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スポーツライター小宮良之の「フットボールビジネス・インサイドリポート」第2回

限られた人材だけで強豪チームを作るクラブマネジメント術

文=小宮良之/スポーツライター
post_428.jpg復活の兆しを見せる古豪。それにしてもいいヒゲ(笑)。「wikipedia」より

 ピーター・ドラッカーの著書『マネジメント』における名言、「人は資産」を地でいくように、欧州サッカー界にも、人を柱にしたチームマネジメントで成功しているクラブがある。

「私たちは自分たちの育成に自信を持っています。守ってきた伝統が力になっているのですよ」

 アスレティック・ビルバオの強化部長ホセ・マリア・アモロルトゥはチームの在り方を淡々と説明していた。

 ビルバオはスペインの北、バスク地方にあるクラブだ。創立100年間余の歴史の中、バスク純血主義を保ち、1部リーグに在籍し続けてきた(2部に落ちたことのないクラブは、ほかにFCバルセロナとレアル・マドリーしかない)。260万人と言われるバスク人の力を結集し、若い選手たちを精鋭に育て、精強なチームを作り上げてきたのだ。

 その育成組織は、「レサマ」と呼ばれる。

 レサマは過去40年、優れた選手を輩出してきた。バスク自治州のビスカヤ県を中心に約150のバスク地方クラブと提携し、11〜18歳まで能力の高い選手を毎週のように各地から選抜。競争させ、脱落した者は元のクラブに戻し、さらに選抜する。スカウトの給料、選手養育費、クラブへの提携料など育成費は年間約10億円、チーム予算の約17%だ。多くのクラブが育成費はチーム予算の6〜7%だけに、力の入れようが分かるだろう。

 そして2011−12シーズン、ビルバオはその若き精鋭部隊が、ビッグクラブの鼻を明かしている。資金面でいえば、10倍近い年間予算のマンチェスター・Uを打ち負かし、同じくFCバルセロナとも引き分けるなど激戦を演じた。

「世界中からビルバオを視察にクラブ関係者がやってきます。我々は何も隠すことはありませんから、お見せしていますよ。ただ、一朝一夕に真似することはできないでしょう。なぜなら我々は人を育て続けてきて、その積み重ねが血と骨と肉になっているから。コーチやスタッフの多くは、ここで育った者たちですし」

 アモロルトゥはそう語っていたが、まさに人がチームの資源になっている。ビルバオの選手は元来、大柄で肉体的に強く、ファイターという印象だが、それも受け継がれた闘争精神があってこそだ。チームとして一体になることで、彼らは強大な存在にも抗える。

「バスク人だけで戦うためには、バスク地方のクラブに所属している優れた才能を見極め、発掘し、レサマで育てる。その流れを絶やさないこと。それしか生き残る術はありません」

 そう証言したのは、60年代のビルバオを支えた名GKで、現在はクラブの顧問を務めるホセ・アンヘル・イリバルだ。

「我々のポリシーはハンディとも言えますが、限られた人材だからこそ大切にしますし、将来的にも変えるつもりはありません。このポリシーのおかげで、レサマの少年たちの士気は高く、”自分たちも先輩の後に続く”と常に挑戦に溢れていますから」

 バスク純血主義。そう一つの限定をしたことで、選手たちは自らのアイデンティティーを見出し、ピッチで100%以上の力が出せた。持たざる者たちの逆転の発想だった。他クラブの選手は、「ビルバオのように自分のことを信頼してくれたら、もっとできるのに」と悔しがる。ビルバオでは、人がクラブを強くしているのは歴然。彼らはマネーパワーに縋る必要などない。

「誇りを持てる戦いがしたいんだよ」

 ビルバオファンは口々に言う。本拠地サン・マメス・スタジアムは老朽化して設備もオンボロだ。しかし、長年ファンに親しまれてきた味わいがある。そして地鳴りのように響く歓声。人を柱にしたクラブは、まさにそれを愛する人々に支えられている。

 正々堂々と戦う彼らの姿には、浪漫がある。フットボール本来の良心が胸に響くのだろうか。たとえ敗れようとも、受け継がれし志は敗れない。
(文=小宮良之/スポーツライター)

小宮良之

小宮良之

1972年、横浜市生まれ。大学卒業後、スペインのバルセロナに渡り、語学力を駆使してスポーツライターとして活動。EURO、冬季五輪、W杯などを取材後、2006年から日本に拠点を移し、人物ルポ中心の執筆活動を展開する。『アンチ・ドロップアウト』『フットボール・ラブ』(共に集英社)、『名将への挑戦状』(東邦出版)、『ロスタイムに奇跡を』『導かれし者』(共に角川文庫)、『ザックJAPANはスペインを倒せるか?』(白夜書房)など著書多数。最新刊は海外移籍した日本人の戦いを検証した『サッカー「海外組」の値打ち』(中公新書ラクレ)。

Twitter:@estadi14

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