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松江哲明の経済ドキュメンタリー・サブカル・ウォッチ!【第40夜】

銀座三ツ星店は、なぜパリに“本物の和食”を持ち込めなかった?欧州和食ブームの裏側

銀座三ツ星店は、なぜパリに“本物の和食”を持ち込めなかった?欧州和食ブームの裏側の画像1ガイアの夜明け』公式サイト(「テレビ東京 HP」より)
 ドキュメンタリー番組を日々ウォッチし続けている映画監督・松江哲明氏が、ドキュメンタリー作家の視点で“裏読み”レビューします。
【今回の番組】
 10月15日放送『ガイアの夜明け~“本物の日本食”を世界へ』(テレビ東京系)

 この日の『ガイアの夜明け』は、外国人の面白い顔が満載の回だった。

 「ちょっとそれ、つけすぎだって」と言いたくなるほどのわさびを寿司につけて口に入れ、最初は「んー(おいしい)」なんて表情をしていたものの、例の“ツーン”が鼻にきて、つらそうな表情になっていたり、寿司にしょうゆをべったりつけて一口で頬張ったり、箸で突き刺したり。いくら日本食がブームとはいえ、食べ方においてはまだまだ未熟のようだ。

 確かにヨーロッパでも和食の店は多い。僕が行くような安い店は、アジア系の店員で、中華料理も韓国料理も提供していて、「とにかく米が食べたい」という時にしか入りたくないが、最近はずいぶんと変わったようだ。

パリに本物の日本食の店を

 今回の放送では、東京・銀座のミシュラン三ツ星和食店「小十(こじゅう)」の店主・奥田透さんの奮闘記が描かれていた。パリに店を出すために彼は、仲間を引き連れて万全の開店に挑む。日本中から陶器を集め、大工には自分たちが使用しやすい厨房の製作を依頼する。これも「本物の店」を出店するためだ。

 「パリは文化も美食も水準が高い」と憧れを隠さない。だが、工事は現地の業者が休暇を長めに取ったために遅れ、肝心の食材もイマイチ。そもそもフランスでは、日本のような刺身を食べないため、鮮度が悪い。奥田さんたちが求めるような質の白身魚は、そう簡単に手に入らないのだ。フランス語の通訳を交えて交渉をしているが、大丈夫なのだろうかと心配になる。いや、それよりも現地の言葉を話せずに出店を決めるのもすごいな、と逆に感心してしまった。

 パリで店を出している友人の料理人も見学に来るが、彼は「トリュフは?」と尋ねる。「自分の中では禁じ手。トリュフをかければ、なんでも美味しくなる。トリュフ、フォアグラ、キャビアの3つは禁じ手。だって日本では使ってないんだから」と答える奥田さん。あくまで日本の味で勝負をしたいのだ、という決意を感じた。

 奥田さんは、コース料理を日本と変わらない200ユーロ(約2万6000円)と、かなり高額な設定をしているが、「安いか高いかわからないけど、高額な料理はおいしくて当たり前」という強気なコメントをしている。しかし、それ以前に工事の件、食材の件と、「調査不足では」と思わず心配になってしまった。

西洋わさびが席巻する欧米に、日本の本わさびを売り込む

 一方、欧米ではわさびがブームらしい。ドイツのフランクフルトを歩く2人の日本人。彼らは名古屋の老舗わさびメーカー・金印の社員だ。彼らは販売ルートの拡大を狙って飛び込み営業に来ている。まずはわさびをすりおろして味を見てもらう。次に独自に開発した製法で香りと風味を封じ込めたわさびを食べてもらう。本わさびと変わらない自社製品の良さを確かめてもらうのだ。飛び込んだ店では、粉わさびを使用していたのだが、その差は歴然。マレーシア人店主も、従業員も集まり、圧倒されている。だが、彼らはさらに驚くことになる。値段は1キロ1000円。即座に「そりゃ無理」という表情に変わる。それもそのはず、普段使用しているわさびの約10倍の値段なのだから。

 「このわさびを使うと寿司が高くなって、周囲の店に負けてしまう」と言われて、店をあとにする日本人営業マン。だが、こんなことではあきらめない。高級人気日本料理店でも同じ営業をすると、店主は味に惚れ込み、交渉は成立。ケルンで開かれたヨーロッパ最大級の世界食品見本市でも人気を博し、金印の欧米進出は成功の兆しが見える。

 奥田さんのレストランは、オープンの際にフランス政財界の日本通を呼んでいた。一同、味も器も大絶賛。「アートとして、目でも楽しめる」と喜んでいる。「あんな準備不足だったのに、凄いぞ奥田さん」と感心していたが、盛り付けをする奥田さんの様子を見て驚いた。なんと刺身にキャビアを乗せていたのだ。

 「つい一週間前まで、禁じ手って言っていたのに」とテレビに対してツッコミを入れてしまったが、奥田さんは「白身のクオリティーに納得できなかった。まずは、お客さんに喜んでもらわないと、次につながらない」とコメントしている。

 タイトルになっていた“本物の日本食”からは、ちょっと下がってしまったが、気候も食材もまったく違う国で料理をするには、この柔軟性が必要なんだろう。その一方で個人的には「“本物”とは一体なんだろう」と考えさせられもした。日本人は過剰に手を加えたものよりも、素材を生かしたものを愛する傾向が強いと思う。だが、外国人からしたら、それは手抜きに見えるときがある。

 アメリカ映画『ロスト・イン・トランスレーション』(ソフィア・コッポラ監督/フォーカス・フィーチャーズ、東北新社)では、主人公がしゃぶしゃぶ店で「客に料理をさせるなんて」と怒るシーンがあった。文化や習慣は難しい。だが、何ごとも伝えないことには始まらない。

 “本物”が通用しないという驚愕のオチだったが、どこか清々しい印象を受けた『ガイアの夜明け』ではあった。
(文=松江哲明/映画監督)

BusinessJournal編集部

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