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労働基準監督署も「従業員側が耐えてもらいたいというのが本音」…

現役ブラック企業社長が、社員を安くこき使う華麗な手口を暴露!

文=秋山謙一郎/経済ジャーナリスト
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現役ブラック企業社長が、社員を安くこき使う華麗な手口を暴露!の画像1『ブラック会社限界対策委員会』
(パルコ/ヨシタケシンスケ)
 給与、勤務時間、休日など労働条件が労働法に違反している、もしくはその企業が行っている事業そのものがなんらかの法令に違反しているなど、決して他人に入社を勧められない企業のことを「ブラック企業」という。そんなブラック企業の実態に迫ってみた。

入社して、この会社おかしいと思ったなら?

 どのような会社でも、入社前、外からでは、その内情をうかがい知ることはできない。では、もしブラック企業に入社してしまった場合は、どうすればいいのだろうか。できるだけ早く、まっとうな企業に転職するしかないだろう。決して我慢して長く勤めようと考えてはいけない。

 なぜなら、そもそもブラック企業の経営者は、社員の人生を背負っているという発想がないのだ。労働の対価である給与もできるだけ安く抑え、なんだかんだ理由をつけて、踏み倒すことさえ厭わない。

 事実、従業員30名程度を擁するあるIT企業経営者のA氏は、自らをブラック企業経営者と認めたうえで、「従業員は敵だと思っている。いかに安くこき使い。文句を言わせず、上手に辞めさせるかだ」と言い切る。従業員サイドに立ってみれば、こんな企業に長居し、忠誠を誓ったところで人生を空費するだけだ。

 A氏は採用時、労働時間、待遇などに文句を言わず、黙々と働きそうな「使い勝手のいい人材」のみを採用するという。A氏に詳しく話を聞いてみた。

使い勝手のいい人間を採用して、こき使う

ーー「使い勝手のいい人材」の基準というか、見分け方は?

A氏 人の上に立とうとか、そういう野心がない人間。人に使われるしか能のない人間だ。学歴はあまり関係ない。真面目で、人を疑うことを知らず、そこそこ育ちがよくて、素直に人の言うことを聞く、それでいて責任感が強いかどうかだ。

ーー御社における社員の待遇は? 給与や、勤務時間、休日などを教えてください。

A氏 給与は月に13万5000円。残業代はない。勤務時間は一応、朝9時から夕方5時まで。昼休みも1時間ある。しかし社員はみんな、自発的に朝は8時には会社に来ている。夜も自発的に終電に乗れるまでは働いている。泊まり込みも自発的に行ってくれている。月2回は土曜日も出勤。そうしないと仕事が回らないからね。

ーー本当に、それだけの勤務時間を要するほどの仕事があるんですか?

A氏 ない。意図的に「仕事のための仕事」をつくって、長時間働かせているだけだ。

ーーなぜ、そのようなことを?

A氏 長時間働かせ、ピリピリした社内の空気に長く触れさせることで、余計なことを考えさせないようにするためだ。今の言葉でいえば「社畜」というのかな。そうすることが目的だな。

ーーそれにしても、条件面ではかなり厳しいですよ。社員の方は文句を言わないですか?

A氏 文句を言うような人間は採用していない。文句や不満を言わせないよう、社内の雰囲気を日頃からつくっている。また最初にガツンとやっているので、社員から不満だの文句だの出ない。

ーー最初にガツンとやるとは、どういうことをやるのですか?

A氏 仕事でミスがなくても、些細なことで厳しく叱責する。そしてそれをしばらく続け「このような仕事ぶりでは給与は払えない」と言う。「お前はこんなにミスが多いが、それでも給料を払ってやってる」と刷り込む。つまり経営者である私を怖いと思わせることだね。

ーーミスは徹底的に責めるというわけですね?

A氏 ミスに限らない。勤務時間中の私用メールや電話、新聞など読んでいても「私用」としてどやしあげる。これで社員へのにらみは利く。もっとも、褒めるときには褒める。「アメとムチの使い分け」も重要だ。

劣悪な環境に慣れさせて、たまに優しくする

 このIT企業経営者がいう「アメとムチ」は、劣悪な環境、雰囲気に慣れさせ、たまに優しくすることで、社員の喜びをくすぐるというものである。

 例えば、この企業では、労働基準法で定められた休暇の取得すら、一切認めていない。休暇が認められるのは、風邪をひいたなどの病欠時のみだ。この部分がムチである。ただし、たまに仕事量が少なくないとき、1000円程度の昼食をおごる、3000円程度の夕食をおごり、早めに帰す……これがアメだという。A氏は、「日頃から厳しくしている分、たまにある『アメ』の部分で、社員は自分が認められていると思い込む。その心理につけ込むというわけ。これで社員は私の言うことを聞く」という。

 引き続き、話を聞いてみよう。

ーーもし社員が、労働基準監督署にでも告発したら?

A氏 そういうことを考えさせないために、仕事を増やし、拘束時間を長くし、にらみを利かせてプレッシャーをかけている。

社員が定着しないための環境づくり

ーー長くいる社員の方は、やはりその方が定年を迎えるその日まで、大事にされるおつもりですか?

A氏 それはない。年齢が高くなれば、それだけ給料も上げなければならない。長くてもせいぜい5年、できれば3年くらいで出て行ってもらいたい。

ーー誰しも、せっかく就職した会社を3年から5年で退職したいとは思わないでしょう?

A氏 それは居心地がいいところなら、それでもいい。しかしうちは、まだまだそんな居心地のいい会社にできる余裕もなければ、するつもりもない。3年から5年で自発的に辞めてもらう。

ーー皆さん、そのくらいの期間で都合よく辞めてくれるものですか?

A氏 1年目、2年目で、とにかくどやしつける。ただし、少し仕事を覚えてきたら褒める。この頃が一番使い勝手がいい。でも、仕事の振り分けで、うちに長居しても同業他社で通用しそうなスキルなどは絶対に身につけさせないようにしている。それに本人が気づいて、休暇も認めていないので、転職するにはうちを退職するしかないと気づかせるのです。もちろん自発的に退職するときには、盛大な送別会はする。それが退職金代わりになるというわけだ。

ーー古株で、仕事を覚えているような方の場合は、どうやって辞めさせるのですか?

A氏 仕事の面で無視する。使い勝手がよくなると、ある程度権限を与えて、新人の指導もさせているが、些細なきっかけでいいので、新人の前で叱りつけ、それまでの権限を取り上げる。これで普通は辞めていく。

ーー起業家として、そうした経営に思うところはありませんか?

A氏 まったくない。今は一人一人が経営者という時代だ。社会保険料まで、こちらが支払って、その恩恵を受けているのだから、それで十分だろう。嫌なら自分が経営者になればいい。企業経営とは、従業員をいかに効率よく働かせるかだ。もっともそれは社員のためではなく、私の会社のためだ。そこを履き違えてはいけない。

さっさと見切りをつけるにしても……

 これでは、とても企業として発展するとは思えないのだが、ある経営コンサルタントは、こうした経営姿勢について「確かに発展はしない。しかし経営を維持するという面では、あながち間違いではない」という。

 また、こうしたブラック企業、経営者の下で働いた経験のある人は、「少ないながらも貯金ができて、退職し、失業保険で食いつなぎつつ、再就職に向けた活動を行うと、労働基準監督署に告発しようという気もうせた」と話す。

 もしブラック企業に入社してしまった場合、さっさと見切りをつけて退職したほうがよさそうだが、一歩間違えればドツボにハマる可能性があるという。ある労働基準監督官は、次のような本音を漏らす。

「早期退職で、きちんと仕事をしていない……、ゆえに会社に迷惑をかけたなどの理由で給与の支払いを拒んだり、逆に違約金を支払えという企業もある。あまりに労働者側に立った労働基準監督行政を行い、企業を閉鎖、倒産に追い込むと、それはそれで問題となり、我々もそうしたことを嫌う傾向がある。どのような仕事でも、給料をもらえる仕事をしている以上、従業員側が耐えてもらいたいというのが本音」

 いやはやブラック企業に入社してしまうと、泣き寝入りしかなさそうだ。
(文=秋山謙一郎/経済ジャーナリスト)

秋山謙一郎/経済ジャーナリスト

秋山謙一郎/経済ジャーナリスト

1971年兵庫県生まれ。経済ジャーナリスト。『友達以上、不倫未満』『弁護士の格差』(ともに朝日新書)、『ブラック企業経営者の本音』(扶桑社新書)など著書多数。週刊ダイヤモンド、ダイヤモンド・オンライン(ともにダイヤモンド社)、現代ビジネス(講談社)などに寄稿。本サイトは発刊時からの執筆メンバー。創価大学教育学部大学院修了という学歴から宗教問題にも詳しい。

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