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「ダイヤモンド」vs「東洋経済」! 経済誌双璧比べ読み(10月第2週)

『四季報』裁判を起こされた「ダイヤモンド」の企業特集が出色

post_822.jpg(左)「東洋経済 10/13号」
(右)「週刊ダイヤモンド  10/13号」
「週刊東洋経済 10/13号」の大特集は『日本のいい街 2012』。東洋経済は全上場企業の膨大なデータを網羅した会社四季報を発行していることに表されるように、収集したデータを様々な切り口で紹介するのが得意だ。今回は全国810市区の社会・経済情報を網羅した「都市データパック 2012年版」のデータをもとに(今回は人口5万人以上の市区556の街を対象)今、注目したい6テーマ(『発展力のある街ランキング』『高齢者が住みよい街ランキング』『安心・安全な街ランキング』『裕福な街ランキング』『出産・子育てしやすい街ランキング』『財政力のある街ランキング』)について「いい街」ランキングを作成した。

お得意のデータにおぼれた東洋経済

 全国の街をたくさん紹介することで、全国の地方自治体の関係者に購入してもらおうという狙いかもしれないが、ランキングをみると、その内容に首を傾げたくなってくる。

 たとえば、今回の特集の巻頭でも紹介している「都市データパック 2012年版」の『住みよさランキング(2012年)』だ。1位・印西市(千葉県)、2位・野々市市(石川県)、3位・坂井市(福井県)、4位・本巣市(岐阜県)、5位・守谷市(茨城県)というランキングなのだが、東洋経済の多くの読者であるはずの東京、大阪、名古屋といった街が入ってこないのだ。これでは、その該当の地域の関係者、住民は購入しても、多くの読者にとっては触手がのびないのではないか。

 また、『発展力のある街ランキング』は、1位・印西市(千葉県)、2位・豊見城市(沖縄県)、3位・稲沢市(愛知県)……といったランキングだ。2位・豊見城市(沖縄県)は沖縄県の南部に位置するが、道路整備で人口が増えたことがランクインの理由だ。3位・稲沢市(愛知県)は名古屋市に隣接し、豊田合成、ソニーといった大企業の工場やユニー、サークルKサンクスなどの本社もあるなど、もともと地の利のある地域だ。稲沢市の商工会議所によれば「朝夕は渋滞も多い。トラックが生活道路を通らざるをえないこともある」とマイナス面もあるという。

 このようなランキングは都心に読者にとっては興味がわかない。では、全国の地方自治体の関係者に買ってもらえばよいだろうとも思えそうだが、そうもいかない。

 ランク外にある地方自治体からみてもどうも参考にできないランキングばかりなのだ。その典型が「高齢者が住みよい街ランキング」だ。「高齢者が住みよい街ランキング」では、1位・倉吉市(鳥取県)、2位・三次市(広島県)、3位・港区(東京都)となっている。ここでは3位に東京のど真ん中、港区がランクインしているが、ランキングの理由は医師数、生活密着型小売業事業所数、65歳以上の就業者比率がそれぞれ全国1位と高いためだ。この理由は都心で大病院や企業数が多いこと、それにともない高齢者向けの求人も比較的多いこと。また、高級住宅街が多く、こういった地域の住民は65歳以降も企業の役員を続けること、といった理由が挙げられている。これでは、ほかの過疎地域の地方自治体が参考にできることがなく、うらやむばかりになってしまうのだ。

「安心・安全な街ランキング」も同様だ。1位・益田市(島根県)、2位・十日町市(新潟県)、3位・室蘭市(北海道)というランキングだ。1位の益田市(島根県)は交通事故、刑法犯認知件数がともに低いことがランクインした理由だ。  しかし、これは過疎地域で若者がいないためなんじゃないの!? というツッコミをいれたくなる。今夏、筆者は地方自治体の取材で益田市にある萩・石見空港と益田駅を利用したが、空港は羽田との往復一日一便、タクシー運転手さんは往時の観光ブームを懐かしむばかり、駅は新山口まで特急(といっても単線で)に乗って新幹線に乗りかえ大阪、東京に向かうという不便な地域だ。現地で見かけた若者は、夏休みで帰省したのか、益田駅の窓口で、神奈川県の長津田駅に向かうために新幹線の切符を購入していたキャバ嬢風の女性だけだった。つまり、若者は東京・横浜に向かい、どんどん過疎が進んでいるのが現状だ。交通事故、刑法犯認知件数がともに低いといわれて喜ぶ住民はいないのではないだろうか。

 さらに『裕福な街ランキング』と『財政力のある街ランキング』が追い討ちをかける。「裕福な街ランキング」は1位・鎌倉市(神奈川県)、2位・港区(東京都)、3位芦屋市(兵庫県)、4位・坂井市(福井県)……とお金持ちが住む街が並ぶ。4位の坂井市は三世代同居が多く1住宅当たり延べ面積が全国1位だ。 『財政力のある街ランキング』も、1位・品川区、2位・中央区、3位・江戸川区と東京の有数のエリアが並ぶ。なお、3位の江戸川区は地方債残高・依存度が低いことがランクインした理由だ。

 なお、『出産・子育てしやすい街ランキング』は1位・横手市(秋田県)、2位・由利本荘市(秋田県)、3位・十日町市(新潟県)といったランキングだ。

 ……こんな調子で、今回の特集はデータの結果だけで見ていて、分析・提言が圧倒的に少ないのだ。ジャーナリズム的な視点を持つ東洋経済ならではの、財政力の弱い過疎地域をどう活性させるのかなどといった視点がないと、単なるテレビバラエティの1コーナーレベルの「こんな面白い自治体がありますよ」という紹介特集になってしまうのだ。

 データはたくさんあるものの、十分に活用できていない残念な特集だった。

因縁の企業決算情報で好企画のダイヤモンド

一方の「週刊ダイヤモンド 10/13号」の特集は、『知らないではすまされない 「会社の数字」に強くなる!』だ。初めて決算書に触れるというフレッシュマン、自社の業務改善をしたい経営者、取引先の経営状態に不安を持っている営業マン、株を買いたいと思っている会社の財務内容を知りたい投資家……。「会社の数字」を使う理由は人それぞれだが、企業を見る上で、決算書は不可欠だ。今回の特集では、基本からプロの技まで、決算書を読み解く際に必要なノウハウを解説している。

 ちょうど、9月中旬に『会社四季報』(東洋経済新報社刊)、『日経会社情報』(日本経済新聞出版社刊)のそれぞれ秋号(年に4回出版される)が出たところで、こうした会社の決算書を読み解く企画は好機で、しかもダイヤモンドがこの特集を組むことはあるウラ読みができて、経済誌ウォッチャーとしては興味深い。

 というのも、企業の決算情報の二大双璧は『会社四季報』(東洋経済新報社刊)、『日経会社情報』(日本経済新聞出版社刊)。この牙城を崩そうとダイヤモンド社は『ダイヤモンド「株」データブック』を00年代に展開していた(全銘柄版と厳選企業版の2種類)。ところが、企業データが『会社四季報』に酷似していると東洋経済に裁判を起こされ、全銘柄版はわずか3号で休刊。厳選企業版もこの春号(2012年3月)をもって休刊になっているのだ。なんともダイヤモンドにとって、企業の決算情報は鬼門になりつつあるのだ。

 しかし、今回の特集は充実している。特集『Part1 今さら聞けない数字の見方』では、「スッキリわかる! 決算書の読み解き方」といった入門編から、債務免除を受けて身軽になったJALのバランスシートを分析する「航空業界の競争がゆがむ!? 復活したJALを大解剖」といったタイムリーな話題まで提供している。

 『Part2 強い会社をつくる!』では、企業活動に大きな影響を与えそうなふたつの14年3月期からの制度変更を紹介している。まずはSPC連結義務化だ。  主に不動産開発で多用されてきた開発型SPC(特別目的会社)のスキームが不動産会社の経営実態を見えにくくするとして、連結対象にすることが義務化される(義務化は3月決算の会社ならば14年3月期から)。主要不動産会社は早期適用で連結財務諸表の作成を開始したが、連結財務諸表のバランスシートは大膨張した。とくに影響が大きいのはSPC比率が高かった東急不動産。有利子負債が連結で5598億円から1兆989億円と倍増したのだ(時価)。一方、住友不動産は不動産の含み益が5458億円から9760億円になった(簿価)。投資家にとって注意したいのは各社によってSPCの資産を時価で再評価したか簿価のまま連結したかがバラバラなことだ。いずれにせよ、会社の評価がガラリと変わるおそれがあり、関係者にとっては注意が必要だ(『不動産会社のB/Sが大膨張! SPC連結義務化のインパクト』)。

 もうひとつは新・退職給付会計だ。多くの上場企業には退職金や企業年金の制度がある。会計の世界ではこれらを退職給付制度というひとつの枠組みの中で処理している。将来の年金や退職金の支払額を現時点で必要な金額に修正した退職給付債務のうち、年金資産が不足する分は企業が穴埋めしなければならない。この債務のなかで、穴埋めされたものは退職給付引当金となるが、穴埋めされていない債務は未認識債務となる。この未認識債務はこれまでは一定期間で分割して費用処理できたが、14年3月期からは未認識債務は一気に退職給付引当金に上乗せせざるをえなくなるのだ。

 つまり未認識債務が大きい会社は財務体質の悪化は避けられないのだ。現時点で未認識債務を抱えている上場企業は1800社。このなかには存亡の瀬戸際に立ちかねない会社もありそうなので、注意が必要だ(『上場1800社を直撃! 新・退職給付会計で落ちる会社』)。

 そして今回の好企画は『超一流企業トップはここを見る 社長・会長が重視する財務諸表』だ。会社の社長・会長は日ごろどのような財務諸表を重視して経営を行なっているのか。業種別売上高トップ5の会社に対し、アンケート調査を行なってその実態を探ったものだ。

 「会社を経営していく上で重視している財務指標は何ですか?」。この質問に対し、1番多かった答えは「営業利益」。営業利益は本業でいくら稼いだかがわかる指標だ。2番目に多かったのはフリーキャッシュフロー、事業を行なって獲得した現金のうち経営者が自由に使い道を決められる現金だ。3位は当期純利益と売上高、5位は有利子負債比率だった。有利子負債比率とは借入金や社債といった有利子負債が返済義務のない株主資本でどのくらいまかなえるかを示す指標のことだ。

 また、企業分析の際、単年度の数字だけでは浮き沈みが把握しにくい。企業のトップは何年分の経営数値を見ているのか。一番多かったのは、全体の40%を占めた6年分以上という答えで、5年分と答えた36%を含めると、大部分の社長は5年分以上を見ていることがわかった。

 さらに、企業トップに「事業拡充などを目的として直接投資を決めるとき」と、それとは正反対の「事業の縮小・撤退を決めるとき」にそれぞれ重視する財務指標は何かという質問をし、その答えを一覧にしている。

 事業拡充を決めるときに最も重視する財務指標は「投資の回収期間」であり、縮小・撤退を決めるときに最も重視する財務指標は「当事業の利益」という結果で、「当事業の累積赤字」は2位だった。「注目の指標 会社のトップはここを見る」では回答のあった57社の社長(会長)の答えを掲載している。掲載企業の関係者、取引先はこの記事を読まざるをえなくなる……売り上げ部数増が期待される好企画だ。
(文=松井克明/CFP)

BusinessJournal編集部

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