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【日興インサイダー裁判】破綻した検察側ストーリーと、動機や物的証拠なき不可解な判決

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【日興インサイダー裁判】破綻した検察側ストーリーと、動機や物的証拠なき不可解な判決の画像1旧日興コーディアルグループ本社(「Wikipedia」より/Lombroso)
 日興コーディアル証券(現・SMBC日興証券)元執行役員・吉岡宏芳氏が、インサイダー取引に関与したとして、金融商品取引法違反の罪に問われた、いわゆる「日興インサイダー事件」。

 横浜の金融業者・金次成氏が、公表前のTOB(株式公開買い付け)情報を元に株式を売買、総額約3600万円の利益を得たというこの事件では、吉岡氏が金氏に単に情報を伝達しただけでなく、吉岡氏が主体的に株式の購入を主導したというのが、当初の横浜地検の主張だった。吉岡氏が購入を奨めたフォーサイド・ドットコム株で金氏が多額の損失を被るほか、吉岡氏が金氏に依頼した自分の知人への融資が次々焦げ付き、その穴埋めを要求する金氏に未公開情報を提供していた、つまり「主犯=吉岡、共犯=金」というのが横浜地検のストーリーである。

 金氏はこの検察の主張を全面的に認めたが、裁判所が吉岡氏と金氏の共犯を認めず、検察に対し訴因の変更を求める異例の展開になった。このため、検察は「主犯=金、共犯=吉岡」に主張を変更。吉岡氏については補足的に「金氏への教唆」も追加した。

 金氏は全面的に検察の主張を認めていたので、今年3月に懲役2年6カ月、執行猶予4年、罰金300万円、追徴金1億円の判決が言い渡されている。

 一方吉岡氏は、「金氏との間で融資に関するトラブルもなければ、穴埋めを要求されていた事実もない、ゆえに未公開情報を提供する動機もなく、情報提供自体していない」と検察のストーリーを全面的に否認していた。

 だが、9月30日に横浜地裁で言い渡された判決では、吉岡氏と金氏の共犯は否認したものの、情報伝達は事実であると認定したうえで、動機は検察が言う「穴埋め」ではなく、「金氏の追及から逃れるための方便」だとして、「教唆」つまり吉岡氏が金氏をそそのかした、ということは認めた。結果は懲役2年6カ月、執行猶予4年、罰金150万円。罰金や追徴金の額以外は金氏と同じだった。

 この判決を不服とし、10月9日付で控訴した吉岡氏の代理人・佐藤博史弁護士に、今回の事件の真相と裁判の問題点について聞いた。

–10月9日付で控訴された理由はなんでしょうか?

佐藤博史弁護士(以下、佐藤) 本件は執行猶予が付いたからよしとしていい事件ではありません。吉岡氏は情報伝達なんかしていないのですから、無罪であるべきなのです。そもそもこの事件は、検察によってつくられた事件です。昨年6月27日の逮捕当日は、吉岡氏が検察から事情聴取で呼ばれていた日でしたが、朝から自宅がマスコミに囲まれましたし、テレビも新聞も、まるで示し合わせたかのように「日興インサイダー事件」というタイトルで報道しました。つまり検察が事前にメディアに「この日に吉岡を事情聴取で呼んで、そのまま逮捕する」ということだけでなく、吉岡氏の自宅も教え、なおかつこの事件名でリークをしていたということです。最初から吉岡氏が主犯でなければならないという、検察の強い決めつけがあったんですよ。横浜の一金融業者の事件ではなく、3大証券の一角である日興の執行役員の事件にしたかったのです。

–当初検察が主張していた「吉岡主犯説」が途中で崩れ、次に検察が主張した「主犯=金・共犯=吉岡説」も裁判所は認めませんでした。

佐藤 金氏は自らの裁判で、吉岡氏から提供を受けた情報を取捨選択して、自らの判断で売買していたと供述してしまった。この点は検察の調書ではあいまいだったのですが、金氏は被告人質問で裁判官から確認され、自分で取捨選択していたことを認めてしまったのです。検察としては想定外だったでしょう。共犯が成立するためには、両者間に「意思の連絡」と、「正犯性」が存在しなければなりません。

 裁判所は吉岡氏が金氏に情報を提供していたという検察の主張は認めましたが、「正犯性」、つまりその情報が重要な役割を果たしたかどうかについては、情報の精度も低いし、金氏自身が自分の判断で情報を取捨選択していたと証言しているのですから、認めていません。

–しかし、情報伝達なんかしていない、つまり無実だという主張は受け入れられませんでした。原因はなんでしょうか?

佐藤 金氏の証言は信用できて、吉岡氏の証言は信用できない、という判断なのですが、最大の原因は、検察が描いたストーリー通りの金氏の調書が、裁判官の頭の中に入ってしまっていたということでしょう。吉岡氏の裁判でも、検察側は検察が描いたストーリー通りの金氏の調書を最初は証拠として出していたのですが、のちにすべて撤回しています。こちらはあんな内容は検察のつくり話だと思っていますし、実際法廷での金氏の証言ともかなり食い違う。しかし、金氏の裁判を担当した裁判官と、吉岡氏の裁判を担当した裁判官はまったく同じ顔ぶれです。吉岡氏の裁判では証拠として考えてはいけないものも、結局裁判官の頭の中には残ったままだったのです。

–「裁判官の頭の中に残ってしまったもの」とは具体的には?

佐藤 動機のところです。吉岡氏は「フォーサイド株は買うな」と言ったのに金氏が買ってしまったということを、随分あとになって金氏の知人から聞いているわけです。フォーサイド株で損が出たことで、金氏から文句なんか言われてないのです。金氏に融資を依頼したこともない、よって金氏との間でトラブルなんかなかったと言っています。だから検察官側も動機の立証はしたかったので、吉岡氏の紹介で金氏からお金を借りたという人物を何人か証人として呼ぼうとしたんです。でもその必要はない、と裁判官は判断して検察に立証させなかったんです。

–ということは、裁判所は動機については審理をしないで判断したと。

BusinessJournal編集部

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