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江川紹子の「事件ウオッチ」第10回

PC遠隔操作・片山被告“”精神鑑定不実施”のデメリット 「平気で嘘がつける」彼の心の闇を知るべきだ

文=江川紹子/ジャーナリスト
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PC遠隔操作・片山被告“”精神鑑定不実施”のデメリット 「平気で嘘がつける」彼の心の闇を知るべきだの画像1佐藤弁護士(写真右)をはじめ、無実を信じた弁護団をもだましてきた片山被告(写真左)は「自分は平気で嘘がつけてしまう」「無実を訴える記者会見で、『犯人はサイコパス』と言ったが、それは自分自身のこと」と語っていたが……。

 PC遠隔操作事件で、片山祐輔被告の弁護人は、「なぜ事件を起こしたのかを解明するためには、被告人の心の闇に光を当てる必要がある」として、精神鑑定を求めていたが、東京地裁(大野勝則裁判長)はこれを認めないことを決めた。

●不可解な犯行動機、乏しい感情表現

 片山被告は、昨年2月に逮捕されて以来否認を続けてきたが、保釈後の今年5月にマスコミ関係者に送られた「真犯人からのメール」が片山被告の自作自演であることが発覚。再収監されて以降は、一転して全面的に犯行を認めるようになった。

 それまで弁護人は彼の無実を信じ、昨年正月に江の島の猫に首輪がつけられた状況をできるだけ忠実に再現しようと、今年の正月は休み返上で実地検証を行うなど、積極的かつ献身的な弁護活動を展開してきた。そんな弁護団をもだましてきたことについて、片山被告は「自分は平気で嘘がつけてしまう。無実を訴える記者会見で、『犯人はサイコパス』と言ったが、それは自分自身のこと」と述べた。

 そのような状況から、弁護側は「心の闇」の解明を目的として、精神鑑定を求めた。通常、刑事事件で精神鑑定が行われるのは、被告人の責任能力を問題にする場合。主に精神科医が行う。だが、今回、弁護人が求めていたのは、責任能力の有無ではなく、事件を起こすに至った被告人の心の状況を分析することで、情状面の判断に役立てるための、臨床心理士による鑑定だった。

 私が彼のインタビューをしたり、記者会見などの様子を見ていても、感情表現がとても希薄なのが気になった。また、彼が偽装した「真犯人からのメール」を最初に彼に見せた時、その顔は次第に紅潮して、本当に驚いているように見えた。無実の人を装う演技だとしても、それがごく自然にできてしまう彼の心は、いまだによく見えない。

 彼は子どもの頃から、対人コミュニケーションがうまくいかず、同級生からいじめにあい、教師からも「お前は何を考えているか分からない」と突き放された、とのこと。彼自身も「どういう時に、どんな表情をしていいのか分からなかった」そうだ。大学時代も、ずっと孤立していた。授業でグループ研究の課題が出ても、一緒に組む相手がなく、課題ができず、そういうことが続いて退学してしまった、という。

 裁判でも、自らに不利なことも含めて率直に語るようになった片山被告は、事件を起こした理由を「騒ぎを起こすため」と認めた。「被害が出るところを想像して楽しんでいた。自分が異常者だと思うのは、そういうところ」とも述べている。その一方で、当時の自分について、仕事で仲良くなった友達もあり、居合い道場に通ったり、ドライブやバイクのツーリングをしたりするなど、実生活は以前に比べて充実していた、という。「リアルで充実した趣味でストレスは解消できたのに、同じ時期にこういう事件を起こしてしまったのは、自分でもよく分からない」と語った。

 彼には同種の前科があり、刑務所体験もある。それにもかかわらず、今回の犯行は「捕まらない」という妙な自信があった。手の込んだ仕掛けをする一方、江ノ島の猫に首輪をつける際には、防犯カメラに対する警戒心がまったく欠落するなど、周到な犯罪者というには、あまりにお粗末な面もある。

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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