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大塚将司「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第1部>」第19回

大手新聞社長、保身のために海外に飛ばした愛人と再燃し同棲生活!?

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 「一度も載ったことないです」
 「本当にそうなの? 電話番号も鵠沼かい?」
 「そうです」
 「それじゃ、緊急の時、どうするんだ?」
 「携帯電話や携帯メールがあります」
 「でも、それは今だろ。10年前は、そういうわけにいかなかったろう?」
 「それはそうですけど、その頃、村尾に緊急連絡する人はいませんでしたよ」
 「ああ、そうか。当時は蚊帳の外だったんだな」
 「そういうことです」
 「でも、携帯やメールがあるとはいっても、それを知らなきゃ連絡できないじゃないの?」
 「側近には住所も含めて教えていますよ」
 「小山さんは、その住所知っているの?」
 「僕も側近ですけど、携帯を知っているので、住所は聞いていませんね。ただ、1月末に、四ツ谷駅に近い高級賃貸マンションに越したらしいです」

●社長就任で都合悪くなった愛人を海外赴任に

 170cm前後、ほとんど同じ背丈の2人は並んで歩きながら、話し続けていたが、北川が歩みの速度を緩めた。立ち止まりはしなかったが、考え込むようにして呟いた。

 「合併したらどうなるのかな。俺のような大都側は、村尾さんに連絡を取るには、小山さんなんかに伝えてもらうしかなくなるのかね……」
 「それはないと思います。北川さんには、ちゃんと連絡先を教えると思いますよ」
 「そうかもしれないが、風通しは悪くなるな……」
 「『3つのN』『2つのS』が生き残るには、そのほうがいい面もあるんじゃないですか?」
 「わからんではないけど、大都だってそこまで秘密主義じゃないぜ。大企業の経営者で、日常的に自分のいる住所を秘密にする人なんて聞いたことないけど、不倫を隠すためか」
 「ええ、奥さんと別居状態になってから、女がいなかったことはないらしいです。以前は社長になるなんて夢にも思っていなかったし、松野さんのように恐妻家でもないですから、不倫相手と2人のところを目撃されたりしたこともあるんです」
 「今は業界でも噂になっている女性記者か」
 「そう、芳岡由利菜という記者です。村尾がロンドン支局次長時代に情実入社させて以来の関係と言われていますが、3年前、ニューヨーク特派員に大抜擢されたんです」
 「あっと驚く人事で、村尾さんが社長になるんで、海外に隔離したんだな」
 「多分、そうですけど、3年経って2月半ばに戻ったんです。その直前に社長は、10年以上住んだ神楽坂のマンションから四ツ谷に引っ越したんです」

 小山が答えたとき、2人は日本橋交差点の手前まで来ていた。

 「おおよそわかったよ。日本橋から地下鉄で戻ろう。でも、厄介だね。これまでは異常なくらいの情報管理と内部監視で秘密が保持できたんだろうけど、これからどうかねえ」

 北川が漏らすと、小山も頷き、2人は東西線日本橋駅C2番の出入口から地下に降りた。

●合併相手企業社長の不倫を探る

 村尾が「美松」のトイレから出てきた時には、北川と小山の2人はすでに外に出ていた。

 「本当に御供はいいんですか?」

 上り框のところで、老女将がコートを抱えて村尾を待っていた。

 「松野さんの定宿のリバーサイドホテルを、ちょっと覗いてみようと思ってね」
 「マーさんが『来週も同じ部屋で頼む』と言っていましたが、いつですか?」
 「多分、月曜日から水曜日の間になると思うけど、先輩から連絡があるはずだよ」

 村尾は靴を履きながら答えた。宴席で松野が一週間後と言ったのは覚えていたが、これまでも松野自身の都合で変更になるのがしばしばで、少し幅を持たせたのだ。

 「左様ですか。料理もその時ですね」
 「うん、そうだろう」

 村尾はコートを羽織ると、硝子戸を開けた。老女将が路地まで出てきたので、村尾は後ろに手を上げて見送りを断り、水天宮通りに向かい歩き始めた。北川と小山の姿はすでになかった。通りに出ると、左に折れた。日本酒を結構飲んだこともあり、吹くビル風が気持ちよかった。ホテルの車寄せが見えてきたところで、腕時計を見た。午後10時前だった。

BusinessJournal編集部

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