午現在、始まっていない。1兆円を超える基金を置いておく「基金設置法人」の決定が難航したためだ。事務局は決まっているのに、実際の基金を置く場所がないという異例の事態が生じていたのだ。

 経産省と中小企業庁はこれまで2回公募したが、どの団体からも応募はなかった。その結果、外部有識者による審査委員会の承諾のうえで複数の団体に対して打診を行い、今月18日に独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)に決まった。パソナは今後、中小機構と委託契約を締結。補助金の公募、審査・採択、交付決定に係る業務を担当することになる。

 自民党の中堅衆議院議員は「パソナさんが事務局というだけでマスコミが騒ぐのはどうかと思いますよ」と苦言を呈した上で、次のような見解を示す。

「制度設計上、パソナさんは東京にコールセンターなど受付窓口を設置することになると思います。事務局は補助した事業計画の進捗管理や検査、事例収集なども行う必要がありますが、申請のあった全国の中小企業すべてに対し、パソナさんが実地調査などを行うのは非現実的ですし、そこは各地の税理士法人や経営コンサルタントなどへ再委託する必要もあるんじゃないですか」

現業維持ではなく新規事業創出を重点的に支援

 約400億円の事務局経費が妥当なのか、また再委託は適正になされるのか、今後のパソナの運営が注目される。一方、補助金の内容はどうなのだろう。補助金は新型コロナウイルス感染症の影響で売り上げが減った中小企業(中堅企業も一部含む)に対する追加経済対策の柱の一つだ。

 この事業の肝は、「現業を維持することを支援する」のではなく、「業種・業態転換や事業・組織再編」を支援する点だ。税理士法人や中小企業診断士などの「認定経営革新等支援機関」の助言を受けながら、新しい事業計画を策定し、その計画通りに成長するがことが求められる。100社限定の中堅企業向け特別枠「グローバルⅤ字回復枠」や、中小企業から中堅企業への成長を目指す事業者400社限定の特別枠「卒業枠」では最大1億円が補助されるのだという。

 中小企業庁は、補助の具体例として「居酒屋を経営していたところ、コロナの影響で売上が減少したので業態転換し店舗での営業を廃止。オンライン専用の弁当の宅配事業を新たに開始」したケースを挙げ、「店舗縮小に係る建物改修の費用、新規サービスに係る機器導入費や広告宣伝のための費用など(公道を走る車両、パソコン、スマートフォン等の購入費は補助対象外)」が補助されると説明する。

 また別の例として、「高齢者向けデイサービス事業等の介護サービスを行っていたところ、コロナの影響で利用が減少。デイサービス事業を他社に譲渡。別の企業を買収し、病院向けの給食、事務等の受託サービス事業を開始」との事業を紹介し、このうち「建物改修の費用、新サービス提供のための機器導入費や研修費用など」が補助対象になるとしている。

年率平均3.0%の付加価値額の増加する事業計画が必須?

 ちなみに事業再構築補助金の申請要件は以下の通りだ。

「1:売上が減っている

 申請前の直近6ヶ月間のうち、任意の3ヶ月の合計売上高が、コロナ以前(2019年又は2020年1~3月)の同3か月の合計売上高と比較して10%以上減少している。

2:事業再構築に取り組む

 事業再構築指針に沿った新分野展開、業態転換、事業・業種転換等を行う。

3:認定経営革新等支援機関と事業計画を策定する

 事業再構築に係る事業計画を認定経営革新等支援機関と策定する。補助金額が3000万円を超える案件は金融機関(銀行、信金、ファンド等)も参加して策定する。金融機関が認定経営革新等支援機関を兼ねる場合は、金融機関のみで構いません。

 補助事業終了後3~5年で付加価値額の年率平均3.0%(グローバルV字回復枠は5.0%)以上増加、又は従業員一人当たり付加価値額の年率平均3.0%(同上5.0%)以上増加の達成を見込む事業計画を策定する」

 ここで気になるのは「補助事業終了後3~5年で付加価値額の年率平均3.0%以上増加の達成を見込む事業計画を策定する」という部分ではないだろうか。

 中小企業庁はこの「付加価値額」を「営業利益、人件費、減価償却費を足したもの」と定義する。新規事業がしっかり軌道に乗れば、年率3%の増加を見込むことも不可能ではないだろう。一方、今回のコロナ禍で明らかになった通り、どれほど優れた事業計画であっても災害や、少子高齢化などの社会構造の激変に連動する実需を予見するのは難しい。

 例えば、東日本大震災の被災地の中小企業は、政府の各種支援事業を活用し、最新鋭の設備を導入したり、水産加工業から小売業、サービス業などへ業態転換を図ったりした。その際も、事業計画の策定や新規事業のノウハウの習得、従業員の研修は、パソナなどの人材派遣会社や経営コンサルタントが支援した。

 しかし、いざ事業を開始してみると販路の開拓は想定以上に難しく、被災地からの人口流出加速に伴う人手不足も深刻化、そのうえでコロナ禍の直撃を受けて当初の事業計画通りに進行できなくなるケースも散見された。

計画通りの成果がなければ補助金は返還

 仮に当初計画通りに付加価値額の年率3%増加が達成できない場合はどうなるのだろう。19日正午時点で公式サイトのQ&Aには特段の記載がなかった。中小企業庁創業・新事業促進課の担当者は次のように説明する。

「補助金の公表資料にある通り、『卒業枠』では事業計画期間終了後、正当な理由なく中堅企業へ成長できなかった場合、補助金の一部返還を求めます。

『グローバルV字回復枠』でも大規模災害など予見できない大きな事業環境の変化に直面するなどの正当な理由なく付加価値目標が未達の場合、補助金の一部返還を求めます。

 一般の補助枠に関する記載はありませんから『その限りではない』ということになりますが、我々としては『返還はない』と書くつもりはまったくありません。そう書くことによって、安易な事業計画書が提出されてしまうことを危惧しています。

 またいずれの枠でも事業計画期間内に事業を継続できなくなった場合は、残存簿価相当額等により補助金交付額を上限として返還を求める予定です。

 行政改革本部から税金の無駄使いというご指摘をいただいている中で、『補助金の政策効果を最大限求める』という議論が経産省のみならず全省的に大きな話題になっています。このような大きな補助金を執行させていただく上で、『大きな経済効果がありませんでした』ということは絶対に避けなければなりません。補助事業終了後の3~5年、しっかりフォローアップし、事業化報告もさせていただきます。そのうえで付加価値額が伸びているのかを検証させていただきます。

 その点については、事業者の皆さんにおかれましてはぜひともご協力いただきたいということです。そもそも事業計画がしっかりしたものでなければ申請には通らないということです」

 つまり相当緻密な事業計画が必要ということだろう。そもそも補助金を受け取るためには、最低限、事業計画が採択されなければならない。しかも事業計画を策定する際、指導を受けることが必須の認定経営革新等支援機関へのコンサルタント料などは補助対象外だという。

 事業計画に不備があり失敗すれば補助金返還の可能性が生じ、受給申請も事業計画が採択されなければコンサルタントに支払う報酬をドブに捨てることになる。どうやら、困窮する中小企業を救う“バラ色の補助金”というわけではなさそうだ。

(文=編集部)

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