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いいちこ、黒霧島に新勢力…攻防激化する焼酎業界の舞台裏〜地方本格vs.大手混和

いいちこ、黒霧島に新勢力…攻防激化する焼酎業界の舞台裏〜地方本格vs.大手混和の画像1麦焼酎「いいちこ」(「三和酒類HP」より)
「下町のナポレオン」というキャッチコピーで知られる麦焼酎「いいちこ」が、毒物混入事件に見舞われた。醸造元の三和酒類(大分県宇佐市、和田久継社長)は8月16日、「いいちこ」の紙パック商品に「毒を入れた」というはがきが大分県庁に届いたため、商品を自主回収すると発表した。大阪、広島、山口の3府県で流通しているパック詰めの商品が対象。大分県警は威力業務妨害容疑で捜査している。

 はがきは8月15日に大分県食品安全・衛生課に届き、地名を挙げて「商品数本に毒物を入れた」と書かれていた。具体的な地名は捜査に支障があるとして明らかにされていない。回収対象を、はがきに書かれた地域に限定するのは危険と三和酒類は判断して、回収する範囲を府県単位に広げたという。

 回収した商品は「いいちこパック」のアルコール度数25度1.8リットル、同20度1.8リットル、同20度900ミリリットルの3種類。売り上げの約7割を占める主力商品で、40~50万本を回収するとした。

 40万本を回収すると、約5億円の売り上げ金額に相当する。また、新聞各紙への商品回収の告知広告、顧客に対応するための電話回線の設置、酒店など小売り店舗への対応と回収に要する経費(運送費)の合計で、被害は数千万円に膨らむという。全国の居酒屋に必ずあるといっていいほどのブランド焼酎だけに、風評被害が及ぶ恐れもある。

 三和酒類は全国焼酎メーカーの売り上げランキングで9年連続首位に立っていたが、くしくも8月15日に発表された2012年のランキングで、「黒霧島」の霧島酒造に首位を奪われた。

 三和酒類は1958年9月に大分県宇佐市の造り酒屋、熊埜御堂家、和田家、赤松家の3社が「家業から企業へ」を合言葉に設立した企業で、翌年に西家も参加した。4社がそれぞれ酒をつくり、それを共同で瓶詰めする工場の運営会社としてスタートした。現在の資本金10億円は4家の均等出資だ。

 高度成長期に入り、灘の大手酒造メーカーが九州に進出して競争が厳しくなってきたため、三和酒類は清酒以外の新商品に取り組んだ。三和酒類が麦焼酎の開発に踏み切ったのは、ちょうど二階堂酒造(大分県日出町)の「吉四六(きっちょむ)」が評判になり始めた時期と重なる。大分県の先発メーカーで成功を収めた二階堂を超える麦焼酎の生産を目指した。

 後発の三和酒類は、それまでの焼酎の主なユーザーである九州の中高年層ではなく、大都会の若者をターゲットにした。焼酎は臭いがきつく、焼酎を飲むと、次の日の排出物の臭いがきついことから、若者に敬遠されていた。若者に受けるようにマイルドでシンプルな味を追求し、特に香りにこだわった。

 1979年2月、杜氏を使わない新手法により、林檎のような香りがする麦焼酎「下町のナポレオン いいちこ」を発売した。「いいちこ」とは大分県の方言で「いいですよ」という意味である。「売り上げが5億円になったら皆でハワイに行こう」を合言葉に、大都会の飲食店に売り込みを掛けた。寿司店で「これなら寿司の味を壊さない」と言われて自信がついたというエピソードが残っている。

●功を奏したブランド戦略

 三和酒類が力を入れたのが、ブランドイメージ戦略である。83年から新進気鋭のアートディレクター、河北秀也氏を「いいちこ」のプロモーションに起用した。71年に東京藝術大学を卒業し、営団地下鉄のマナーポスターシリーズで一躍有名になった人物だ。たまたま河北氏の実姉が三和酒類で働いていた縁で知り合った。「(三和酒類は)カネは出すが、口は出さない」という条件で引き受けてもらったという。コンセプトは「口コミで飲まれる酒」「年収600万円以上、30~40代の日本経済新聞を読む男性」をターゲットにした。

 話題を集めたのは「いいちこ」のCMだ。大自然の中にポツリとたたずむ人物のように、「いいちこ」が目立たなく置かれているイメージが定着している。「いいちこ」がロングセラーを続ける秘密はイメージ戦略の成功にある。

 右肩上がりの急成長を遂げ、04年7月期には売り上げは587億円、経常利益100億円をあげていた。その後は、第3次焼酎ブームで芋焼酎や大手の甲乙混和麦焼酎の攻勢で減収・減益に転じた。12年7月期の売り上げは503億円と7期ぶりの増収で経常利益は83億円(増益)と持ち直し、ジリ貧に歯止めがかかった。

 今年4月、「いいちこ・フラスコボトル」が米国最大規模のアルコールコンテスト「アルティメット・スピリッツ・チャレンジ2013」で、アジアの伝統的蒸留酒部門の最高賞に選ばれた。受賞を機に「いいちこ」の反転攻勢に出ようとした矢先に“毒物混入事件”が起きた。

●3度のブームを経た焼酎業界の変遷

 芋・麦の焼酎、泡盛。九州・沖縄は「本格(乙類)焼酎」王国だ。

 これまで3回焼酎ブームがあった。第1波は1970年代の芋焼酎ブーム。それまで焼酎は南九州で生産され、地元で消費されるだけのローカルな酒にすぎなかった。薩摩酒造(枕崎市)が芋焼酎「さつま白波」を福岡市場に出したことから「白波ブーム」が起きた。「ロクヨンのお湯割り」というキャッチフレーズとともに広まった。「白波」と雲海酒造(宮崎市)のそば焼酎「雲海」が第1次ブームの主役となった。

 第2波は1980年代前半の麦焼酎ブーム。舞台は東京。主役は大分県産の麦焼酎、二階堂酒造の「吉四六」と三和酒類の「いいちこ」だった。90年代になると三和酒類が業界トップにおどり出た。

 第3次ブームは2003~07年。東京、大阪の大都市圏市場で芋焼酎ブームが起きた。いくつかの銘柄は「幻の焼酎」と呼ばれ、1.8リットル瓶の製品に1本数万円の値段(プレミアム)がつけられようになった。森伊蔵酒造(鹿児島県垂水市)の芋焼酎「森伊蔵」にはニセモノが出回る騒ぎとなった。

BusinessJournal編集部

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