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「ダイヤモンド」vs「東洋経済」! 経済誌双璧比べ読み(4月第4週)

ライバル両誌が、医療業界ネタで重なった理由を裏読みする!

文=松井克明/フィナンシャル・プランナー
ライバル両誌が、医療業界ネタで重なった理由を裏読みする! の画像1

毎日の仕事に忙殺されて雑誌を読む間もないビジネスマン必読! 2大週刊経済誌「週刊東洋経済」と「週刊ダイヤモンド」を比べ読み。小難しい特集を裏読みしつつツッコミを入れ、最新の経済動向をピックアップする!

「週刊東洋経済 4/28・5/5合併特大号」の第1特集は、「がん完全解明2012」、第2特集「沖縄経済の実力」、第3特集「検証 米国経済は改善していない!」。いっぽう、「週刊ダイヤモンド 4/28・5/5合併特大号」の大特集は、「クスリ激変 最新薬でここまで治る」だ。

 大手経済2誌がともにこのタイミングで医療物を特集するのは、2年に一度行われる診療報酬の改定がこの時期にあたるためだろう。診療報酬とは医療機関の診療を点数化したもので、この合計点数に見合ったものが医療機関の報酬となる。この点数の配分は厚生労働省が定めるが、厚労省が推進したい項目は点数を重点化するなど、政策的な要素が多い。点数次第で医療業界のお金の流れが大きく変わることもあるほどで、診療報酬の改定は、われわれ患者への影響も大きいのだ。  

 この4月からスタートしたのは2012年度診療報酬改定。診療報酬を審議する「社会保障審議会医療保険部会」の改定の基本方針によれば、今回の改定の視点のいちばんに、「がん医療、認知症医療など、国民が安心して生活することができるために必要な分野については充実していくこと」が必要と、「がん」を重点項目に掲げており、実際に、改定項目も多い。

 改定された代表的な項目は、米国製の内視鏡手術支援ロボット「ダビンチ」を使った前立腺がんの全摘出手術が、4月から保険適用されるようになったことだ。この「ダビンチ」は医師が遠隔操作で内視鏡手術を行うもので、これまでの腹腔鏡手術より出血量が少なく、入院日数も短縮できるとメディアでも何度か大きく紹介されていたものだ。

 これまではおおむね100万円以上の自己負担が必要だったが、前立腺がんの全摘出手術については保険適用となり、自己負担額は1割負担の場合、10万円弱、3割負担の場合、30万円弱になったのだ(「週刊東洋経済」第1特集「がん完全解明2012」「前立腺がん ロボット手術に保険 新薬の登場にも期待」)。

薬局ごとに薬代が異なってくる理由とは!?

「週刊ダイヤモンド」(4/28・5/5合併特大号)

 まずは「週刊ダイヤモンド」、大特集は「クスリ激変 最新薬でここまで治る」。「Part1 難病に挑む新薬の最前線」では、がん、関節リウマチの新薬の最前線を紹介する。近年、続々と新薬が投入されている抗体医薬の多くは、「分子標的薬」と呼ばれる新しいタイプの薬だ。これまでの薬はがん治療であれば、正常細胞も攻撃してしまう性質があり、さまざまな副作用が強く出る傾向にあったが、分子標的薬は病気に関する特定の部分だけをピンポイントで攻撃するために、副作用が少ないとされている。

 ただし、分子標的薬の効果は患者の体質により変わってくる。この3月末に厚労省が製造販売承認した肺がん治療薬(分子標的薬)の「ザーコリ」の効果がある患者は肺がん患者の4%に過ぎないという。これからは患者の体質にあった治療「個別化医療(オーダーメード医療、テーラーメード医療)」の時代になるという。

「Part2 開発競争続く注目の病気」では、患者数800万人とされる糖尿病、日本人の死亡原因の3位である脳卒中の予防薬、加齢黄斑変性・緑内障などの眼の病気への画期的な新薬などを紹介。「Part3 家族を守る予防&治療薬」では、子どもの病気、女性に多い病気、精神と心の病、認知症の最新治療薬事情が紹介されている。

「Part4 薬局&薬店使い倒し術」では、調剤薬局ごとに薬代が異なってくる理由を解説している。薬代のなかには、公定価格が定められた薬代のほかに、調剤技術料として「調剤基本料」があり、この価格が、調剤薬局によって異なるのだ。たとえば、「処方箋の受付回数が月4000回超と多く、その70%超が特定の病院に集中している」調剤薬局の基本料はそれ以外の調剤薬局よりも安くなるという。つまり大病院の近くの調剤薬局ほど薬代が安くなる可能性が高いということだ。

「Part5 全身を調える漢方薬の実力」では効果が高い漢方薬を一覧化し、「Part6 薬を取り巻く企業と人」では、高い配当利回りで個人投資家に人気の医薬品株という視点で製薬会社を分析し、「偏差値70から35まで 東大生は薬剤師資格眼中になし!」という記事では、「日本の薬学部・薬学科の偏差値ランキングと薬剤師国家試験合格率」を掲載している。経済誌が得意とする「編集部でまとめた」一覧表だ。

 この表で特徴的なのは、薬剤師の国家試験は平均9割弱が合格していること。だが、これは大学側が国家試験よりも難しい進級試験を課して、合格確実な学生だけを受験させているからだという。また、そんななか東京大学の合格率が35%と目立って低いのだが、その理由は、薬剤の研究や開発の最先端の分野では、化学や生理学などの研究者としてより高度な訓練を受けてきた人材が採用されており、そもそも薬剤師の資格の有無などは問われないためだという。  

がんも「治療満足度」が問われる時代に

「週刊東洋経済」(4/28・5/5合併特大号)

「週刊東洋経済」の第1特集は「がん完全解明2012」。「Part1 賢いがん患者になる」では、「がんの標準治療を知っておこう」として続々と登場する新薬、新技術を紹介。がんも「治療満足度」が問われる時代になっている。治療満足度も一部のがんでは目覚ましい。ある医療関係者への調査では、大腸がんの治療満足度は00年度の43.8%から10年度には72.4%に向上。前立腺がんや白血病でも薬剤貢献度の向上によって治療満足度が上昇した可能性があるという。

 また、医薬品市場のグローバル化で、希少がん治療薬を採算ラインに乗せることが可能になってきた。患者数が10万人に1人という希少疾患であっても、世界規模でみると、患者数は7万人に達するのだ。がんの分子標的薬で売上高首位のリツキサンの2011年売上高は65億ドルに達するという。つまり、希少がん薬が新薬開発の主戦場になりつつある。

「Part2 がんにかかるおカネ」では、この4月から、これまでは入院の場合だけに適用されていた高額療養費制度の「限度額適用認定証」の制度が外来診察時にも使えるようになったことが紹介されている。高額療養費制度とは、1カ月に支払った医療費の自己負担額が一定額を超えた場合に超えた金額が支給される制度だ。

 一定額とは年齢や所得によって異なるが、一般所得(標準報酬月額が月額53万円未満で住民税非課税者をのぞく)、70歳未満の場合、1カ月間の自己負担は8万100円となり、超えた金額は還付されることになる(一時的に立替払いをせざるをえなかった)。ただし、治療前に手続をしておけば、あらかじめ「限度額適用認定証」を提示することで、限度額を超えた場合の支払額は支払わなくて良い。入院の場合だけに適用されていたこの制度が4月から、外来においても適用されるようになったというわけだ。つまり、より患者の財布に優しい制度になったわけだ。

 また、社会派の「週刊東洋経済」らしく、「働き盛りの治療と就労 がん治療をしながら仕事を続ける」記事で、医療機関も職場も理解が乏しいがん患者の就労支援の問題を紹介している。

「Part3 日本のがん対策」では、こちらも「編集部でまとめた」一覧表が掲載されている。「週刊東洋経済」の今週号は「患者数、部位別、進行度別……病院の特徴がわかる がん診療拠点病院の治療実績」だ。国立がん研究センターがこの3月に公表した全国のがん診療連携拠点病院におけるがん治療の情報によるもので、09年1~12月に各拠点病院で行った治療の「院内がん登録」を集計したものだ。患者数の多い東京都、大阪府、愛知県、福岡県についてまとめられているが、ただし、調査自体は09年で「現在までに勤務する医師が替わっていると患者数や治療方針が変わることもある」などの注意点も多く「おおまかに施設の特徴をつかむことはできる/あくまも病院選びの参考の一つとして読んでほしい」と及び腰にまとめられている。

両誌の違いが大きく出た「分子標的薬」の注意点

 今週の両誌を見て、明らかなスタンスの違いが新しいタイプのがん治療薬「分子標的薬」をめぐる記述で見えてくる。「週刊ダイヤモンド」では、「分子標的薬で、がんから生還!」などと輝かしい面ばかりが強調されているが、「週刊東洋経済」では、「分子標的薬の長所と短所」として、薬の効果が期待できる患者にとっても必ずしも利点ばかりではない。

 基本的に分子標的薬はがん細胞の増殖を抑える薬であり、「使用をやめるとがんが大きくなることが動物実験で示されている」。また開発されてからの歴史が短く、長く使ったときにどのような副作用が出るのかがわからない点も注意点としてあげられている。社会派の「週刊東洋経済」ならではの記事だろう。

 しかし、こうした短所には触れていない「週刊ダイヤモンド」も先週号(4月21日号)の大特集「騙されない保険」では生命保険会社の保険セールスを覆面調査。「商品にはメリットとともにデメリットもある」が、デメリットの説明が欠如している実例があるとして、保険業界に警鐘を鳴らしていたが、その警鐘は自らの媒体は適用外となっているのかもしれない。

 また、「週刊ダイヤモンド」によれば、この4月から変わったことがもう一つある。医薬品業界が製薬会社の医薬情報担当者(MR)の医師への接待を事実上禁止する自主規制を始めたために、業界はマーケティング戦略の大幅な見直しを行っている。その一環が製品名を紹介せずに「認知症の新しい治療が始まっています」などと病名だけを宣伝する「疾患啓発」のテレビCMの増加だ。新しい治療があることを訴求して受診をうながし、売り上げにつなげるのだ。電通によると、疾患啓発広告の国内市場は約200億円だという。経済誌においても、疾患啓発広告の争奪戦もすでに始まっているのかもしれない。
(文=松井克明/フィナンシャル・プランナー)

松井克明/CFP

松井克明/CFP

青森明の星短期大学 子ども福祉未来学科コミュニティ福祉専攻 准教授、行政書士・1級FP技能士/CFP

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