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“世紀の怪作”?映画『愛・旅立ち』の真実に迫る【前編】

近藤真彦&中森明菜の“トンデモ共演作”はなぜ生まれたか…マッチ“裏切り人生”の原点

文=峯岸あゆみ
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1985年に公開された、近藤真彦・中森明菜主演の映画『愛・旅立ち』。タイトルから“さわやか青春ラブストーリー”かと思いきや、なんと耳なし芳一や丹波哲郎が跋扈する、オカルト&超常現象が満載の“トンデモ共演作”だった!? (画像は同作パンフレットより)

 不倫騒動、芸能活動自粛、ジャニーズ事務所離脱、そして芸能活動再開……昨年末より近藤真彦がメディアで取り上げられる機会が増え、あわせて中森明菜との過去の恋愛に関するアレコレが掘り起こされている。トップアイドル同士の交際、近藤宅での明菜の自殺未遂、『紅白歌合戦』と同時間帯に行われた明菜の緊急会見(近藤も同席)など、80年代後期の芸能ニュースの主役となった2人にはまた、1985年に『愛・旅立ち』という映画で共演した歴史がある。

 当時の近藤は、同じたのきんトリオの田原俊彦同様、過去に例のないレベルの人気を誇るアイドルだった。1980年12月発売のデビューシングル『スニーカーぶる〜す』はオリコンウィークリーチャートで史上初の“デビューシングルで初登場1位”を記録。そのセールスは、70年代のトップ男性アイドル、西城秀樹、郷ひろみが果たせなかったミリオンセラーを達成(オリコン調べ)。また、1984年までに13曲連続でシングルチャート1位を記録していた。俳優としては、1981年の『青春グラフィティ スニーカーぶる〜す』以降、4年間で7本の劇映画に出演し、うち4本に主演(ほか2本は準主演、1本は友情出演)するムービースターだった。

 一方、中森明菜は近藤から1年半遅れて1982年の5月にデビュー。セカンドシングル『少女A』のヒット以降、トップアイドルの座に駆け上がり、シングルは毎回1位を記録。松田聖子と双璧をなす存在となっていた。ただし、彼女には同時代のアイドルのなかでも、特に演技経験が乏しかった。1984年の時点で本格的に映画やテレビドラマに出演した経験はゼロ。のちに『素顔のままで』(1992年、フジテレビ系)などいくつかのドラマに主演する明菜にとって『愛・旅立ち』は、演技者として実質のデビュー作となった。

 Wikipediaに掲載された『愛・旅立ち』の解説には、「本作をきっかけに近藤と中森は交際を始めた」とあり、Web上ではそれをソースに「マッチと明菜は映画共演をきっかけに付き合い出した」という記事が多数見られる。しかし、実際には少なくとも1984年の時点でメディアは2人の親密な関係を報じていた。つまりこの映画は、恋人同士だと噂された男女のトップアイドルをキャスティングするという、かつてないスキャンダラスな要素をはらんだ超話題作だった。

 ではそんな作品に対して、ファンはどんな内容を求めただろうか? さわやかな青春ラブストーリーだろうか? 80年代らしい都会的な男女の物語? 軽妙なコメディ作? 2人なら、アウトローな世界の若者も似合っただろう。しかし、『愛・旅立ち』は、両者の熱心なファンでさえも無言にならざるを得ない、オカルト&スピリチュアル&超常現象&宗教をごちゃまぜにミックスし、和風の味付けでひたすら陰気に描写した暗黒映画だったのである……!

 そこで本稿では、ファンの期待を大いに裏切ったと思われる、このスキャンダラスな“怪作”『愛・旅立ち』のストーリーを追いかけつつ、検証してみたい。

【後編はこちら】

不可解行動をとった明菜は倒れて病院へ…医師がなべおさみに彼女の個人情報を漏洩

【註】ここからは“ネタバレ”的な内容を含みます。
また以下、近藤真彦は「マッチ」、中森明菜は「明菜」と表記。

 映画は宇宙空間から始まる。そこに、母子らしき女性と赤ん坊が浮かび上がる。2人は口を動かすことなく、テレパシーか何かで会話をする。

「ママ、僕はどこから来たの?」
「神様がママに下さったのよ」
「神様はどこにいるの?」
「このお空にいらっしゃるのよ」
「じゃあ僕も神様なの?」
「そうよ………」

 母親が我が子を神認定。冒頭から不条理のフルスロットルだ。なお、宇宙に漂う母子の出番はこれっきりである。

 出演者クレジットを経て、定時制高校に通う高校生を演じる明菜が登場。ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)の『怪談』の本をバッグに入れた彼女は、学校に向かう途中、公衆電話の受話器を手にする。ここからの明菜の行動があまりに不可解だった。電話番号をプッシュすることなく、いきなり「パパ、ママ、行ってきます」とだけつぶやき、受話器をガチャンと置いたのだ。つまり、誰も見ていないところで、両親に“電話をかけるふり”をしたということになる。

 観る者の脳内に浮上する巨大な疑問符をかき消すように、物語は暗黒方面に落下していく。明菜は学校の前で苦しそうに倒れ、病院に搬送される。そこで、不用意な看護師の立ち話により、自身が心臓病により余命いくばくもないことを知り、「死」の恐怖に泣き叫ぶのだ。

 個人情報保護の意識が薄い時代だけに、医師が明菜のバイト先の店主(なべおさみ)に病状を説明する場面がある。そこで、彼女が天涯孤独の身であることが説明される。先ほどの公衆電話での儀式は、出かける前に物故者の遺影に話しかける行為に代わるものなのか? なお、なべが明菜に「手かざし」の療法を施すシーンはない。

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映画『愛・旅立ち』の監督を務めたのは、ジャンルを問わず数々の劇場大作を手がけた舛田利雄。『愛・旅立ち』にも出演している丹波哲郎のベストセラー『死後の世界の証明―霊界実存の書』(広済堂出版)の世界観で若者向けに……と同作を製作したとか。(画像は、同作パンフレット裏表紙より)

暴走マッチも煽り運転からの事故で病院へ…意識不明の明菜に一目惚れ

 一方、車の整備業に勤しむ青年役のマッチにも、ネガティブな展開が用意される。ハイスピードでドライブ中、ほかの車の煽り運転が原因で事故を起こし、仲間は死亡、自身も意識不明となり明菜と同じ病院に運ばれる……。

 どちらも入院したマッチと明菜だが、明暗が分かれた。意識を取り戻したマッチは奇跡的に無傷で即退院となったのだ。そしてついに明菜と初遭遇。院内をストレッチャーで運ばれる彼女を見かけ、意識を失っている顔に心を奪われるのだ。

 以後、映画は入院中の明菜が精神的に不安定になっている様子を描写していく。同室になった老婆(全身にがんが転移)に愛読書『怪談』に登場する「耳なし芳一」の生涯について、わりと長めに、一方的に解説する。まるで好きなアイドルの魅力を語るように楽しそうな明菜だが、老婆は話の途中で死んでいた……。

 看護師と口論になり、ラジカセを病室の窓から放り投げ「死にかかっている人間だからってバカにしないでよ」とブチ切れる。

 この映画では、言動がおかしいのは明菜だけではない。心の拠り所だったラジカセが壊れてしまった明菜に、若い看護師達が子犬をプレゼントし、病室でこっそり飼うように促すのである。病室で犬。製作者側は意図的にツッコミどころを用意しているのだろうか? 喜んだ明菜はその犬に「芳一」と命名。しかし、当然のごとく犬は吠える、ワンワン鳴く。バレないわけがない。ある夜、明菜は鳴き止まない犬に困り果て、泣きながら看護師に言った。「捨ててきて」。ここで犬の「芳一」は退場。

 そんな頃、マッチは街で路上生活者の丹波哲郎と知り合う。丹波が映画『丹波哲郎の大霊界 死んだらどうなる』を世に送り出すのは、映画公開から4年後のことである。その後、いろいろあってディスコに繰り出したマッチは、元カノらしい女性(高樹沙耶)に誘われダンスフロアに。多くの若者が踊るなか、目の前で明菜が踊っている幻覚を見る。ちなみに、マッチは直前まで煙の出るものをふかしていたが、まさかそれは現在の高樹沙耶が合法化を望んでいるものではないだろう。

明菜が「耳なし芳一」と原宿を歩く…ディスコで幻覚を見たマッチは自殺寸前

 ここまでの理不尽な内容も、もしかすると80年代の観客は許容したのかもしれない。しかし、ここから映画はいよいよ、オカルトの沼に突入する。

 突然、明菜の病室にモヤモヤとした妖しい影が浮かび上がると、それが人間の姿に変化する。それは6歳ぐらいの性別不明の子どもで、服装は僧侶風、コントで用いられるような短髪のカツラをかぶっている(ように見える)。また、左右の頬が不自然に膨らんでいる。演出意図がわからない。

 子どもは「耳なし芳一」を名乗り、明菜の念力が自分を呼んだのだと告げる。耳なし芳一は盲目のはずだが、その点はなかったことにされ、子どもの姿である理由も明かされなかったが、明菜は大感激だ。

「すごい。本当に芳一が来てくれたのね。私は芳一が好きよ。なんでも頼んでいい?」

 この台詞は明らかにおかしい。明菜はそれまで耳なし芳一に会いたいと願っていた訳でもない。そもそも、耳なし芳一はフィクション上の架空のキャラである。それに、 “アラジンの魔法のランプ”から出てくる魔神のように、願いごとを叶えてくれる万能の存在でもない。それらの矛盾点を超越し、「いいとも」と答える芳一に明菜は続ける。「いっぱい歩いてみたいの」。

 明菜は直前まで病室内を歩いていたが、“不思議な力によって歩けるようになった”という顔で院内を歩き出す。そして、ロビーに設置されている聖母マリア像の前に歩み寄り、耳なし芳一が仏教系キャラであることをお構いなしに祈る。

「マリア様、ありがとうございます。芳一のように素敵な人に会わせていただいて本当に感謝しています。どうかこの幸せがいつまでも続きますように。アーメン」。

 これは、日本人の宗教観への皮肉なのか?

 翌日、「好きだと言ってくれる男の子と会いたい」という願いを叶えるために、明菜は耳なし芳一と病院を抜け出し原宿や動物園で遊ぶ。一連のシーンで、芳一の姿は明菜以外の人からは見えないこと、芳一が近くにいれば明菜は元気に活動できるが、離れると弱ってしまうことがわかる。また、芳一はドアがなくても壁の向こうに移動できたり、空中を自由に浮遊できたり、身体を自在に縮小できるようだ。ただ、残念ながら以後、その能力はストーリーにまったく生かされない。

 夕方、これといった出会いのなかった明菜が、「結局、誰にも会えなかったじゃない」とグチると、芳一は「私の修行がまだ足りなかった」と謝る。ここはギャグシーンなのだろう。そのとき、空を見上げた明菜は、ビルの屋上から誰かが飛び下りようとしているのを発見。説得を試みようと屋上まで駆け上がると、そこに立っていたのはマッチだった!

遂に出会ったマッチと明菜は即デート…しかし、その日のうちに明菜が死亡の衝撃

 結局、マッチは飛び下りず。2人は互いに運命の出会いを悟る。マッチはビルの屋上に立っていた理由について説明する。「君の顔を思い出していて、身体から羽が生えて飛んでいけそうな気分になっちゃった」。この人も闇落ちしていた。

 気力が復活したマッチは、バイクでのデートを申し出る。マッチが一時的に席を離れると、再登場した耳なし芳一に明菜は不安をぶつける。「どうしよう。私、バイクになんか乗れるのかしら?」。すると、芳一は「ヘルメットをかぶってしっかりつかまれば大丈夫だよ」とは言わず、「たったひとつだけ方法がある。しかし、危険だ」と困り顔。なんでもその方法はエネルギー消耗度が高く、明菜の命はそれで尽きてしまうかもしれないというのだ。バイクに乗ることが命がけの苦行ということになっている。

 その「バイクに乗る方法」とは、芳一が明菜の身体の中に入るというものだ。こうして、耳なし芳一と一体化した明菜は、壁の向こうの風景を透視できるなど超能力も得る。そして、そうした伏線が以後、まったく回収されないのが『愛・旅立ち』という映画である。

 マッチと明菜はバイクで海沿いの街に行き、「生と死」について語り合ったり、浜場で突然デュエットしたりする。このミュージカルシーンは、かなり唐突だが、当時のマッチファンには違和感がナシだったかもしれない。なぜなら、この時代のジャニーズ映画には必ずミュージカルのシーンが挟まれたのである。監督を問わずみられた傾向なので、それがジャニーズ事務所側からの要望であることは明らかだ。

 さて、楽しく過ごした2人だが、帰り道にバイクがガス欠になってしまうアクシデントが発生。しかし、アクシデントはそれだけにとどまらない。マッチがガソリンスタンドを探すためにその場を離れると、耳なし芳一が明菜の身体から飛び出し、「私の力はこれまでだ」と無情の宣告。彼もガス欠だったのだ。芳一が去ったことで明菜は倒れ、その後、運ばれた病院で息を引き取った。

──とここまでが、物語の中盤を過ぎたあたりまでのストーリーだ。要は、マッチとの初デートの日に明菜が死んでしまったのである。

 現実世界で中森明菜が目標として公言していた山口百恵は、主演映画やテレビドラマで、難病や出生の秘密などを背景に、悲劇的結末を迎える女性を演じることが多かった。当時19歳の明菜が、同期デビューの小泉今日子や堀ちえみのように、明るく快活な若者の役が不向きであることは明らかで、“百恵路線”が選択されたのはまあ理解できる。また、百恵主演作も今見ると、荒唐無稽な内容が多いことも否定できない。しかし、そこにはいくらなんでも耳なし芳一は出てこない。百恵もさすがに犬は捨てない。

 36年前の若者でもピンとこない“フィーチャリング耳なし芳一”、共感を呼びにくい明菜の一連の言動、超常現象を無秩序にぶち込んだご都合主義の脚本……。

 さて、迷走を続ける『愛・旅立ち』は果たして、ここからどのような結末を迎えるのか?

峯岸あゆみ/ライター

峯岸あゆみ/ライター

CSと配信とYouTubeで過去のテレビドラマや映画やアイドルを観まくるライター。ベストドラマは『白線流し』(フジテレビ系)、ベスト映画は『ロックよ、静かに流れよ』(1988年、監督:長崎俊一)、ベストアイドルは2001年の松浦亜弥。

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