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松江哲明の経済ドキュメンタリー・サブカル・ウォッチ!【第21夜】

食事風景さえ追わない…ぬるい『情熱大陸』の少女時代ドキュメンタリーでは国家の壁を超えない!

少女時代う〜んべっぴんさんぞろい。(「Wikipedia」より)
ーー『カンブリア宮殿』『ガイアの夜明け』(共にテレビ東京)『情熱大陸』(TBS)などの経済ドキュメンタリー番組を日夜ウォッチし続けている映画監督・松江哲明氏が、ドキュメンタリー作家の視点で裏読みレビュー!

今回の番組:3月24日放送『情熱大陸』(TBS) 少女時代

「政治の軋轢を文化は超え得る」というナレーションに重なる、さいたまスーパーアリーナの風景に期待が高まった。

 会場を埋め尽くす人の群れが凄い。「ハリウッドを超えた」という宣言で攻めて来た映画『シュリ』や、ヨン様ブーム、K-POPの人気もここまで来たか、と確認させられるオープニングカット。そして、このナレーションが意識しているのは最近の韓流ブームに対する反発についてだろう。

 だが、少女時代はこんなにも支持されているのだ、と。

 数々の雑誌記事とテレビ出演、中でも紅白歌合戦の映像がそれを証明している。しかし、色味を落としたコリアンタウン、新大久保の映像に「だが、去年の夏以降、日韓外交は急速に冷え込んだ」とナレーションが続く。「音楽番組への韓国人アーティストの出演機会が減った」とも。

 僕はここである期待を抱く。

 日本のアリーナを満員にする韓国トップアーティストの少女時代を通して、文化が政治とは別の力を持っていることを描いてくれるのではないか、と。画面左上の「日本初! 長期密着素顔と日常」という煽りも効いている。しかし、結論を先に書くと番組はどうにも消化不良のままで終わってしまった。

 30分弱を通して描かれるのはメンバーのダンス練習とライブのリハーサル風景。オフショットと言っても私生活が撮れる訳ではない。打ち合わせ中、あまりに過酷なスケジュールに眠ってしまうメンバーがいれば、キャメラはそっと近寄って「聞こえてきた、小さな寝息」という倒置法がビシッと決まった『情熱大陸』的なナレーション。

『情熱大陸』よ、あまりにやさし過ぎないか。

 以前、この連載で「本番中の役者の視線に入ってキャメラを回すのは失礼だと思う」と書いたこともあるけど、今回は引き過ぎではないのか。というか遠慮してるようにも見える。クリスマスイブに仕事で日本にいて、スタッフが「一年で一番大切な日に日本にいてくれてありがとう」という言葉をかけるけど、僕の印象では韓国はそれほどクリスマスイブに熱心とは思わない。「『(クリスマスは)恋人と過ごす日!』なんて言ってるの、日本人だけだよ」と、外国人の友人に言われたこともある。数年前、ソウルでイブを過ごしたこともあるが、逆に日本の過剰さを知ることが出来た。そんな日にも頑張って仕事をして、先に帰る『情熱大陸』スタッフに対し、全員起立して礼をする少女時代のメンバーというシーンがあるのだが、僕は「え、これを見せ場にしちゃうの」と取材の甘さを思ってしまった。というか取材対象者より先に帰る時点で密着じゃないし。そんなつまらないツッコミをしてしまう程、僕には残念な回だったが、だからこそ見えるモノもある。

 それは少女時代が、日本で受ける取材には日本語で答える、というスタンスをとっていること。彼女たちの多くは、片言ながらも可能な限り日本語で伝えるようにしている。例えば日本ツアーについて聞かれればメンバーの一人であるスヨンは「楽しみですけど。すごく緊張してる。まだステージのフォーメーションとか分からなくて、今から行って、それのリハーサルをするんですけど、覚えるのがプレッシャー」と答えた。僕がこうして文章に起こすと、彼女が流暢に答えたかのように思われてしまうが、実際は句読点の間にどう伝えるべきか悩んでいる“間”がある。彼女たちが、できるだけ正確に、誤解のないように思いを伝えるその姿は、胸に迫るものがあった。

 外国人が日本語を話す時、僕らはどこか微笑ましい気持ちになる。そこに一生懸命さがあるからだろうか。それとも懐かしい気持ちを刺激されるからだろうか。伝えたい、という気持ちを自然な会話や通訳を交えた交流よりも強く感じることは間違いない。ファンもそんな想いを感じて、より応援するのだろう。

 そんなインタビューの後に彼女はスタッフに「ご飯食べましたか」と聞く。スタッフも彼女に同じ問いをすると「ご飯、ここで食べます」と楽屋に入った。僕は過密なスケジュールの中、何を、どんな風に食べるのかが気になるが、キャメラは追わない。食と睡眠は人の無防備な姿を見せてしまう。そういう意味でも撮影に挑んで欲しかった。きっと彼女も、あの雰囲気だったら取材を了解したのではないだろうか。

 番組は冒頭で「政治の軋轢を文化は超え得る」と断言していた。その答えを制作スタッフは少女時代のメンバーの口から語らせようとする。だが「一部では韓国のアーティストの活動が少なかったという意見があるけど」という質問に対し、彼女たちは日本語で真意を伝えることは難しそうだ。これにソヒョンは「私の考えでは、音楽には国とか言葉が違っても問題がない。音楽は心から聞いてること。もっといい音楽を作りたい、聞かせたい」と答える。たどたどしくも、懸命さの伝わる日本語で。

「素直な情熱にも国境がない」とナレーションがフォローするが、それを体現しているのは少女時代のライブだ。番組のファーストカットで十分に証明されている。だからこそ僕は『情熱大陸』の視点をもっと見たかった。取材者が気付かない現実を、膨大な取材結果を通して、時には強引な形で見せてしまう、お得意の方法で。やさしさだけでは真意を伝えるのは難しい。
(文=松江哲明)

BusinessJournal編集部

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