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食品偽装、事件発覚は消費者・生産者双方にメリットなワケ~飲食店の「事故」はありえない?

文=有路昌彦/近畿大学農学部准教授
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食品偽装、事件発覚は消費者・生産者双方にメリットなワケ~飲食店の「事故」はありえない?の画像1「Thinkstock」より
 一流といわれるホテルや飲食店、百貨店などで食品偽装の実態が発覚し、社会問題となっていますが、そもそもこういった偽装は今に始まったことではありません。

 例えば、巻き網で漁獲したカツオが「一本釣りカツオのたたき」と表示されスーパーで売られていた例や、ブラックタイガーがクルマエビとして料理に出されていた例もあります。両方ともに10年以上前の話なので、昔から続いてきたことだと思われます。

 そもそも偽装が発生するのには、2つのパターンがあります。1つは小売り・外食という「実需者」が偽装するのと、2つ目は生産者や中間の仲買(商社)が偽装するパターンです。

 前者は最近話題になっているように、バナメイをシバエビとして料理に出していたケースです。確かにバナメイは優れたエビで、クルマエビの仲間なので美味しいものです。大量に海外(中国が中心ですが、輸出用はタイが多くを占めます)で生産されて、世界中のエビ需要を支えている優秀な品種ですが、最近特定のウイルス病が広まってきて、今後おそらくは衰退していくと考えられています。

 一方、シバエビはタイショウエビに近い仲間で、そもそもはそれほど高級なものではありませんでした。ただ、国産になりますし、バナメイが異様に安いこともあって、バナメイの倍くらいの価格がします。見た目も似てはいますが、値段や商品ロットの形態、仕入れルートも異なるので、飲食店側が間違って使っていたということはほぼありえません。そういう言い訳をしている企業や飲食店もいますが、それは料理人が「メバチマグロとクロマグロの区別もつかない」と言っているようなものなので、目利き能力の低さをアピールしていることにもなります。「あくまで事故である」とアピールしたいのでしょうが、食品リスクコミュニケーションの仕事をしてきた立場からすると、責任者が事実を明確にしたうえで再発防止の具体策を示すのが先であって、苦しい言い訳をするのは後回しにしたほうが賢明といえるでしょう。

産地偽装が横行するアサリ

 また、後者の生産者や中間の仲買(商社)が偽装するパターンでは、産地偽装というかたちで過去にもたびたび発生しています。

 例えば前出のエビのケースでは、プロのバイヤーであればすぐに区別が付きますし、価格に差も大きく、詐欺になりますから、流通段階で偽装が行われることはほぼないでしょう。しかし、「産地の偽装」はよく聞かれます。一例を挙げると、アサリのケースがあります。○○県産ということで仕入れたアサリで、半分くらい中国産や北朝鮮産がブレンドされているケースが多いです。一度海中の特定の場所に入れて、数日後に取り上げて産地をロンダリングするケースもあり、なかなか見分けがつきません。

 こういった偽装を防ぐためには、区別できる認証の仕組みが必要です。商品ロットの管理が明確であること、あるいは生産者や加工業者が流通・生産の段階で混入を防ぐために証拠を残しているか、そしてそれを第三者が認証しているか、というものです。エコラベルで使われるCoCという認証は、この混入を防ぐ認証です。こうした認証はまだ普及に至っていませんが、今後制度が整っていくことが望まれます。

 消費者が望むと実需者が望み、流通や産地に条件として提示するようになっていきますので、消費者の側から「産地偽装」に対する改善の要求が上がってくることはとても重要です。もちろん法令上は産地表示が義務化されていますが、残念ながらまだ飲食店の段階ではそれほど厳しく義務化されていない点も、食品偽装の広がりを助長させた要因と考えられます。

 一連の偽装発覚を「いまさら」と感じている外食業界関係者が多いようですが、こういった偽装を消費者側が問題視すると、消費者・生産者双方によい効果があります。なぜなら、消費者側は本物が手に入るようになるし、市場の識別性が働くようになって、本物の産地は偽物によって奪われていた市場と下がった価格による損失を取り返すことができるようになるからです。
(文=有路昌彦/近畿大学農学部准教授)

有路昌彦/近畿大学世界経済研究所教授

有路昌彦/近畿大学世界経済研究所教授

1975年福岡県生まれ。京都大学農学部卒、京都大学大学院博士課程修了後、大手銀行系シンクタンク研究員、民間経済研究所役員、近畿大学農学部水産学科准教授を経て現職。京都大学博士 (農学:生物資源経済学)。専門は水産、食料経済、事業化、リスクコミュニケーション。OECD水産委員会政府代表団員など各種国際会議委員、政府各種委員、自治体各種委員、内閣府食品安全委員会企画等専門調査会委員、日本水産学会編集委員、国際漁業学会事務局長理事等を歴任。現在、日本学術会議連携会員(食の安全部会幹事)、養殖業成長産業化推進協議会委員、内閣府規制改革推進会議地域産業活性化WG専門委員を兼務。食品に関する事業化や認証制度運用を手掛ける。「ウナギ味のナマズ」「におわないブリ」の開発者としても知られる。各種学会賞受賞。論文、連載、著書多数。著書に「無添加はかえって危ない」(日経BP)、「水産業者のための会計・経営技術」(緑書房)、「誤解だらけの「食の安全」」(日経プレミア新書)などがある。近畿大学支援の株式会社食縁は日本経済成長の鍵として、国産養殖水産物を世界に向けて加工輸出している6次産業化事業体である。

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