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すき家元店員、過酷業務の実態告白「鍋定食登場で地獄、退職続出、ワンオペで全部1人」

文=田沢良彦/経済ジャーナリスト
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すき家元店員、過酷業務の実態告白「鍋定食登場で地獄、退職続出、ワンオペで全部1人」の画像1ゼンショーが運営する「すき家」の店舗(「Wikipedia」より/Corpse Reviver)
 2月以降、アルバイト不足などが原因で牛丼チェーン「すき家」の一部店舗で一時閉店が相次いでいることが話題を呼んでいる。景気回復による労働力不足を象徴する現象として、しばしばメディアでも取り上げられ、すき家では24時間営業をやめる店舗も出ているという。

 一連の事態をめぐり、一部インターネット上などでは、そのすき家の労働環境に関してさまざまな情報・臆測が流れているが、「ワンオペの深夜に、客がダラダラ入って来るのはやめてほい」「無駄に多いメニューで現場はボロボロ……このままだと間違いなく潰れるよ」「ワンオペ11時間労働。狂ってる。すき家辞めてやっかんな、くそ」など、すき家の店員たちの書き込みと思われる声も多数寄せられている。

 でな、なぜすき家が新メニュー「牛すき鍋定食」を発売した2月以降、こうした事態が起こっているのだろうか。

新メニュー投入がもたらした過酷な業務

 すき家の持ち株会社ゼンショーホールディングス(HD)は当サイトの取材に対し、「現在(5月29日時点)、人手不足により一時閉店中の店舗は28店舗」と回答しているが、一部閉店の直接的な引き金は新メニュー投入にあるようだ。

 吉野家が昨年12月に発売したヒットメニュー「牛すき鍋膳」の対抗馬として、ゼンショーが鍋定食を発売したのが今年2月14日。メインメニュー数だけで吉野家の倍の40点もあるすき家の現場にとって、仕込みに時間のかかる鍋定食の投入は、かつてない労働強化を店員に強いることになった。

 すき家の元店員は、店舗における業務の実態について、次のように明かす。

「仕込み時間は牛丼の15分に対し、鍋定食は1時間。鍋定食はセントラルキッチンから配送された牛肉を1食分ずつ店内厨房の小鍋で煮て、豆腐、ネギなどの具材を添え、袋に詰めて冷蔵庫に保管する。この仕込みが大変で、本部から支給された鍋はバランスが悪く、鍋を急に動かすとつゆがこぼれる。本部は20分で仕込みができると言っているが絶対に無理。慎重な作業を要求されて時間のかる鍋定食の仕込みで、他の仕込みができない」

 ただでさえ忙しい立ち作業が、鍋定食の登場で「地獄のような作業になった」(同)といい、辞める店員が続出した。

 そんな状況でも働き続ける店員には、欠員のしわ寄せによる過酷勤務が襲いかかった。同元店員の3月の勤務実態は、休日ゼロで毎日12時間以上の労働を強いられ、延べ勤務時間は400時間を超えたという。この過酷勤務でついに体調が崩れ、4月下旬に退職せざるを得なかったという。

 こうした過酷勤務は労働基準法違反にならないのかとの疑問が浮かぶが、すき家のアルバイト店員は業務委託契約であり、すき家が雇用しているわけではないので、ただちに違反にはならないという。

ワンオペの実態

 業界内では、一連の閉店騒動が起こる前から、すき家の労働環境を問題視する声が多かった。

 その要因のひとつが、店内を1人で切り盛りする「ワンオペ(ワンオペレーション)」だ。別の元店員が、その実態を明かす。

「注文を受けるのも、全メニューの仕込み・調理も、代金を受け取り釣りを返すのも、食器の後片付けと食器洗い(すき家に食洗機はなく、手洗い)も、客席と便所の掃除も、その他もろもろの雑用も、何もかも全部1人で行わなければならない。精算に客が並んでほかの処理が後回しになると、客から罵声が飛んでくる」

 吉野家が社員店長とアルバイト店員の最低2人で店舗運営しているのと比べると、そのずさんな店舗オペレーションの実態が容易に推察できる。

 さらに深夜のすき家は、食い逃げ客や強盗のターゲットにもなっている。ワンオペなので食い逃げをされても追いかけられず、強盗に入られても防ぎようがない。警察庁の統計によれば、牛丼店を狙った全国の強盗事件は、未遂を含め2012年に32件、13年に34件発生しているが、このうちすき家の被害が85%も占めている。このため、ゼンショーHDは警察から再三にわたって深夜のワンオペをやめるように警告されているが、一向に応じる気配はない。

 外食業界関係者は「ゼンショーHDの小川賢太郎社長は、深夜に人を増やす人件費のほうが強盗の被害額よりも高いと考えているようだ」と苦笑する。

ワンオペをやめるつもりはない?

 こうしたすき家とゼンショーHDの苦境について、経営コンサルタントは「急成長のツケが回ってきた。外食産業は現場が勝負。会社が利益を追求し、効率優先でやろうとすれば現場が疲弊するのは当然。早急に労働条件を改善しなければ、すき家で働こうとする人は減る一方で、窮地に陥るだろう」と分析する。

 そんな懸念を尻目に、業界関係者は「小川社長は、自ら編み出し、『究極の効率運営』と自賛しているワンオペをやめる考えはないだろう」といい、その理由を次のように語る。

「そもそも小川社長は『人手不足は一時的な現象』との認識で、一時閉店に追い込まれた店舗の大部分が首都圏で、店員は学生アルバイトが大半だが、卒業で学生アルバイトが辞める時期に重なったためだと考えている。新入生も近年の景気回復で、すき家以外にアルバイト先はいくらでもある。今後は首都圏店舗での採用を、学生アルバイトからフリーターなどに切り替えていくだろう」

 ちなみに今後の対応について同社広報室は、当サイトの取材に対し「東京・品川(同社所在地)で全国約2000店舗をオペレーションする現在の体制を、エリアごとに7社に分社化することにより、経営トップと現場の距離を近くするなどの取り組みを行っていきます」と回答している。今後、果たしてすき家の労働環境が改善される日はくるのか、しばらくは人々の関心を集めそうだ。
(文=田沢良彦/経済ジャーナリスト)

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