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日本版ISA、「貯蓄から投資」に逆行で個人投資冷やす懸念も…使い勝手に疑問の声

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日本版ISA、「貯蓄から投資」に逆行で個人投資冷やす懸念も…使い勝手に疑問の声の画像1東京証券取引所
(「Wikipedia」より)
 2014年1月に導入される少額投資非課税制度(日本版ISA)。この制度は、少額投資の優遇制度で、年100万円までの投資を5年間非課税扱いとすることで、個人投資の後押しを狙いとするものだ。この日本版ISAについて、早くも「銀行勝利、証券敗北」の構図ができつつある。集客力で勝る銀行界にとっては投信の窓口販売(窓販)で優位に立てる一方、証券界にとっては使い勝手が悪い制度になっていることが最大の要因だ。

 日本版ISAは、英国で1999年にスタートした制度(Individual Saving Account=ISA)をもとに設計されている。英国では預金型ISA、株式型ISAがあるが、日本では株式、株式投資信託などが対象で、預金型はない。

 現在、株式投資にかかわる売却益(キャピタルゲイン)、配当収入(インカムゲイン)税率は基本的に10%だが、これが14年から20%に増税になる。これに対応するのが、日本版ISAという位置づけだ。口座の受付は今年10月1日からとなっているが、毎年上限投資額で100万円ずつ、5年間で最大500万円という内容。枠内の投資元本から生じる譲渡益・配当収入は非課税となる。

●使い勝手の悪さ目立つ

 一見、「貯蓄から投資へ」を後押しする制度に見えるが、実は、そうはなりにくい設計となっているのである。

 銀行では来店客に預金から投信への入れ替えという営業をかけやすい。投信は100万円単位で購入できる。もちろん、証券会社でも投信は購入できるが、全投信販売に占める銀行窓販比率はすでに50%を突破しており、劣勢は否めない。ISA用の口座は顧客1人につきひとつしか開設できない。しかも、現状では開設した専用口座は4年間移管できない。いったん銀行に口座が開設されてしまえば、そこで勝負がついてしまう。銀行では貸し出しが伸び悩むなかで、手数料が取れるビジネスは魅力的に映る。

 証券会社サイドとすれば、「最初から500万円枠なら、株式を口座に取り込みやすかった」(準大手証券会社社員)。ところが、金持ち優遇批判を警戒したか、前述のような制度になった。

 株式投資では、毎年100万円刻みでは、枠を使い切ることは事実上困難になる。ちょうど100万円分という株式ポートフォリオ設定は極めて困難だからだ。しかも、100万円の枠で購入したものを売却すると、再投資はできない。「英国のISAは入れ替え自由で、その枠内であればインカムゲイン、キャピタルゲインともに非課税」(英国の運用会社社員)だ。

 投資を促す制度のはずなのに、いったん売却したら再投資できないのであれば、顧客は比較的安全な資産を選択するというバイアスが働きがちになる。「損切りして、銘柄を入れ替えて仕切り直し」という投資行動ができず、安定運用の投信へのニーズが高まりやすい。そもそも、若い年齢層には証券会社へのなじみが薄いというハンデがある。

 また、現在の保有資産を日本版ISA口座に移行できない。保有している株式を専用口座に入れようと考えたら、いったん売却して、新規に専用口座で買い付ける必要がある。証券会社の顧客が日本版ISAを利用する際に、株式を売って、株式の組み入れ比率の低い投信に乗り換えるということも想定される。そうなれば、貯蓄から投資どころか、「投資から貯蓄商品」という期待とは逆行する動きになってしまいかねない。

●なぜか証券業界は歓迎ムード

 ところが証券業界では、日本版ISAに表向き歓迎ムードだ。1月の税制改正大綱の取りまとめを受けて、日本証券業協会では前哲夫会長名で次のようにコメントした。

「特に日本版ISAは、証券投資の新たなインフラとして、中長期に個人の資産形成を支援し、成長分野への資金供給を可能とする大変有意義な制度であり、今回の拡充・簡素化の措置を歓迎するとともに、ご配慮いただいた関係各位に深く感謝申し上げる」

 少なくとも業界団体としては、証券界に使い勝手の良い制度への見直しを提言すべきではなかったか。

 政府は日本版ISAについて、2020年に25兆円の残高を見込んでいる。特に導入前の株式売りが、活況相場に水を差すことにならなければよいのだが。
(文=和島英樹/ラジオNIKKEI記者)

BusinessJournal編集部

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