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松岡久蔵「空気を読んでる場合じゃない」~CAが危ない!ANAの正体(2)

ANA、CAの異常な過酷労働環境…国際線1泊4日、平均勤続年数6年、勤務中に卒倒

文=松岡久蔵/ジャーナリスト
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ANA、CAの異常な過酷労働環境…国際線1泊4日、平均勤続年数6年、勤務中に卒倒の画像1
ANAのCA(写真:Aviation Wire/アフロ)

「全日空(ANA)のフライトスケジュールは、CA(客室乗務員)を使い捨てにしているようにしか思えないんです」

 ANAの現役CAはこう肩を落とす。現在は新型コロナウイルス感染拡大で国際線が壊滅状態になるなど例外中の例外の状況になっているが、2019年までの通常運航では過労死リスクの高まるような過酷な労働環境を強いられていたことが、筆者の取材で明らかになった。

ANA特有、国内線1日4便の超ハードスケジュール

 ANAではコロナ禍前には、CAの国内線の乗務スケジュールで「1日4便」という勤務が行われていた。以下は、筆者がANAのCAの現役・OGに取材した結果に基づく、ある日の勤務スケジュールである。羽田-広島便を往復し、続いて羽田-函館便を往復する場合、以下のような一日になる。

10:15 家を出る。

11:15 会社着。その後、着替えや旅客情報の確認などのフライトの下準備を行う。準備が一通り終わったら、コンビニで買ったパンを5~10分で食べてから勤務開始。

12:15 勤務開始時刻。打ち合わせへ。フライトに関する安全確認や注意事項を確認し、セキュリティを通過、飛行機に到着し、非常口や消火器等の装備品を確認、客室サービス用品のチェック、運航乗務員とのブリーフィング、セキュリティチェックなどを行い、搭乗旅客の案内を開始。

13:15 羽田空港を離陸。【A:飲み物サービス、その他乗客のケア、機内での保安業務、機内販売等、着陸態勢の安全性チェック等を行う】

14:30 広島空港に到着。【B:乗客が降機した後、清掃チェック、セキュリティチェック等を行い、すぐに次便の乗客の搭乗がはじまる】

15:20 広島を離陸。【Aをくり返す】

16:45 羽田に到着。【Bをくり返す】

17:30 羽田を離陸。【Aをくり返す】

18:50 函館空港に到着。【Bを行う合間に、5分でお弁当を食べる】

19:35 函館を離陸。【Aをくり返す】

21:00 羽田に到着。ゲートから客室センターに戻り、フライトの振り返りやレポートなどの確認を行う。

21:30 勤務終了時刻

21:45 メールボックスの確認や着替えをし、会社を出る。

22:45 家に着く

 ここでの勤務で、ANAが記録する出社から退社までの勤務時間は9時間15分だが、着替えてから業務に関わった時間は10時間30分になる。午前中の下準備の時間は勤務時間に入らないが、通常業務をこなすには必須のため、サービス残業が常態化しているという。

 この後、通常業務に忙殺されるなかで休憩時間はまったくなく、食事も「地上待機中に清掃のホコリのなかで5分で済ませる程度で、もう少し長い路線だと上空で食べることもあるが、それも立ったまま5~10分で済ませることも珍しくない」(前出の現役CA)。飛行機が遅れて到着した場合はお弁当を食べられず、そのまま持って客室センターに戻ることもあるという。

 また、近年、フライトログや同乗メンバー、乗客数などはすべて会社支給のiPadに入っているため、自宅や通勤時に必要な情報を確認する人は多い。また、現在、出社場所を変更する運用も行われているが、いずれも着替えや下準備の時間は勤務時間にカウントされずサービス残業であることには変わりないという。ある20代のCAはこう内情を明かす。

「毎日送られて来る業務連絡がすごい量で、休日もチェックに追われます。『必読』マークがつく資料は10件に1件程度ですが、『一応全部確認してください』と言われるため、結局全部見ないといけないのが、ものすごい負担になっています。

 国内線の機内販売もきつく、大阪線など時間が短い便でも販売し、On Time(定時制)と言いながら着陸後も機内販売しようとする現場リーダーがいるのには疑問を感じざるを得ません。しかも、駐機中は時間が短く、バタバタしてミスにつながらないかと不安に思いながら業務に取り組まないといけないため心理的な負担は大きい」

 なお、JALは1日3便を勤務スケジュールの限度としており、ANAよりも負担は軽減されている。

過酷な「ロサンゼルス1泊4日勤務」

 この国内線1日4便乗務も過酷ながら、さらにキツいのが米国ロサンゼルス(LAX)1泊4日パターンだ。具体的な勤務スケジュールは以下の通り。

【1日目】19:45  家を出て電車で羽田へ向かう。

20:45  会社(羽田)に着く。その後、着替えやフライト準備を行う。

22:45  勤務開始時刻(この間の2時間はサービス残業である)。

【2日目】 00:05 羽田を離陸 → 約10時間のフライト(この間の休憩は1時間30分)

10:00(日本時間) LAX到着。

12:15(日本時間)ホテルに到着【1泊】(この間の業務に関わった時間は15時間30分)

【3日目】14:35(日本時間)ホテルを出る。

15:20 空港に着く。

15:50 勤務開始時刻。

17:05(日本時間)LAXを出発 → 12時間25分のフライト(この間の休憩は約2時間)

【4日目】05:30 羽田空港に到着。

06:30  空港を出る。(この間の業務に関わった時間は約16時間) 

07:30  自宅に着く。(早朝時間帯はタクシー利用の権利はあるが、公共交通機関の使用を奨励されているため、電車での帰宅となる)

 ANAでは以前は米国西海岸の路線は、現地で2泊できる2泊4日勤務であった。しかし、現在、LAX線勤務は1泊4日になり、現地でわずか1泊、つまり1日の休みもなく翌日帰国する過酷な勤務に変わった。長距離・深夜・時差のある乗務後にわずか1泊では、現地で睡眠が十分とれないまま、再び長距離・深夜・時差のある復路を乗務することになる。その後の休日は2日間のみで、時差が取れないまま、3日目からまたフライトに出るというから驚くほかない。

さらに苛酷な「魔の6連続勤務」

 しかも、このLAX1泊4日の直前に国内線を2日間飛ぶ「魔の6連続勤務」という超過密スケジュールが課せられることも珍しくないというから、開いた口がふさがらない。あるCAのスケジュールでは、【1日目】羽田→米子→羽田→大分で宿泊、この日の勤務時間は7時間15分、【2日目】大分→羽田→長崎→羽田で勤務時間は9時間45分、いずれもこの間の休憩はないという。この国内線1泊2日だけでも疲労困憊だが、さらに続いて【3日目~6日目】にLAX1泊4日がつく。入社時は健康診断や体力測定があるが、いくら健康に自信のある人でも、こんな勤務では身体は持たないだろう。

 筆者は現役CAから「米国路線だと時差のせいで、現地で出社後、乗員との打ち合わせ中、貧血でフラフラすると言っていた同僚や、実際に現地(米国)到着時に貧血で倒れたCAもいた」との証言も得ている。

 ちなみに、JALは国際線2泊4日の前後は公休日になるのが基本であり、ANAのような6連続勤務はありえないという。

 また、ロンドンやパリからの乗務後の休日も、ANAではわずか2日間しかないという。海外の航空会社に目を向けてみると、長距離乗務後の休日数は、KLMオランダ航空はアムステルダムから帰国後5日間、BA英国航空ではロンドンから帰国後4日間と十分な休暇をとれるため、ANAのCAの過酷さは際立っている。

 近距離の国際線往復時も国内線同様、休憩時間がほとんどないのが現状だ。上海(プードン)では、羽田22:30発→01:35現地着(日本時間)、02:45現地発→05:40羽田着という深夜往復の便で勤務時間は9時間40分になるが、この間ほぼ休憩はとれない。

国際的にみてありえないANAのCAの過重労働

 ANAのCAの勤務は国際的にみてもきついという。1980年代までは、1カ月の乗務時間制限は87時間であったが、その後延長され、現在は1カ月100時間までのフライトが可能になった。13時間延長された上、疲労が著しいとされる「1日4時間45分の乗務時間」を超えた場合、以前はタクシーを利用できたが、それも廃止された。

 なお、CAが働く機内環境は、低気圧、低酸素、低湿度、宇宙放射線被ばく、重力加速度(G)変化、揺れ、振動、騒音などが特徴といわれている。気圧が低いと酸素が薄くなり、一般に富士山の5合目あたり(2000m近く)で働くのと同じといわれている。地上での勤務より、普通に働いているだけでも体に負荷がかかるというわけだ。

 他社の客室乗務員の1か月の乗務時間制限は、AF(エールフランス)は75時間、SAS(スカンジナビア航空)は88時間とANAと比べてもかなり短い。JALは95時間となっており、時間だけで見れば若干マシといったところだが、夏ダイヤの羽田-LAX線は、2泊4日の後、休日は2日間、冬ダイヤでは1泊3日の後、休日は3日間と、ANAのような過酷なフライトスケジュールではない。

 また、有価証券報告書などによると、ANAのCAの平均勤続年数は、2004年に6.1年、2013年に6.5年であった。これに対しJALのCAは10年を超えていた。これ以降はANAホールディングス傘下になり記載はないが、CAの労働環境が改善したという話はなく、「せいぜい若干伸びた程度」(ANA関係者)という。欧米では、例えば米ユナイテッド航空(UA)などは20年を超える上、EUの航空会社で乗務しているCAは「保安要員としてもサービス要員としても、数年経ってようやく経験を生かせるのに、ANAの平均勤続年数の短さは異常」と驚きを隠さない。

JALの労働条件の改善は労基署の調査がきっかけ

 ここまでANAのCAがブラックな労働環境だと、労働基準法違反の疑いも出てくる。これについては筆者が先に書いたようにJALが1日3便となった背景が適法性を考える上で参考になる。実は、同社では14年にCAの労働組合の有志が労基法違反だとして労働基準監督署に訴えたことがきっかけとなり、近距離国際線のサービスを軽減し、CAに上空での休憩をとらせる措置を行ったという。

 なお、この際、グアム線では編成数が増え、サービス時間が短縮されて上空での休息が取れるようになった。さらに、香港線のエコノミークラスの機内食が、2種類の選択から1種類になり、サービス時間が短縮されて上空でのレストが取れるようになったなどの改善がなされたという。

 本来、経営側が率先して異常な労働環境の改善をすべき話だが、JALが改善したことを踏まえると、現場から声を上げたかどうかが現状のANAとの差を生んだことは重要だ。ANAでも1日4便など過酷な労働条件が改善されるのを願ってやまない。

ANAに再び質問状を送付

 このように、CAに過酷な労働を強いるANAに以下の質問状を送付し、見解を確認した。

Q1:貴社の現役・OGのCAを取材したところ、貴社はCAが国内線で1日4便勤務という過酷なフライトスケジュールを実施しているとの証言を得ました。CAからは「出社から飛行機の搭乗、乗務、着陸、退社まで、休憩はおろか食事をとる時間もない」との証言を得ております。10時間近い勤務の間、休憩を取る時間がないというのは安全配慮に欠く労働状況だと受け止められますが、貴社のご見解をご教示いただけますでしょうか。 

【ANAの回答】

乗務員の勤務割に関しては、航空法に則った勤務割作成ルールに沿って運用するよう定めております。また、その勤務割作成ルールも、適切な勤務割の運用がなされるよう、必要に応じ改善がなされております。

Q2:貴社ではCAが国内線を2日間フライトし、その後3日目から国際線1泊4日、2泊4日の勤務をするパターンがあるとの証言を得ております。この6日連続勤務は、JALをはじめ同業他社にもない過酷な勤務だとも受け止められますが、コロナ禍が落ち着いて需要が回復した後も、このような勤務を続けるご予定でしょうか。また、「LAX(米ロサンゼルス)便1泊4日という、現地で1泊のみの勤務では、深夜、長時間勤務、時差の疲れは取れない」との声もCAより聞かれますが、この点について貴社のご見解をご教示いただけますでしょうか。

【ANAの回答】

乗務員の勤務割に関しては、航空法に則った勤務割作成ルールに沿って運用するよう定めております。また、その勤務割作成ルールも、適切な勤務割の運用がなされるよう、必要に応じ改善がなされております。

Q3:国内競合のJALは、CAがフライト業務を行う国内線を1日3便までとしていますが、これは2014年に労働基準監督署の調査が入ったことで、それまでの1日4便を改善した経緯があります。これを踏まえると、1日4便というフライトスケジュールについて労基法上問題があったと判断されたと考えられますが、貴社として改善されるご予定はございますでしょうか。

【ANAの回答】

乗務員の勤務割に関しては、航空法に則った適切な勤務割作成ルールに沿って運用されており、弊社の勤務割運用が労基法上の問題があるものとの認識はございません。

Q4:CAが出社してからの着替えや旅客情報の確認などのフライトの下準備については、サービス残業となっているとの声が現場CAから聞かれました。また、近年はフライトログや同乗メンバー、乗客数などはすべて会社支給のiPadに入っているため、自宅や通勤時に必要な情報を確認する人は多く、いずれも下準備をプライベートで行っているため、負担になっているとの声も聞かれました。これらについて、貴社のご見解をご教示いただけますでしょうか。

【ANAの回答】

労働時間に関しては、労基法上に則った勤務割作成ルールに沿って適切に管理、運用がなされていると認識しております。

 最後に冒頭のCAの声をご紹介しよう。

「休みがもう少しほしい。対応しなければならない機種が多く、休みでも勉強に時間が費やされる。疲労が取れないままフライトするのは保安の観点でも問題だと思う」

 CAは第一に乗客の安全を守る保安要員である。私も乗客の一人としてANAに対し、CAを使い捨てにするような過酷な労働環境の一日も早い改善を求めたい。

松岡久蔵/ジャーナリスト

松岡久蔵/ジャーナリスト

 記者クラブ問題や防衛、航空、自動車などを幅広くカバー。特技は相撲の猫じゃらし。現代ビジネスや⽂春オンライン、東洋経済オンラインなどにも寄稿している。
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Twitter:@kyuzo_matsuoka

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