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井上久男『「内なる敵」に沈む朝日新聞』(9月20日)

朝日誤報騒動の元凶・木村社長の責任逃れと保身 社内派閥抗争と出世主義の末路

文=井上久男/ジャーナリスト
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 特に主要出稿部といわれる、東京の政治部、経済部、社会部で部長になると、役員に昇格できるチャンスが格段に高まる。各部では誰が部長になるかをめぐり、部内派閥抗争のようなことが勃発する。そして、部長同士は役員の座をかけて互いにけん制する。

 例えば、筆者の経験でいうと、経済ニュースで読売新聞に大きく抜かれると、社内会議で政治部長が経済部長に対して「こんな大問題を読売にやられるなんて、政治部から記者を出してお手伝いしましょうか」と言ったりする。これは社内に対して、経済部長の管理が甘いといったことを指摘している嫌味的な意味がある。こうしてみんなが足を引っ張り合っているのである。さらに役員になれば、出身部署の「利権代表」のような存在となって、「子分」が多くぶら下がり、将来の出向先ポストの配分獲得競争にも勝たなければならない。会社全体の「利益」など全体最適はそっちのけだ。

●読者不在の反省なき権力闘争

 こうした朝日の企業風土を踏まえて、一連の従軍慰安婦検証報道と、それに関するジャーナリスト・池上彰氏コラム掲載見合わせ問題、「吉田調書」謝罪問題をみていくと、社内に権謀術数が渦巻いていることが筆者には手に取るようにわかるし、実際にも読者不在の反省なき権力闘争が起きている。

 中でも、東電社員の命令違反がなかったと謝罪して記事を取り消した「吉田調書」報道問題は、その朝日の風土を顕著に表している。5月20日に第一報を報じ、その後、デジタル版で連載が始まったが、社内では木村伊量社長が最も喜んでいて、「新入社員の募集要項で、取材班の記者を紹介しろ」とまで言ったとされる。にもかかわらず木村社長が9月11日、「吉田調書」報道に関してあっさり謝罪したことは、なんとも不可解だ。加えて、従軍慰安婦検証報道で過去の誤報を認めながら謝罪から逃げていたうえ、朝日の姿勢を批判した池上氏のコラム掲載見合わせ問題でも謝らなかったことのほうが世間やコア読者層から批判を受けていたにもかかわらず、「吉田調書」報道の誤りを強調するかのように謝罪した。

 その理由は、従軍慰安婦検証報道と池上氏コラム問題は、木村社長の意思決定によって対応がなされた問題であり、木村社長の責任は100%免れないが、「吉田調書」報道は現場に任せていたとの自分勝手なロジックが成り立つからである。「吉田調書」報道でお詫びして、自分が犯したミスの大きさを相対的に低くしようとしたともいえる。そして、その責任を取って解職されたのは、政治部出身の木村社長にとっては「子分」ではない、経済部出身の編集担当取締役である杉浦信之氏だ。

 最後はトカゲのしっぽ切りで幕引きを図ろうとする朝日の体質が、図らずとも露呈した格好となった。
(文=井上久男/ジャーナリスト)

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