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東芝、完全解体へ…物言う株主に追いつめられ儲けをギフト、危機下でも経営内紛

文=編集部
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東芝の事業所(「Wikipedia」より/Waka77)

 東芝は会社を解体する。「物言う株主」に追いつめられた挙句の果てに、会社を三分割するという苦肉の策をひねり出した。11月12日のオンライン記者会見で綱川智社長は会見の冒頭の11分の間に、「株主価値」「株主還元」を15回連呼。「会社解体ではなく、未来に向けた進化だ」と強弁した。

 しかし、東芝の大株主(7%超を保有)のシンガポールの資産運用会社、3Dインベストメント・パートナーズは「三分割案を支持しない」との書簡を東芝の取締役会と、社外取締役で構成する戦略委員会に送付した。「過去20年間、執行部の下、企業価値を創出できていない。三分割は高い確率で同様の問題を抱えた『小さな東芝』を三つ生み出す」と書簡は実に辛辣だ。「三分割案は経営陣の保身を優先したものだ」と断言する有力なアクティビストもいる。「物言う株主」は「三分割は中途半端で将来展望がない」との結論なのだ。

 エネルギーなどを手掛けるインフラサービスカンパニーとハードディスク駆動装置(HDD)が軸のデバイスカンパニーの2社に事業を分割して、2024年3月期決算の後半に上場させる予定だ。東芝の現在の株主にはインフラ、デバイスの両社の株式を新たに割り当てる方向だ。22年1~3月の間に臨時株主総会を開き、正式な決議を前に株主の意向を確認する。会社分割の正式な決議は2023年度の定時株主総会になる。会社分割は特別決議になるため、議決権の3分の2以上の賛成が可決の条件となるから、壁は高い。

 そこで、22年1~3月期に開く臨時株主総会で、「今回の分割案を策定した取締役の再任案を諮ることもあり得る」(東芝)としている。取締役の選任は過半数の賛成でいいので、ハードルは特別決議ほど高くない。

 それでも臨時株主総会で過半の株主の賛同を得るのは決して楽な作業ではないだろう。「株主の意向の確認」で混乱する懸念がゼロではない状況だ。現在の東芝は約4割を出資する半導体大手キオクシアホールディングスなどの株式を管理する会社として存続する。

 だが、その一方で、「キオクシアの株式は可能な限り速やかに全株を現金化して株主に還元する」(綱川社長)と説明した。「過半の売却から全額売却」へ転換し、「物言う株主」に数千億円規模の売却益をギフトするわけだ。残る株式は東芝テックが主なものになるだけで会社として存続する意味がなくなる。持ち株を管理する会社は上場を安定的に維持するのは難しいだろう。

経済安全保障の問題

 東芝の失敗は、綱川氏が前回社長だった時に上場維持にこだわり、旧村上ファンドのエフィッシモ・キャピタル・マネジメントなどの「物言う株主」60社に6000億円規模の第三者割当増資を行ったことに端を発する。経営陣と「物言う株主」の間でボタンの掛け違いが起こった。

 綱川氏と違って、ファンドにいたことがある車谷暢昭前社長はファンドにとって手ごわい相手だった。車谷氏の自作自演とまでいわれた、英ファンドのCVCキャピタル・パートナーズに買収してもらい一時的に上場廃止にする手法は、「結局のところ、車谷前社長の自己保身だった」(東芝の元役員)。

 騒動を冷静に見ていたアナリストもいる。「CVCが大株主のファンドなどの持ち株を買い取って、いったん非上場化した後に再上場するシナリオは、『物言う株主』のくびきから抜け出せる妙案だった」というのだ。

 しかし、車谷氏はCVCとの不明朗な関係を指摘され、引責辞任。CVCとの交渉は中断した。東証一部への上場維持にこだわる東芝の有力OBや幹部の反発を招き、車谷氏は辞任に追い込まれるという、お粗末な結末を迎えた。その後、東芝の戦略委員会は一時、非公開化を有力の選択肢と考え、プライベート・エクイティ(PE)・ファンドと協議を進めた。4つの外資系ファンドに絞られたが、経済安全保障の問題が大きなネックとなった。

 日本政府は海外からの投資を規制する改正外為法を施行。原子力など国の安全に関わる業種に外資が出資する際の事前審査を強化した。萩生田光一経済産業相は記者会見で「東芝が安保保障に関わる重要な技術を保有する企業であることは間違いない」と明言した。「会社丸ごとの買収」による非公開化のシナリオが流れたため、ひねり出されたのが会社の三分割。三分割は「物言う株主」に出て行ってもらうための苦肉の策なのだ。

「事業価値を高める」というのならカンパニー制でいいはずだ。三分割して、いずれの会社も上場を目指すのは「株主を儲けさせて追い出すため以外には考えられない。プレミアムをつけないとハゲタカは納得しない」(世界のM&Aの動向に詳しいアナリスト)。

経産省と東芝経営陣の“癒着”

 東芝には株式を買い取るための資産はある、といわれている。芝浦や京浜間など首都圏に土地やビルがあり、それらを売却すれば資金をつくれる。だが、経済安保の壁は厚かった。

「経産省は東芝が中国に買われては困るので、非常にこだわっている。東芝の“保護者”をやめる気はない。それでも、うかつに手は出せなくなった。物言う株主の主導で経営陣に株主総会における経産省と経営陣の“癒着”を公表する報告書を出させたことでもわかるように、ファンドは賢く立ち回っている」(前出のアナリスト)

 危機下でもお家芸の内紛の種は消えていない。“ポスト綱川”と3つの分割会社のトップを狙ってのせん動だ。4月に社長に返り咲いた綱川氏は暫定的に取締役会議長も兼務している。11月12日の会見で綱川氏は「いまのポストにある限り、スピンオフの遂行に向けて全力で取り組む」と続投に意欲を滲ませた。次期社長の最短距離にあるとされる畠澤守副社長を名指しして「過去の不正会計に関して東芝全体を倒産の危機にさらした」と批判した怪文書が社内外に乱舞している。新しい勢力の台頭を阻止しようとする陣営を交えた情報戦の様相を呈している。お互いに刺し合いとなっている図だ。

 東芝は外堀も内堀も埋められてしまった。粛々と解体されていくしかないのではないのか。

(文=編集部)

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