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日本郵便の常務、内部通報者の情報を“脅し”加害者の郵便局長に漏洩…全特、いまだ隠然たる力

文=編集部
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JPタワー(「Wikipedia」より)

 日本郵便の有力郵便局長が内部通報者らを「絶対に潰す」などと脅かしていた問題で、日本郵便は7月16日、「当時のコンプライアンス担当だった常務執行役員が、加害者側に内部通報者に関する情報を漏らしていた」と明らかにした。元常務の行為が「日本郵政グループの内部通報制度に対する社員の信頼を毀損した」と認め、報酬30%減額(4カ月)相当の自主返納を求めた。

 日本郵便によると、福岡県直方市や飯塚市などの約70の郵便局でつくる筑前東部地区連絡会に所属していた複数の局長が2018年10月、別の局長の内規違反に関して内部通報した。通報された局長の父親は地区連絡会トップの九州支社副主幹統括局長(当時)だった。

 調査に当たった元常務は同月、元統括局長に対し「(あなたの息子が)周りの局長ともめているようだ」と、通報者の名前が推測できるような方法で伝えた。

 元局長は19年1月、通報者と疑った部下の局長を呼び出し、「仲間を売ったらあかん。これ、特定局長の鉄則」「社員ならいいけど、(通報者の中に)局長の名前が載っとったら、そいつら絶対潰す」と脅迫。後日呼び出した別の局長には、「おまえ、誰のおかげで局長になったんだ」と凄んだ。元統括局長と親しい間柄の局長らも役職辞任を迫った、とされている。

 日本郵便は元統括局長ら計9人を停職などの懲戒処分にした。このうち元統括局長は強要未遂罪で起訴され、今年6月、福岡地裁で執行猶予付きの有罪判決を受けた。

旧特定郵便局の人事は全特が仕切る

 日本郵便は、この事件の背景にある郵便局長会の問題には踏み込まなかった。旧特定郵便局長らでつくる「全国郵便局長会」は事実上、旧特定局の人事に大きな影響力を持つ。通報者らを脅かした元統括局長は6月、損害賠償を求められた裁判で、内部通報者を特定しようとして刑事事件に問われた行動は、「局長会の団結、絆、信頼への不信感が生まれるのが一番怖い。局長会の一致団結を守るためだった」と述べた。

 会見した日本郵便の志摩俊臣常務は、報道陣から局長会について質問されると、「今回の調査ターゲットに入っていない」「コメントする立場にはない」「答えを差し控える」と、まったく歯切れが悪かった。

 通報者を推測できる情報を元統括局長に伝えた元常務は、全国郵便局長会の元専務(当時)にも情報を伝えていた。志摩氏は「好ましくはなかったが、専務は郵便局担当であり、規定違反とは考えていない」と擁護した。被害を受けた局長らの代理人を務める壬生隆明弁護士は「元常務は、局長会への配慮から不適切な情報提供を行ったと考えられる。局長会と会社の歪んだ関係を変えない限り、抜本的な解決にならない」と語っている。

 旧特定郵便局は普通郵便局に比べて小規模なものが多く、郵便局全体の4分の3(約1万9000局)を占める。大半の局長は任意団体の全国郵便局長会全特)に所属する。旧特定局は明治政府が郵便制度を始めた際に地域の名士に業務を任せたことに始まる。

 07年の郵政民営化に伴い、全国特定郵便局長会は任意団体の全国郵便局長会に衣替えしたが、呼称は「全特」をそのまま引き継いだ。全特は自民党の有力支持団体である。

 旧特定局の局長の採用に当たっては全特の地域幹部が事前に面談。「選挙活動はできるか」「局の近くに住めるか」などを確認し、適任者と認められた人物が会社の採用試験を受ける仕組みになっている。局長会の序列は、そのまま社内の役職に反映される。

 本社や支社のキャリア組は地域の細かい事情がわからないので、旧特定局の局長の採用や人事は全特が仕切ってきた。強い結束がある半面、不祥事が起きた際に上下関係を背景にしたパワハラが起きやすい。

 本社のキャリア組の常務が統括局長に通報者の情報を伝えたのは、任意団体である全特が、日本郵便の内部で隠然たる力をもっていることを示している。局長は原則として転勤がなく世襲で選ばれることが多く、外部の目が届きにくくなりがちで、コンプライアンス(法令遵守)上の弊害が指摘されてきた。

 長崎県警は6月14日、長崎住吉郵便局(長崎市)の元局長・上田純一容疑者を詐欺容疑で逮捕した。「利率のよい特別の郵便貯金がある」と持ちかけ、24年間に62人から総額12億円を騙し取った疑いが持たれている。

 一戸建て住宅を4軒(うち大村湾に面した別荘1軒)、アパート1棟、土地などで1億3763万円、ゴルフや飲食代に消費した分が7176万円、自家用車21台(うち新車16台)で5932万円。出資者(被害者)に対する元金や利子の支払いが2億7000万円。私利私欲のための出費と、出資した人々への元金や利子の支払いに充てられた、いわゆる自転車操業の実態が明らかになった。残りは使途不明だという。

 長崎住吉郵便局は旧特定郵便局の一つ。上田容疑者は長崎市内各地の郵便局勤務を経て1996年に長崎住吉郵便局長に就いた。父の跡を継いだ世襲だった。2019年3月に定年退職すると息子に局長を引き継がせ、退職後も局内の応接スペースを使い架空の金融商品の勧誘をしていたという。

 日本郵政の増田寛也社長は6月28日の記者会見で「再発防止策をどうしていくのか、検討している」と述べた。全特は「コメントする立場にない」とメディアの取材を拒否した。

楽天グループ頼み

 日本郵政グループは不正の“宝庫”だ。3月24日、かんぽ生命保険と日本郵便による保険の不正販売で、関与したり管理責任があった日本郵便の営業担当者や郵便局長など約1300人を新たに処分した。累計の処分は約3300人に達した。

 追加処分のうち3人は懲戒解雇。東海地方の郵便局勤務の課長は顧客2人に計58件の契約を繰り返し結ばせていた。顧客の損害額は約1300万円と認定した。日本郵政の増田社長は不正の再発防止策の一環として他社との提携を前面に押し出した。

 日本郵便は楽天と20年12月に物流分野で提携した。21年3月、日本郵政は楽天との資本提携に踏み込んだ。携帯電話事業や金融など幅広い分野で協業を進める考えで、7月1日付で共同出資の物流新会社を設立した。

 社名はJP楽天ロジスティクス。出資比率は日本郵便が50.1%、楽天グループが49.9%。ネット通販の拡大に対応するため効率的な物流を目指す。日本郵政のガバナンス上の最大の問題点は、日本郵便に大きな影響力を持つ全特に切り込めないことだ。

 転勤制度の見直しなどにも、全特は最大の抵抗勢力として立ちはだかる。世襲が当たり前だった全特には、こうした改革は死活問題になるから徹底抗戦する。

 増田社長のリーダーシップが問われている。岩盤のように固い、全特の既得権を壊すことができるのかが、増田改革の成否を握る。だが、「楽天頼みでいいのか」「日本郵政グループが楽天と組む意味を再検討したほうがいい」との声がグループ内外から出ている。

(文=編集部)

BusinessJournal編集部

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