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コロナ感染爆発、五輪との因果関係を頑なに否定する小池都知事が示す“エビデンス”の空疎さ

文=明石昇二郎/ルポライター
コロナ感染爆発、五輪との因果関係を頑なに否定する小池都知事が示す“エビデンス”の空疎さの画像1
東京都の公式HPより

安倍晋三流「日本モデル」の終焉

 昨年(2020年)5月25日、安倍晋三首相(当時)は夕方の記者会見で、日本国内における新型コロナウイルス感染症の流行をほぼ封じ込めることに成功したとして、次のように高らかに宣言した。

「日本ならではのやり方で、わずか1か月半で、今回の流行をほぼ収束させることができました。正に、日本モデルの力を示したと思います」

 この時の日本では、1日当たりの新規感染者数は全国で50人を下回り、新型コロナウイルスに感染して入院していた患者の数も2000人を下回っていた。それから1年3か月が過ぎた今年(2021年)8月14日、1日当たりの新規感染者数は全国で2万151人にのぼり、同日発表の死者数は17人。人工呼吸器や集中治療室などで治療中の重症者は同日の時点で1521人となった。文字どおりの「感染爆発」状態にある。今こそ「日本モデル」の力を発揮してほしいところなのだが、「日本モデル」は今、一体どこで何をしているのか。

 そもそも、一国の首相が堂々と口にしていた「日本モデル」とは、どんなモノや状態を指す言葉だったのか。「全国一斉休校」や「アベノマスク」のことなのか。それとも、昨年の春から夏にかけて猛威を振るい、飲食店やパチンコ店、帰省客等に対し暴力的に活動の自粛を強要していた「自粛警察」のことなのか。あるいは、それ以外のモノなのか。それとも何のエビデンス(根拠・証拠)もなく、たまたま運がよかっただけの話なのか。

 もし「日本モデル」の正体や効能、そして期待できる効果などを科学的に解明できていれば、現在の感染爆発も立ちどころに収束することができるのかもしれない。だが、その正体が解明されたとの報は、いまだ耳にしていない。

 しかし、今となっては神がかりであろうと精神論であろうと、感染爆発が収まるのなら何でもいい。安倍氏が誇らしげに語っていた「日本モデルの力」を、一体何が、そして誰が削いでしまったのか。

テレビ視聴率の上昇が、東京五輪「無罪説」のエビデンス?

 以前にも本サイトで書いたことがあるのだが、新型コロナウイルスの感染が拡大する最も大きな要因は、人々の「移動」と「接触」(あるいは接近)である。それが感染症というものの特徴であり、つまり人々が「移動」や「接触」をやめれば感染拡大は収まるし、「移動」や「接触」を控えれば感染拡大も控えめになる。これこそが感染症対策を考える上でのイロハである。

 新型コロナウイルスが日本に上陸してから1年以上が過ぎ、このイロハがすでに世間の常識となっている現在、昨今の感染爆発の最大要因は「東京五輪」にあるのではないか――ということに、皆、薄々感づいている。五輪の開幕前と閉幕後では、新規感染者数や医療現場の逼迫度に雲泥の差があるのだから、不思議なことでも謎でもなんでもない。ようするに感染爆発は、東京五輪が引き起こした強烈な副作用――副反応としてもいいが――というわけである。

 同五輪が開催された東京都内だけを見ても、8月14日現在、新規感染者数は5094人にのぼり、感染して発症しても入院できない「自宅療養者」(と政府やマスコミが呼ぶ「自宅隔離措置」下の人々)の数は2万1729人にも達し、減少に転ずる兆しは一向に見られない。ここにきて、筆者の知人や友人が新型コロナに感染したとの報告が、SNSを通じて続々と届き始めてもいる。

 しかし「五輪強行開催」を主導した首相や都知事をはじめとした日本の政治家たちは、「東京五輪」のせいにされることを頑ななまでに拒んでいる。例えば小池百合子都知事は8月13日、前日に開かれた都のモニタリング会議の席上、国立国際医療研究センターの大曲貴夫・国際感染症センター長が「競技場の周辺や沿道に多くの人が集まり応援する姿が見られた」との事実を挙げたことに対し、大曲氏の面前で次のように反論している。

「印象論でおっしゃっている。こちらは人数がどうだったか確認している。(首都高速道路の『1000円追加料金制』導入が人流抑制に役立ったとして)エピソード(出来事)ベースではなくエビデンス(証拠)ベースで語ることが重要だ」

 東京都は同日、東京五輪の開催期間中の人出について分析した結果を発表した――との報道もあった。「エビデンスベース」による反論を試みたわけだ。しかし、都のウェブサイトを見ても、肝心の「分析結果」もデータも見当たらない。仕方がないので8月14日の朝日新聞記事を参照すると、

・国立競技場周辺の人出の平均値を比べたところ、五輪期間中と開催前とでは人出が減少していた。特に午後7時台は約3500人減少。

・トライアスロンの会場だったお台場の東京テレポート駅付近では、競技当日の7月31日午前8時台に約1100人増加。しかし、開催期間中と開催前の人出の平均値を比べると、休日の人出は大会前よりも減少していた。東京ビッグサイトで開催される人気イベントの際の人出の方が多かったことも強調。

・新宿や渋谷、青山や赤坂などの繁華街でも、開催期間中の人出はほとんどの場所で日中の時間帯を中心に減少。

していたので、現在の感染爆発と五輪開催に因果関係はないのだという。路上で行なわれた自転車競技などの際、瞬間的に人出が増えた場所や時間帯はあったものの、東京都は、五輪の開催期間全体としては開催前よりも人出は減少した――と強引に結論づけていた。

 だが、残念ながらこれしきのデータでは、なんら説得力はない。それでも小池百合子都知事は同日の定例会見で、

「テレワークなどの推進もあり、ステイホームで応援していただき(テレビの)視聴率も上がった」

 と主張していた。しかし小池氏のこの主張は、テレビ観戦してさえいれば感染拡大はありえない――という思い込みによるものであり、テレビ視聴率の上昇はとても「科学的エビデンス」と呼べるようなシロモノではない。なぜなら、自宅以外の場所で複数の人々と一緒にテレビ観戦した場合や、自覚症状のない家族とともにテレビ観戦したケースでは、テレビ観戦自体がクラスター発生の原因となりえるからだ。

 小池氏が唱える説は、すべての日本国民が1人1台ずつテレビにかじりついて観戦していた場合に限り成立するという、あくまでも仮定の話にすぎない。つまり、いくらテレビの視聴率が上がろうと、東京五輪が感染拡大を招いていないという「エビデンス」にはならないのである。

 因果関係を認めてしまえば、反対論が渦巻く中、五輪開催を強行した自らの政治責任が問われるので、どうしても譲れないのだと思う。しかし、認めざるを得なくなるのはもはや時間の問題だろう。

「五輪開催」よりも重大な「感染爆発を招いた原因」が見過ごされている

 一方、まったく異なる見方をしている首長もいる。東京五輪でサーフィンの会場となった千葉県一宮町は7月27日の競技終了後、感染者が爆発的に急増しているのだという。人口1万2000人ほどの同町・馬淵昌也町長が8月9日に発信したメッセージ「一宮町内外の皆様へのお願い」から抜粋して紹介する

 現在、一宮町は、皆さまもご存じの通り、新型コロナウイルス感染症が爆発的に拡大しています。7月19日に28例であった陽性者の方の数が、本日8月9日には74例となっています。まさしく「緊急事態」というべき急増です。爆発的感染拡大は郡市全体に及び、検査体制、医療体制もにわかに逼迫状態となって、感染症対策上からいえば、たいへん危険な状況にあります。

(中略)一宮町にとって、これ以上の感染拡大は、なんとしても回避しなくてはなりません。それには、皆さまのご協力が必須です。どうぞ、町長からの心からのお願いに耳を傾けて頂き、ご協力賜りますよう、お願い申し上げます。

 令和3年8月9日

一宮町長 馬淵昌也

 町長のメッセージによれば、「爆発的感染拡大」の状況にあるのは一宮町だけでなく、周辺の町や市にも及んでいるようだ。海岸に設けられたサーフィン会場は国立競技場のような“壁”や“仕切り”がなく、人々が大挙して一宮町へと押し寄せても追い返すことができなかったことが、「爆発的感染拡大」の最たる原因と考えられるだろう。

      ※

 8月14日までに記録している新規感染者数の最多日は、全国(2万0365人)東京都(5773人)ともに8月13日。東京五輪の開幕日からちょうど3週間後に当たる。

 確かに東京五輪では、海外から来日する観客の受け入れを断念し、さらには「緊急事態宣言」下にある東京都内などの五輪会場では無観客にしていた。首都圏の各地で予定されていたライブビューイングも軒並み中止。そこまでしても、現在の「感染爆発」は起きている。もし、東京五輪の会場に満員の観客を招き入れていたら、いったいどれほどの規模の感染爆発が起きていたのだろうか――と想像すると、真夏なのに背筋が凍る思いがする。

 8月16日、東京パラリンピックの大会組織委員会や国際パラリンピック委員会などによる会談が行なわれ、同パラリンピックもすべての会場で無観客での開催となることが決まった。組織委員会の橋本聖子会長は会談後の記者会見でこう述べていた。

「新型コロナウイルスの感染拡大が続いていくなかでオリンピックが無関係とは全く思っていない」

 橋本氏のほうが、小池氏よりも菅氏よりも政治家として数段格上だと思う。今やつまらない意地を張っている場合ではないのだ。そんな意地など、感染爆発を収束させる役にはまったく立たない。

 筆者は、東京五輪を強行開催した者たちの責任以上に、感染爆発を招いた重大な責任がある者たちがいる――と思っている。しかも彼らの責任は、不問に付されたままだ。それは「空港の検疫体制」の問題である。新型コロナウイルスの正体がわからないまま、昨年1月頃、中国からの来日観光客によって日本に持ち込まれてしまったことは、不可抗力であり致し方ないことかもしれないと思う。だが、アルファ株はおろか、デルタ株、そしてラムダ株と、次々と、そして易々(やすやす)と変異ウイルスの日本上陸を許しているのはなぜなのか。

 ここにきて、「日本でも欧州のようなロックダウン(都市封鎖)を導入すべきだ」「もはや“お願いベース”では足りず、一般の人々への行動制限を法制化すべきだ」といった勇ましい声が、専門家とされる人々や自治体首長、自民党などから上がり始めている。だが、効果が疑問視されているロックダウンを考えるより、空港や港湾の検疫体制強化が先だろう。「検疫」が名ばかりのものであり、今後も変異ウイルスの上陸を許し続けるのなら、残る道は「鎖国」しかない。でも、一時的な鎖国のほうが、日本に暮らす市民にとっては「ロックダウン」よりよほど“優しい”方策だと思う。

 感染爆発を国民の怠惰や怠慢のせいにしようとする日本の「ロックダウン導入論」は、政治家が犯した度重なる感染対策失敗のツケを、「外出自粛」「帰省自粛」「時短」「テレワーク」などで1年以上にわたってさんざん協力してきた健気な国民になすり付けようとする、卑怯極まりない発想であることを指摘しておく。国民を舐めてはいけない。

(文=明石昇二郎/ルポライター)

明石昇二郎/ルポライター、ルポルタージュ研究所代表

明石昇二郎/ルポライター、ルポルタージュ研究所代表

1985年東洋大学社会学部応用社会学科マスコミ学専攻卒業。


1987年『朝日ジャーナル』に青森県六ヶ所村の「核燃料サイクル基地」計画を巡るルポを発表し、ルポライターとしてデビュー。その後、『技術と人間』『フライデー』『週刊プレイボーイ』『週刊現代』『サンデー毎日』『週刊金曜日』『週刊朝日』『世界』などで執筆活動。


ルポの対象とするテーマは、原子力発電、食品公害、著作権など多岐にわたる。築地市場や津軽海峡のマグロにも詳しい。


フリーのテレビディレクターとしても活動し、1994年日本テレビ・ニュースプラス1特集「ニッポン紛争地図」で民放連盟賞受賞。


ルポタージュ研究所

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