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経団連新会長“異例”人事の舞台裏と、新体制の課題~経団連の地盤沈下に拍車の懸念も

文=編集部
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経団連新会長“異例”人事の舞台裏と、新体制の課題~経団連の地盤沈下に拍車の懸念もの画像1経団連会館(左/「Wikipedia」より/Jo)
 1月9日、経団連は6月で退任する米倉弘昌会長の後任に、東レの榊原定征会長を起用する人事を固めた。榊原氏はすでに就任要請を受諾済みであり、14日の正副会長会議で内定し、6月の総会で2期4年の任期を満了する米倉氏の後任会長に就任する。

 今回、異例ともいえる経団連副会長OBの会長への起用がほぼ決まったが、決定直前、実は米倉会長は窮地に陥っていた。1月8日、最有力の後継候補だった川村隆・日立製作所会長の線が消えてしまったからだ。

 日立はCEO(最高経営責任者)、COO(最高執行役責任者)を新設、4月1日付で中西宏明社長が会長兼CEOに就任し、川村氏は3月31日付で会長を退任。6月の株主総会で取締役も外れ相談役になる。経団連会長に就任する条件として、「現役の会長・社長」という不文律があるため、川村氏の会長就任という可能性は消えた。加えて川村氏は、「日立にとって経済界や対政府の活動は大切だ。活動の多くは新会長にお願いする。私が相談役になる頃には経団連副会長の任期を終了するので、経団連の活動を終える」と明言した。

「ポスト米倉」の有力候補が次々と消えていくという異常事態が続いた。川村氏の会長退任発表が年始早々に行われたのは、財界関係者の思惑をはっきりと打ち消す意味合いがあったのかもしれない。

 同様の動きはちょうど1年前にも見られた。昨年1月、坂根正弘・コマツ会長(当時)が4月1日付で取締役相談役に退き、6月下旬の株主総会で取締役も退任し、相談役・特別顧問になることが発表された。坂根氏は大胆な構造改革でコマツを世界第2位の建設機械メーカーに育て、安倍晋三政権で成長戦略づくりを担う産業競争力会議の民間議員としても存在感を高め、有力な経団連会長候補だった。「コマツという会社の規模から(経団連会長)はあり得ない。交代は既定の路線です」と当時、コマツ関係者は語っていたが、「経団連の人事競争に巻き込まれるのを避けるために(坂根氏は)会長を辞任した」という見方も強かった。

 一連の経緯ではっきりしてきたことは、「経団連の会長がそんなに魅力のあるポストではなくなった」(経団連の元副会長)ということだ。

影落とした東芝のトップ人事

 米倉会長から奥田碩氏など経団連会長経験者への相談は、昨年中はなかったといわれる。経団連には、旧・経団連または日経連(02年に旧・経団連が日経連を統合して、現在の経団連が発足)の会長を務めた名誉会長が5人いる。豊田章一郎氏、今井敬氏、根本二郎氏、奥田碩氏、御手洗冨士夫氏の5人だ。米倉会長はこの5人に次期会長を誰にするかを伝えることになっている。

 経団連内部では「米倉会長の意中の人物は、佐々木則夫・東芝副会長」という見方が強かった。安倍晋三首相周辺で佐々木氏の評価が上がっていることも見逃せない。佐々木氏は民間議員として、政府の経済財政諮問会議で法人税関連などさまざまのアイデアを出しているからだ。

 佐々木就任に影を落としていたのは、昨年春に起こった東芝社内におけるトップ人事をめぐる混乱だ。西田厚聰会長は当時「来年、(自分が辞めて)佐々木を会長にすることはない」と周囲に漏らしていたが、佐々木氏が副会長のままで経団連会長になれるのかどうか、疑問を呈する向きもあった。だが、昨年秋に日商会頭を退いた東芝の岡村正相談役が米倉会長への仲介役を務め、佐々木氏を経団連会長に内定してしまえば、西田氏も佐々木氏を切れなくなり、佐々木氏が東芝会長に昇格する可能性もあった。佐々木氏は64歳と若いことも魅力だ。

 そのほかに、米倉氏が副会長の中で評価しているといわれていたのが三菱重工業の大宮英明会長だ。しかし、三菱重工幹部は「うちは(経団連会長を)やらない」と早くから明言していて、大宮氏本人も受ける気はない。三菱重工は三菱グループ御三家の1社だが、「軍需関連事業を手掛ける企業出身者でいいのか」と懸念する声があることを同社は気にしているためだ。

 昨年副会長に就任した新日鐵住金の友野宏社長も候補者として名前が挙がっていたが、同社OBの三村明夫相談役が昨年11月に日本商工会議所の会頭に就任したばかりであり、同一企業の出身者が経済3団体のトップに同時に就くことは好ましくないとする暗黙のルールがある。三菱商事の小島順彦会長も経団連会長就任に意欲を示していたが、米倉会長は「(次期会長は)メーカーの中から」と示唆していた。

異例の人事が内定

 そんな中、冒頭のとおり1月9日、ついに経団連は米倉会長の後任に、東レの榊原会長を起用する人事を固めた。

 06~10年に経団連会長を務めた御手洗冨士夫・キヤノン会長兼社長は、会長退任に当たり後継に当時経団連副会長だった東芝の西田厚聰会長を考えていたが、日本商工会議所会頭の岡村正氏も東芝出身であったため、前出の暗黙のルールにより起用を断念した。そして御手洗氏は、次善の策として住友化学の米倉弘昌会長を選んだ。

 だが、この頃から経団連の影響力は急激に低下し始め、「財界総理」という言葉も過去のものとなった。

 1986~90年に経団連会長を務めた斎藤英四郎氏は、マージャン仲間を副会長に起用して“お友達”経団連と揶揄されたが、米倉会長も直言する副会長を毛嫌いして遠ざける傾向が強かった。そのため、副会長との意思疎通がうまくいっていないことが露呈する場面も多々あった。経団連と安倍首相との関係が悪化したのも米倉会長の不規則発言が原因で、副会長の一人が官邸に釈明に出向くこともあった。

 東レの企業規模は連結売り上げ1兆6000億円だが、御手洗会長時代は3兆7500億円(13年12月決算の見通し)のキヤノンでさえ経団連にスタッフを出すのに苦労した。

 榊原氏には、新体制をサポートするスタッフをどうするのか、来年に迫る副会長人事をどうするのかなど、課題は山積している。早くも財界内には、次善の候補者が会長に就任することで、経団連の影響力がますます低下するのではないかという懸念も広がっている。
(文=編集部)

BusinessJournal編集部

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