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「山口組組員」だった異色の司法書士・甲村柳市氏に聞く「司法書士という仕事」

横領事件が後を絶たないワケ…司法書士に転身した元山口組系ヤクザが解説

文=編集部
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東亜国際合同法務事務所代表の甲村柳市氏

 現在、岡山市内で東亜国際合同法務事務所の代表として司法書士や行政書士の業務に携わる甲村柳市氏は、1972年生まれの49歳。現在のやわらかな物腰からは想像がつかないが、なんとかつては山口組傘下組織の構成員で、服役の経験もあるという。司法書士試験という難関に挑戦しようと考えたのも、獄中だった。

 資格試験の合格率は3%という難関を突破してプロとして活躍する「元不良」の甲村氏に、司法書士という仕事について聞く。

司法書士と弁護士は何が違う?

――司法書士試験の合格率は3%だそうですね。

甲村柳市氏(以下、甲村) そうですね。そのことを知ったのは受験勉強を始めてしばらく経ってからでしたが、「それなら100人の中の3人になってやろう」と思い、ますますファイトが湧きました。なんでそんなに難関なのかというと、受験資格がなく誰でも受験できる分、「基準点」による「足切り」があるんです。また、一定の点数を取れたら合格する「絶対評価試験」ではなく、成績上位の受験者の一部を合格とする「相対評価試験」であることも司法書士試験の特徴です。

 法務省では、毎年一次試験後に受験生の得点状況に応じた「合格点」と「基準点」を発表していて、「合格点」を上回った受験者の中から相対評価で合格者が決められます。各科目で基準点に達していなければ、それだけで不合格です。基準点はだいたい7割くらいです。

――司法書士試験と司法試験の違いもよくわかりません。

甲村 まあ、大半の人はわからないですよね。「司法試験に受かったんやて?」などと、たまに聞かれます。司法書士の業務とは司法書士法に定める登記などの実務ですが、弁護士は法律に関する業務をすべて行うことができます。これが大きな違いですね。

 司法書士の使命を定めた司法書士法第一条では、「司法書士は、この法律の定めるところによりその業務とする登記、供託、訴訟その他の法律事務の専門家として、国民の権利を擁護し、もつて自由かつ公正な社会の形成に寄与することを使命とする」とし、第三条で具体的に業務を定めています。すなわち単なる登記実務だけではなく、「法律事務の専門家」として、国民の権利保護という使命を果たすことが職責です。

――なるほど。「町の法律家」といわれ、身近な印象もありますね。具体的には、不動産登記や商業登記の実務が中心ですね。

甲村 そうです。日本司法書士会連合会の公式サイトでは、8つの業務を挙げています。

1 登記又は供託手続の代理
2 (地方)法務局に提出する書類の作成
3 (地方)法務局長に対する登記、供託の審査請求手続の代理
4 裁判所または検察庁に提出する書類の作成、(地方)法務局に対する筆界特定手続書類の作成
5 上記1~4に関する相談
6 法務大臣の認定を受けた司法書士については、簡易裁判所における訴額140万円以下の訴訟、民事調停、仲裁事件、裁判外和解等の代理及びこれらに関する相談
7 対象土地の価格が5600万円以下の筆界特定手続の代理及びこれに関する相談
8 家庭裁判所から選任される成年後見人、不在者財産管理人、破産管財人などの業務

 今回は、この簡易裁判所での民事事件の裁判の代理権についてお話しします。

「認定司法書士」による簡裁代理権とは

――簡易裁判所は「身近な裁判所」といわれますが、よくわからないです。

甲村 まあ、裁判はできるだけ関わりたくないですよね。簡易裁判所では民事なら140万円以下の事件を扱い、司法書士は、この訴訟の訴訟代理や相談・交渉・和解の業務などに携わります。法務省で定める研修などを受けて法務大臣の認定を受けると、「認定司法書士」として「簡裁訴訟代理等関係業務」を行えます。現在、国内の司法書士の約8割が認定司法書士です。

 さて、この「140万円」の考え方ですが、個人的なお金のトラブルであれば十分対応できると思います。たとえば、多重債務者でサラ金やクレジットカードのローン5社にそれぞれ100万円の借り入れがある場合、総額では借金は500万円となりますが、複数の貸金業者について「個別の債権」とします。1件につき140万円以下なので、認定司法書士が受任できます。

 もちろん、金額については客観的に証明できなくてはなりません。債務者と司法書士だけではなく、債権者である貸金業者との間でも合意がなければなりません。

 利息計算の問題もあります。裁判実務では利息を充当して計算する「利息充当方式」ですが、無利息で計算して過払い金額を少なくする例もあるようです。利息を充当して140万円を超えてしまうと受任できなくなるので、わざと少なく計算するのでしょう。それでは何のための司法書士か、わかりません。140万円を超える可能性があれば弁護士に依頼すればいいだけですが、何が何でも受任したい司法書士もいるようです。

 ちなみに、訴訟の報酬について「司法書士は弁護士より安い」といわれているようですが、これは都市伝説のような話です。報酬は法定の範囲で各事務所が決めており、司法書士より弁護士のほうが安くなることもあります。

 もちろん東亜国際合同法務事務所は適正な価格で受任しているので、ご心配は無用です。「困ったなあ。東亜国際合同法務事務所に相談に行こうかな?」と思ってもらえるような事務所にしたいと思っています。私は行政書士と宅建士の資格も持っているので、お役に立てることも多いと自負していますよ。

横領に解決策はあるか?

――9月には、司法書士や弁護士による横領事件が相次いで報道されました。

甲村 そうですね。依頼人の銀行口座から1億2000万円あまりを横領したとして懲役5年6カ月の実刑判決を言い渡された司法書士がいました。報道などによると、依頼された相続財産の管理や成年後見などの業務で預かっていた銀行の口座から6年にわたって着服を繰り返していた。選任していた家庭裁判所が「財産管理に不審な点がある」と警察に捜査を依頼して明らかになったそうです。

 残念ながら、司法書士による横領事件は今回が初めてではありません。依頼人が認知症などで自身の財産の管理ができないのをいいことに、司法書士や弁護士が横領する事件は後を絶たないですね。

 同じ9月には、高齢女性の口座から約2億3000万円を騙し取っていたとして起訴されていた元弁護士が、その女性の遺言を偽造していたとして再逮捕されています。

 ほかにも億単位の横領事件は少なくありませんが、実際には発覚していないだけで、被害はもっと多いと思います。こうした事件は成年後見人に就任している場合がほとんどですが、この成年後見については別の機会にお話しします。

――司法書士や弁護士だけでなく、経理担当者など企業における横領事件も昔から問題になっています。こうした横領を防ぐには、どうすればいいのでしょうか?

甲村 難しいですね。職務として他人様のお金や預金通帳を預かることも多いので、チェック体制を厳しくしただけでは、完璧には防げないと思います。また、横領事件が起こる背景には、資格を持っていても稼げないという事情があります。稼げていれば少しは防げるのかもしれませんが、やはり弁護士や司法書士が矜恃とプライドを持つほかなく、プロとしての自覚を持つことが一番です。

 矜持と英語の「プライド(pride)」は似ていますが、ちょっと違うんです。 矜持は「自分の能力を優れたものとして誇る気持ち」という意味で、プライドは「自分の才能や個性、また、業績などに自信を持ち、他の人によって、自分の優越性・能力が正当に評価されることを求める気持ち」を意味します。

――なるほど。プライドは他者の評価も必要なんですね。

甲村 そうです。この両方を持つことが大事なんですよ。格好悪いマネをして他人様から後ろ指を指されるようなことをしたら、自分が損をします。弁護士や司法書士として、自身の思い描く理想と矜持、そしてプライドを持っていれば、目前の誘惑をはねのける大きな力となるでしょう。

 以前、ある弁護士さんから「弁護士とは、資格でなく生き方だ」と聞いたことがあります。司法書士も、まさにそうだなと思いました。横領のようなつまらないことで生き方まで犠牲にすることはないんです。

――それは、資格がなくても、あらゆる職業の方に当てはまりますね。

甲村 そうですね。資格試験合格を目指している、あるいは合格したばかりの若い人はもちろん、すべての方に矜持とプライドを持って職責を果たしていただきたいです。

(※続く)

(構成=編集部)

【プロフィール】甲村柳市(こうむら・りゅういち)
1972年岡山・美星町生まれ。ごく普通の子どもだったが、中学校に入った頃から不良に憧れて町でケンカも繰り返すように。少年院収容も経験。20代前半にスナックで“スカウト”されて五代目山口組の三次団体の組員に。恐喝未遂や公務執行妨害罪などでの服役を経て2018年11月、7回目の受験で合格。現在は、生まれ育った岡山市内で東亜国際合同法務事務所の代表をつとめ、不動産や商業登記のほか、遺言・相続、成年後見、入国・国際業務、債権整理、風俗業や建設業の許認可申請など司法書士・行政書士の業務をすべてこなしている。https://touakokusai.com/

BusinessJournal編集部

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