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「ダイヤモンド」vs「東洋経済」! 経済誌双璧比べ読み(7月第4週)

円をアメリカに流す!? アフラックの経営姿勢にかみついたダイヤモンド

post_460.jpg(右)「週刊ダイヤモンド 7/28号」
(左)「週刊東洋経済 7/28号
月収15万円の「農業で稼ぐ」ことができるか!?

「週刊東洋経済 7/28号」の大特集は『農業で稼ぐ! 高齢化、TPPどんと来い』。現在、日本の農業は八方ふさがりだ。農業従事者人口は20年前の半分で、しかも65歳以上の高齢者が6割以上。耕地面積は4分の3に大幅減となっている。その結果、農業総産出額は1985年のピークの12兆円から現在8兆円と右肩下がりだ。

 そこにダメを押すのが、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)だ。これまで、日本が結んだFTA(自由貿易協定)では農産物について多くの例外を認めてきた。しかし、TPPではほぼ全品目について例外なき関税撤廃が原則になる。

 農業が生き残る道はどこにあるのか? そのキーワードは「海外」と「川下」だ。「海外」とは、安全でおいしい食べ物を作ることができる技術を武器に海外展開することだ。

 たとえば、千葉県の花苗・野菜苗業者は07年から中国・山東省に農場を構え、中国や韓国での家庭用苗の販売に乗り出している。

 愛知県の業者が特許を持つ水耕栽培技術を使って山東省の農家が生産する無農薬レタスは、通常の10倍近い価格にもかかわらず、中国の富裕層にも人気だ。11年からは、タイでビール会社のシンハー社などとコシヒカリの栽培も行なっている。

 また海外展開し、農業界のイノベーターとして知られる千葉県の農業法人は、香港に出店した外食チェーンを中心に売り上げを伸ばしている。

 つまり、農業先進国の日本が「食の安全」というブランドで、アジアの農業をリードしようということだ。ただし、問題は中国のように人件費が高騰し始めるリスクや、農業は初期投資額が大きいので、トレンドを見誤ると、ゼロどころかマイナスからのスタートになりかねない……とリスクが山積みなのだ。

 また今回の特集では「稼ぐ」と銘打たれながら取り上げられていない点が残念なのだが、現在の収益はどれくらいか? ということや、為替レート変動リスクもありそうだ。

 つまり、素晴らしい海外でのビジネスモデルは紹介されているのだが、計画段階のものが多く、売上高があいまいなのだ。また、その売上高を円高の日本で「円」建てにした場合にどれだけのリターンになるのか、といった為替変動リスクにもさらされているのだ。

 次に「川下」とは、流通の川下である最終消費者を見ると、農業段階では8兆円だった売り上げが、飲食段階の最終消費額は73.6兆円と9倍にも及んでおり、この間の加工や流通で生み出される付加価値を生産者が取り込むことで、より多くの利益を上げようというものだ。

 そのためのパターンは3つ。 ①大口の注文を獲得できる小売りと組む(例・JA富里<千葉県>の、イトーヨーカドーのプライベートブランドとの取り組み)。 ②直売所を活用する(例・茨城県つくば市の農産物直売所「みずほの村市場」)。 ③ネットや宅配で販売する(例・ネット通販大手の「楽天マート」)。

 ただし、いずれの場合も現状で成功するためには他の商品との差別化、「ブランド」化が重要になってくる、ということのようだ。えっ? でもこれって、この20年間日本の農業が悩んでいる基本的な問題なのではないだろうか。農家がこの特集を読んだならば、その先を教えてくれよ、といいたいだろう。

 象徴的なのは、AV制作会社「ソフト・オン・デマンド」の創業者・筆頭株主にして、現在農業の世界に進出している高橋がなり氏へのインタビューだ。高橋氏が農業の世界に足を踏み入れて6年。自ら立ち上げた国立ファームを基点に、生産事業からレストラン「農家の台所」の多店舗展開まで行い、グループで100人近い社員を抱えているという。

 高橋氏の目に見えてきたのは――生産規模の拡大や効率化だけでは日本の農業は救われない。コストを下げても、人と同じものを作っていては流通段階で買い叩かれるだけ、大事なのは、人と違うものを作って消費者に支持されること――だという。現在は、コメの場合は、ブランド形成が進んでいるが、野菜のブランド形成はまだまだこれからだと、野菜農家のブランド化に邁進中で、有力農家が作った野菜の高級スーパー向け卸事業を手掛けている。このために、野菜の有力農家を全国行脚しているという。一連の事業にすでに15億円近いカネをつぎ込んだ高橋氏は「SOD株をすべて売れば100億円くらいになる。全財産がなくなるまで続ける」という。

 なお、今号の表紙の農地に立つ笑顔の女子6人は、高橋氏がオーナーの山形県村山市の山形ガールズ農場の面々だ。合言葉は「女子から始める農業改革」だが、現在のビジネスは貸し農園といった程度で、ほぼ話題先行型のビジネス。彼女たちのインタビューは1コメントしか紹介されていないので、特集タイトルのように「稼げているかどうか」はわからない。山形ガールズ農場のホームページを見ると、「月給は14万円~」だそうだ。

 今回の特集には『失敗しない就農ガイド』なる記事もあるが、農業法人の求人は月給15万円程度。新規就農者の7割が、農業だけでは生活できていない現実を紹介している。今回の特集タイトル『農業で稼ぐ!』とは裏腹に、あまりにもリスクが山積みで、今回の正しい特集タイトルは、『農業で稼ぎたい!』とすべきではないだろうか。

 業界ナンバーワンのアフラックの経営姿勢を鋭く批判する!

「週刊ダイヤモンド 7/28号」の大特集は『不眠・不安・疲労 全対策 職場と家庭のうつ』だ。心の病に至る罠は、そこらじゅうに広がっている。勤務する会社に合併や買収、リストラといった大きな変化が起きたとき、入社や異動、転勤、昇進、定年といったそれぞれの環境変化も心の病に陥る原因になってくる。

 うつ病などの気分障害、パニック障害などの不安障害、不眠症などの睡眠障害、薬物依存症など……さまざまな心の病があるが、こうした病気には「隠れ疲労」「隠れ不眠」「仮面うつ病」といった本人が自覚しないまま症状が悪化してしまう危険があるので注意したい。なお、ライバル誌「週刊東洋経済」は6/16号で『人ごとではないうつ・不眠 ~予防・治療法&つきあい方』という大特集を組んでいるので、どちらかを読めばほぼ全容は理解できる。

 今回の「週刊ダイヤモンド」で必読なのは、冒頭のニュース記事「ニュース&アナリシス」の「アフラックの“欺瞞”にメス 金融庁が前代未聞の長期検査」という記事だ。白いアヒルや招き猫ダックのCMでおなじみの外資系生命保険会社アフラック。日本で初めてがん保険を発売し、業界ナンバーワンの保有契約件数2100万件を誇っている。このアフラックに対し、異例ずくめの金融庁検査が行われた。保険金支払い体制のずさんさや、過度な営業姿勢、不透明な保険料の運用など、懸念材料が山積みだというのだ。

 生命保険会社への金融庁検査の場合、おおむね3年周期で期間も2〜3カ月程度が通例だが、今回は前回の検査から2年半しかたっていないのに検査が始まり、5カ月を超える検査は7月18日に終わった。

 今回の検査チームのヘッドは、かつて保険料不払い問題で明治安田生命保険を業務停止に追い込んだ“検査の鬼”。アフラックは契約者から保険金が少ないとクレームを受けて判明した支払い漏れの件数が246件と、他社の10倍近いことが判明していたのだ。

 また、新契約の獲得には熱心で、電話で保険の勧誘を行うテレマーケティングを多用。業界内で筋が悪いと悪名高い専門業者を使って、営業をかけまくっている。こうしたアフラックの経営姿勢を「保険金支払いの体制整備にカネをかけるより、新契約の獲得に重きを置く“収益至上主義”」と、ダイヤモンド誌は気持ちよいくらいに斬って捨てている。

 さらに、同誌は追及の手を緩めない。実はアフラックの経営姿勢を決めているのは、米国本社で、日本支店には意思決定の権限がないのだ。にもかかわらず、売り上げの7割以上が日本によるもので、日本支店の税引き後利益の約70%、多い年は100%を米国本社に送金しているという。つまり、アフラックは、日本でぼろ儲けして米国で利益を還流させているシステムということになる。

 また、最大の懸念材料は、日本の契約者が支払った保険料の投資先である。米国本社の指示による投資先は債券で、欧州債務危機で信用不安に陥っている財政悪化国への投融資残高は4440億円(12年3月末)と、他の生保と比べて突出して高い(たとえば、その次に高い日本生命の投融資残高は2967億円だ)。また、今やジャンク債(投資不適格級)と化した債券への投資残高も目立っている。これらの運用は米国本社の指示によるもので、金融庁も問題視。今回の検査でも、日本の経営陣は金融庁に対し明確に回答をすることができなかったという。  

 ダイヤモンド誌も質問状を送ったが、日本支店は回答を拒否した。記事では「今まさに襟を正すことが求められている」と文章を締めくくっている。通常、広告がらみで奥歯にモノが挟まった記事が多い経済誌では際立つ好記事だ。記事を取材し掲載した編集スタッフに敬意を表したい。次号以降も取り上げてほしい記事だ。

 くれぐれも次号の広告に、白いアヒルや招き猫ダックが大々的に登場しないことを祈るばかりだ。
(文=松井克明/CFP)

BusinessJournal編集部

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