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大阪、10万人当たり死者数が東京の1.6倍…「橋下行政」下の保健所・病床削減も遠因か

文=明石昇二郎/ルポライター
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YouTubeの大阪府公式チャンネルより

日本一「新型コロナ」死が多くなった大阪府

 5月16日、大阪府における新型コロナウイルス感染症による死者数が、ついに東京都の死者数を上回った。同日、15人の死者が確認された大阪府の累計死者数は1958人となり、同日までの東京都の累計死者数1951人を7人超えた。ちなみに、同日の東京都における死者確認数は0人だった。

 東京都と大阪府の人口を比較してみると、現在の大阪府における死者確認数「急増」の深刻さが際立っていることが、より理解できる。今年1月1日時点の東京都の推計人口1396万236人に対して、大阪府はそのおよそ6割に相当する881万5191人。10万人当たりの死者数に換算してみると、東京都が13.97人となる一方、大阪府は22.21人となり、大阪府は東京都の1.58倍に達している。

 3回目の緊急事態宣言が発令された4月25日時点では、東京都の累計死者数1876人に対し、大阪府は1361人と、500人以上の差があった。だがそれ以降、大阪府では1日に40人を超える死者数が確認される日が続出し始め、5月11日にはそれまでで最多の55人を確認。あれよあれよという間にその差が縮まり、緊急事態宣言から1カ月も経っていない5月16日の時点で、とうとう東京都を抜き去っていた。

 大阪府の死者数が東京都を超えるのはこれが初めてではなく、今年2月3日の時点でも大阪府の958人に対し、東京都は949人と、大阪府のほうが上回っていた時期がある。大阪府の死者数が東京都を超えるのは、それ以来のことだ。

 5月16日の新規感染者数を見ると、大阪府が620人であるのに対し、東京都は542人と、これまた大阪府のほうが多い。緊急事態宣言が発令された4月25日以降では、大阪府の新規感染者数が東京都のそれを上回っている日のほうが圧倒的に多い(表)。5月16日の「朝日新聞」ウェブサイトによると、大阪府の担当者は死者急増の要因として、

「感染者数に占める死者数の割合(死亡率)は第4波は1.0%で、第3波の2.6%より低いが、感染者数の急増に伴い死者数が増える結果になっている」

と説明しているのだという。

 だが、死者確認数「急増」の要因は「感染者数の急増」だけなのだろうか。それですべて説明がつく話なのだろうか。

今、大阪界隈で「新型コロナ」に感染すると救われない?

 5月16日現在、大阪府で入院調整中の人の数は2657人。つまり大阪府民は今、新型コロナウイルスに感染してしまうと、体調が急変しても入院できる順番は2658番目以降にされることを覚悟しなければならない。それだけ治療を待っている人がいるのが、今の大阪府なのだ。参考までに、同日の東京都における入院調整中の人の数は、大阪府の半分以下の1017人である。

 ホテル等で宿泊療養している人の数は、大阪府が1361人であるのに対し、東京都は1385 人と、さほど違いはない。一方、大きな差がついているのが「自宅療養」――と呼ばれているが、実質上は単に「自宅隔離」でしかない――措置下にある人の数である。東京都が2402 人であるのに対し、大阪府はなんと1万2745人。この数字は、新型コロナウイルス感染症に罹患しているのに治療してもらえない人の数であり、大阪府の医療体制が事実上、崩壊していることの証(あかし)でもある【注】。

【大阪府の最新感染動向】

【東京都の最新感染動向】

【注】東京都で「自宅療養者」が9000人近くにまで激増していた今年1月から2月にかけては、1日当たりの死者確認数が20人を超える日が連日のようにあり、30人以上を記録した日も2日あった。あの頃の東京都もまた、事実上の「医療体制崩壊」状態にあったのだろう。

 大阪府をはじめとした関西圏では、高齢者に限らず30代以下の若年層でも重症化する例が多数発生しており、大阪府や京都府、そして兵庫県では、20代や30代でも新型コロナウイルス感染で亡くなる人がいることも報告されている。その中には、いわゆる「基礎疾患」がまったく確認されていない人も含まれているのだという。今、大阪界隈で新型コロナに感染することは、命の危険に直結する――と言っても過言ではあるまい。

 それにしても今、なぜ、東京都と大阪府でこれほどまでの差が生まれているのか。

「変異ウイルスの急拡大」説

「前回の緊急事態宣言で大阪と兵庫は感染者数をかなり抑え込むことに成功したが、その状態で侵入した変異株が優先的に増えていった。一方、東京は感染者数が下げ止まり、通常のウイルスがかなり残っていたため変異株があまり広がらなかった」

 これはTBSが報じた、厚生労働省の専門家組織「アドバイザリーボード」の脇田隆字(たかじ)座長の見立てを、「夕刊フジ」が紹介したものだ。かなり当てずっぽうで非科学的な見立てに思えてならない。従来のウイルスと変異株では、感染力以外に大きな違いは見られず、昨冬に全国的な流行がまったく見られなかった「インフルエンザウイルス」のことと同様に論じることには、かなり無理があるからだ。

 だが、この見立てに賛意を示したのが、吉村洋文・大阪府知事である。吉村氏は4月1日、

「何故大阪で感染が急拡大したのか。NEWS23で脇田座長がコメントしてた緊急事態宣言で大阪は感染を抑えすぎた、結果、変異株が既存株にとって変わる速度が早まり、変異株が急拡大してる説。逆説的でえっ?と思うが真実をついてるかもしれない」

「脇田説がストンとくる」

などとツイートしていた。

 ただし、変異株(変異ウイルス)はその後、東京都でも全国でも広がっている。5月12日のNHKニュース「1人ランチでも感染?変異ウイルスどうしたら…」は、5月2日までの1週間の速報値によると、全国の新規感染者のうち73%が変異ウイルスの感染だったとし、なかでも変異ウイルスの感染割合が高い地域として、兵庫県が88%、福岡県が84%、大阪府は83%、北海道が78%、愛知県が77%、そして東京都が64%という数字を挙げながら、「変異ウイルスは、日本国内でもすでに主流になっている」とした。

 さらにNHKは5月19日、東京都が変異ウイルス検査をしたところ、全体のおよそ8割が変異ウイルスによる感染であることを確認したと報じた。大阪府のそれに急迫しているが、それと同時に1日当たりの死者確認数も急迫しているわけではない。

必要な治療をすぐに受けられない理由

 大阪府で療養中の新型コロナ感染者のうち、入院している人の割合を示す「入院率」は、5月12日時点でわずか10%。つまり、入院できず、治療もしてもらえず、やっと入院できて治療が始まっても、その時はすでに手遅れ――というケースが続出した結果、大阪府は日本一「新型コロナ」死が多い地域になったのではないか――。

 この「見立て」を否定するような識者の見解や、大阪現地からの報道は、今のところまったく見かけない。以下に紹介するのは、大阪府内の医療現場から発せられた切実極まりない声だ。

「なんとかしなければと思っているが、自宅で亡くなられたり、亡くなってから感染の診断がついたりと、適切な治療が間に合っていないのが実情だ」

「十分な体制の病床があれば治療は難しくない。亡くなるリスクも従来株と変わらない」

「変異株は感染力が強く、感染者が一気に増えたことで、悪化する前の適切な治療ができなくなっている」

「治療が間に合えば助かる命が、医療体制が追いつかないと失われてしまう。大阪を他山の石として、早く病床を広げ、在宅の医療体制も整えてほしい」

(以上、大阪府泉佐野市の「りんくう総合医療センター」の倭(やまと)正也・感染症センター長の言葉。「朝日新聞デジタル」2021年5月16日『若いから大丈夫は誤り 自宅療養1万人超の大阪から警告』より)

 変異ウイルスが全国にも広がって以降、従来のウイルスでは軽症や無症状の患者が多いとされていた若年層でも重症化している例が、全国各地から報告されている。この原稿を執筆している5月18日も、茨城県や千葉県で20代の患者が重症になっているとNHKが報じていた今年1月、茨城県で10代の患者が、千葉県では20代の患者がそれぞれ重症になり、千葉県の患者はその後、死亡したという

 そのため昨今、高齢者だけでなく若い世代にも、早めの受診を呼びかける記事や識者のコメントをよく見かけるようになった。しかし大阪府では、医療の現場や病床が逼迫(ひっぱく)し、受診も入院もままならない。府民の皆さんにしてみれば、「どうしろというのだ?」と嘆くほかない。なぜそうなったのか。

    ※

 気になるツイートがある。昨年4月3日、元大阪府知事で元大阪市長の橋下徹氏が、次のようなツイートをしていた(写真)。

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「僕が今更言うのもおかしいところですが、大阪府知事時代、大阪市長時代に徹底的な改革を断行し、有事の今、現場を疲弊させているところがあると思います。保健所、府立市立病院など。そこは、お手数をおかけしますが見直しをよろしくお願いします」

「平時のときの改革の方向性は間違っていたとは思っていません。ただし、有事の際の切り替えプランを用意していなかったことは考えが足りませんでした」

 蛇足と思うが解説すると、橋下氏が大阪府知事と大阪市長の座にあった2008年から2015年までの間、「徹底的な改革」の名のもと、感染症対策の要となる保健所の統合を進めて削減し、保健所の職員数も削減し(「週刊文春」<文藝春秋/2020年5月21日号>によれば「保健所職員を3割以上減らした」としている)、大阪府内にある公立病院の病床数を削減していた(橋下氏が大阪市長をやめた後の2018年には大阪市立住吉市民病院が閉院)。橋下氏はそれを「お手数をおかけしますが見直し」してほしいと言っていた。

 では、そのツイートからこれまでの1年間に「見直し」はされたのか。そしてその「見直し」はこのたびの“大阪の悲劇”の発生までに間に合ったのか。間に合っていなかったとすれば、“大阪の悲劇”は人災というほかなく、東京都と大阪府の「差」は橋下氏がいうところの「徹底的な改革」に端を発していたことになりそうだ。

 橋下氏の後継者として大阪府知事を務める吉村氏が代表の政党「大阪維新の会」のホームページには、「新型コロナ対策についての取り組み」と題したページがある。

 その中の「吉村府政のこれまでの主な取り組み」を見ると、昨年7月31日の見出し「感染拡大防止に向けた営業時間短縮協力金の支給」を最後に、なぜか更新されていない。「見直し」がすでに実行に移されているのなら、ぜひホームページを更新して大阪府民に向けて、その内容を広く広報していただきたい。もし、「見直し」が行なわれていないのだとするなら……お詫びくらいではとても済まないと思う。

(文=明石昇二郎/ルポライター)

明石昇二郎/ルポライター、ルポルタージュ研究所代表

明石昇二郎/ルポライター、ルポルタージュ研究所代表

1985年東洋大学社会学部応用社会学科マスコミ学専攻卒業。


1987年『朝日ジャーナル』に青森県六ヶ所村の「核燃料サイクル基地」計画を巡るルポを発表し、ルポライターとしてデビュー。その後、『技術と人間』『フライデー』『週刊プレイボーイ』『週刊現代』『サンデー毎日』『週刊金曜日』『週刊朝日』『世界』などで執筆活動。


ルポの対象とするテーマは、原子力発電、食品公害、著作権など多岐にわたる。築地市場や津軽海峡のマグロにも詳しい。


フリーのテレビディレクターとしても活動し、1994年日本テレビ・ニュースプラス1特集「ニッポン紛争地図」で民放連盟賞受賞。


ルポタージュ研究所

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